「店長には内緒のサービス」キャバクラ昏睡強盗犯が提供した〝謎の液体〟 歓楽街で広まったウワサ

衝撃事件の核心

 「店長には内緒のサービスです。一気に飲んでください」。〝謎の液体〟を飲ませて眠らせた客から現金を奪ったとして、大阪府警は9月初め、強盗致傷容疑で、大阪・キタのキャバクラ従業員の男女3人を逮捕した。被害者は客引きに連れられて入店したキャバクラで、席に運ばれてきたショットグラス入りの茶色の液体を口にすると意識を喪失。気付けばコンビニのATMで多額の現金をおろしていたという。同店の開業は5月末。直後の6月以降、同様の手口による被害が府警に計6件寄せられており、3人が謎の液体を使って次々と客を落としていったとみられる。サラリーマンらが仕事のストレス発散や疑似恋愛を求めて、きらびやかな「夜の蝶」とのひとときを楽しむ歓楽街の一角で何が起きたのか。

「茶色の液体」サービス

 7月29日午後9時過ぎ、JR大阪駅から東約800メートルの居酒屋やガールズバーなどが立ち並ぶ「阪急東通商店街」の一角。同商店街を歩いていた50代の男性は客引きに連れられ、5階建てビルの4階にあるキャバクラに足を踏み入れた。

 府警によると、店にいたのは、後にこの男性に対する強盗致傷容疑で逮捕される従業員の藤原捷雅(しょうま)容疑者(24)とボーイの男(26)、ホステスの女(21)の容疑者3人だけだった。

 ボーイの男に案内されて席に座ると、すぐに注文していないショットグラスが運ばれてきた。

 「サービスです。一気に飲んでください」。ボーイに言われるまま、男性はグラスに入っていた「茶色の液体」を酒と思い一気に飲み干した。テキーラのような強い酒を飲んだ感触が口の中に広がった。

 ショットグラスはまた運ばれてきた。ボーイと隣に座ったホステスの女から「店長に内緒のサービスなんです。(不在の)店長が来るまでに飲んでください」と勧められるまま、ショットグラスを次々に空けた。カウンターにはボーイ姿の藤原容疑者もいたが、サービスを制止するような様子はなかった。

 男性は毎日のように晩酌し、アルコールには決して弱くないという自信があった。にもかかわらず、ショットグラス2~3杯を空け、さらに焼酎の水割りを1杯飲んだところで、キャバクラでの記憶が途絶えたのだ。

 目が覚めると、大阪府警曽根崎署で保護されていた。

操り人形のように

 男性が曽根崎署員に保護されたのは翌30日午前1時半ごろだった。同店に入ってから“空白”の4時間半の間に何があったのか。コンビニの防犯カメラが一部始終をとらえていた。

 男性がキャバクラに入店してから約2時間後の29日午後11時過ぎ。男性は操り人形のように藤原容疑者とボーイに両脇を抱えられながら、同店近くのコンビニに姿を見せた。すぐにATM(現金自動預払機)に連れて行かれ、20万円を出金。藤原容疑者がズボンのポケットに現金を入れると、男性の両脇を抱えてコンビニから出て行った。

 1回目の現金引き出しからわずか2分後。男性は再び2人に連れられて同じコンビニに入店した。ATMへ連れて行かれ、今度は引き出した20万円をボーイが手にして立ち去っていった。

 現金の引き出しは続く。日付が変わった30日午前0時50分ごろ、同じ2人に抱えられた男性が再びコンビニに入った。今度は2人を追うようにしてホステスも入ってきた。ATMから2回にわたって計40万円を引き出し、藤原容疑者とホステスがそれぞれ20万円ずつを手にした。

防犯カメラでお見通し

 男性は意識を失っている中、ATMから現金80万円を引き出され、さらに無理やりコンビニへ連れて行かれる際に全治約10日間の軽傷を負った。キャバクラに入店した29日はいわゆる「花の金曜日」。楽しい一夜のはずが悪夢へと一転したが、不幸中の幸いだったのが、ATMで4回目の引き出しが終わった直後、通行人から通報を受けた曽根崎署員がコンビニに駆けつけたことだった。

 署員はすぐに容疑者3人を職務質問したが、3人は「男性が納得して現金を引き出している。問題はない」と主張。男性も意識がもうろうとなっているため、「そうやねん」などと答え、被害の実態が分からなかった。

 同署員が男性の財布を確認すると、中には現金40万円が入っていた。実は、警察官がコンビニにやってきたことに気付いたホステスが、すぐさまATMから引き出した現金80万円のうち40万円を男性の財布に入れ、男性のズボンの後ろポケットに戻していたのだ。

 その様子も防犯カメラが記録していたが、その場で映像を確認することはできず、同署は容疑者3人の名前などを確認した上で、男性を保護。意識が回復するのを待って被害を確認し、昏睡(こんすい)強盗事件として本格的な捜査を始めた。

開店直後から被害申告

 男性が保護された時点で、すでにこのキャバクラは疑惑の対象だった。同店の営業が許可されたのは5月末だが、6月以降、同じように謎の液体を飲まされて意識を失い、知らぬ間にATMで現金を下ろしていたという被害が男性以外にも5件寄せられていたのだ。

 府警は謎の液体の正体を突き止めるため、8月3日に同店を家宅捜索。酒のボトル100本以上、市販の解熱剤4錠、カプセルに入った整腸剤1個を押収した。

 薬は人の意識を失わせるようなものではなかった。被害者の男性を保護した際に採取した尿も調べたが、液体の正体を突き止めることはできなかった。ただ、コンビニの防犯カメラ映像や男性の証言から、府警は9月1日、強制捜査に踏み切り、3人を強盗致傷容疑で逮捕した。

 逮捕された3人は、ATMでの現金引き出しを「正当な行為」と主張し、居直った。

 藤原容疑者は「客からもらった40万円は客が飲んだ分の正当な料金。暴力を振るったりしていないし、けがをさせたりは当然していない」と供述。ボーイも「まるで私たちが無理やり酒を飲ませたみたいになっているが、違います。自分で注文して飲んでいたと思う。一緒にコンビニに行ったのも、転んだりしないよう心配して抱えてあげただけ」と、コンビニへの同行はあくまで「善意」によるものだと訴えた。

 ホステスも「(客の)お金がなかったから、コンビニに行って客がATMを操作し、下ろしたお金を受け取っただけ」と同じく容疑を否認した。

「やばい」商店街でウワサ

 3人は容疑を否認しているものの、このキャバクラでの昏睡強盗被害は、阪急東通商店街でもうわさが広まっていた。

 ある商店街の関係者は「2~3杯酒を飲んだら記憶があいまいになるという話は、飲食店関係の人たちにとって有名な話だった」と打ち明ける。

 また、この関係者は「家宅捜索を受けた後も、藤原容疑者らの姿をたびたび見かけた。捜査の対象になっていることを気にする様子もなく、店の近くの路上で客引きの男とよくしゃべっていた」とも話す。

 捜査関係者によると、藤原容疑者らは家宅捜索後、夜になっても帰宅しておらず、近くの別の店で働いていた可能性があるという。

 大阪・キタや東京・歌舞伎町など、繁華街では昏睡強盗事件がたびたび発生している。過去の事件では、酒に睡眠導入剤が混入されていたり、アルコール度数96度のウオツカにウイスキーなどを混ぜて客に飲ませていたケースもあった。

 府警は、今回のケースについて、謎の液体の正体を解明しようと捜査を進めているが、3人が容疑を否認していることもあり、突き止めるには至っていない。押収した解熱剤なども事件とは無関係とみられる。

 ある捜査関係者は「酒に強い人が数杯飲んで意識を失うほどの液体なら、人によっては死んでしまったかもしれない。かなり危険な犯行手口だ」と語気を強めた。