警察官名乗り、自ら彼女のセクハラ示談交渉…19歳巡査の職を奪った〝軽率〟

衝撃事件の核心

 自分の交際相手がセクハラを受けていると知れば、どう対応すべきなのか。京都府警の19歳の巡査は、彼女に性的な嫌がらせをしていた相手と自ら交渉し、示談金100万円で決着を図った。しかしトラブルに発展し、府警から処分を受けて依願退職する羽目になった。示談金の金額を最初に持ちかけたのは相手の方で、示談金も実際に支払われていなかったが、府警は警察官を名乗って起こしたトラブルである点を重視。「倫理的に問題がある」と処分に踏み切った。

「警察官」の名刺渡す

 京都府警監察官室によると、ことの始まりは3月。元巡査が、交際相手の20代の女子大生=京都市=から受けた相談がきっかけだった。

 女子大生は当時、同じ大学に通う20代の男子学生からの過剰な身体接触や言動に悩んでいた。相談は「警察官としてではなく、あくまでも交際相手として受けた」(監察官室)という。

 元巡査が女子大生にしたアドバイスは2つあった。1つは「彼氏が怒っている」と伝えること、もう1つは、交際相手が警察官であることを明かすように-という内容だった。

 しかし、男子学生の行為は収まらなかった。そこで元巡査は5月中旬、2人が通う大学を訪れ、男子学生と接触。男子学生に京都府警の名刺を渡し、自身が警察官であると示した。男子学生は、元巡査に対し女子大生への行為を認めたという。

 「もめたくなくて警察官と明かした」。元巡査は監察官室の調べにそう釈明したというが、この行動が後に問題を大きくすることになる。

女子大生交えて面会

 最初に接触したとき、元巡査は女子大生の希望を男子学生に伝えている。それは「男子学生が休学すること」だった。しかし、男子学生にとって休学は簡単な選択肢ではないだろう。そう思った元巡査は休学の希望を伝え、「示談という選択もある」と提案した。

 その日は具体的な話はせず、そのまま別れ、5月下旬、再び話し合いの場が持たれた。今度は女子大生も交え、京都市内のショッピングモールで3人で面会した。このとき、男子学生が100万円を支払うことで示談とするよう持ちかけてきたという。2人は了承、示談金の支払期限は7月末までと決めた。

 問題は解決したかにみえた。しかし、示談金の支払いは口約束だったこともあり、元巡査は約束が履行されるのか不安になったのだろうか。7月末が近づくと、男子学生の携帯電話に支払い期日を確認するメールを十数回にわたって送信した。

 7月中旬になって、男子学生が支払いに困って親族に相談。親族は「警察官による恐喝ではないか」と思い、男子学生を伴って府警に相談し、ついに事態が明るみに出た。

100万円は高い?

 元巡査の行動に、どんな問題があったのだろうか。

 示談金の100万円という金額について、セクハラ問題に詳しい船橋恵子弁護士(京都弁護士会)は「セクハラの内容や被害者側の心身の状態によっても大きく異なるものの、100万円という示談金は一般的な示談の範囲内」と語る。

 代理人による示談交渉も一般的によくあること。今回も「彼氏」ということを明言しているため、元巡査が示談交渉に臨むことは問題はないようだ。

 では、何がいけなかったのか。「示談の仕方に問題があったのではないか」と船橋弁護士。示談は、正式な書面がない場合でも両者が合意さえすれば、口頭や電話のやり取りでも成立する。だが、書面にしておかなければ、片方が急に態度を変えた場合、示談金が支払われないケースが考えられるという。書面として「示談書」を残すのが一般的なのだ。

 こうしたトラブル時の対処について、船橋弁護士は「当事者ではなく、冷静に話ができる人が対応するべきだ」と指摘した上で、今回のケースの特殊性に言及した。

 「本人にその意識がなくても、警察官という立場が圧力になってしまうことがある。社会的立場も考えると、直接乗り出すのではなく、第三者に相談するべきだったのではないか」

安易な選択が将来奪う

 男子学生の親族から相談を受け、事態を把握した府警は恐喝容疑での立件も視野に入れ、捜査を始めた。しかし、男子学生が行為を認めていること、被害届を提出する意思がなかったことなどから、立件を見送った。

 元巡査は監察官室の調べに対し「恐喝の認識はなかった。思わず示談と言ってしまった」と釈明した。府警は「トラブルを起こしたことは倫理的に問題がある」とし、元巡査を減給10分の1(6カ月)の懲戒処分に。元巡査は依願退職した。

 元巡査が警察官だと名乗ってことを収めようとしたところに、トラブルの萌芽(ほうが)があった。警察への社会の視線も厳しくなる中、警察官の身分をちらつかせて相手を引き下がらせようとしたことが、かえって問題を大きくする格好となった。

 ただ、女子大生に過剰な身体接触などの行為をしたのも、示談金の金額を示したのも男子学生の方。元巡査の言動も恐喝罪に問えるほどの悪質性はない。それでも処分が下されたのは、警察官という仕事が、それだけ厳しく己を律することが求められるということだろう。