【ニッポンの議論】サマータイム 働き方改革への追い風/睡眠不足から健康被害 - 産経ニュース

【ニッポンの議論】サマータイム 働き方改革への追い風/睡眠不足から健康被害

サマータイム導入 賛成のケント・ギルバート氏(右)と反対の神山潤氏
 夏の時間を1~2時間繰り上げるサマータイム(夏時間)導入の是非を検討する議論が自民党で始まる。平成32(2020)年の東京五輪・パラリンピックの酷暑対策として大会組織委員会が政府に提案したことがきっかけだ。省エネ効果や消費拡大が期待される一方、健康への悪影響も指摘される。過去にも浮かんでは消えてきた導入の是非について、米カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバート氏と、日本睡眠学会理事の神山潤氏に聞いた。
ケント・ギルバート氏
 --サマータイムをどう思う?
 「導入に大賛成だ。経済界や学識者で構成する日本生産性本部のサマータイムに関する会合に参加するなど長年、議論に関わってきた。日本の夏至の日の出の時間は地域によって異なるが、午前3時半から5時半の間。それなのに、多くの人は6時以降に起きている。明るい時間に寝ているのはもったいない」
 --日本では導入論がわき起こっては消えてきた
 「現在、経済協力開発機構(OECD)加盟国では35カ国中31カ国がサマータイムを導入している。日本では主に省エネ目的で議論されてきたが、『生き方改革』という観点から考えてみるべきだ。明るい時間を無駄にせず、仕事の後にスポーツで汗を流したり、子供と公園に行ったりすることができる。美術館や遊園地が遅くまで営業すれば平日もゆっくりと楽しめる。家族とのコミュニケーションが増え、ボランティア活動も促進される。経済波及効果も見込まれている」
 --混乱しないのか
 「コンピューターの設定や航空・鉄道ダイヤの変更に伴う混乱を不安視する人が多いが、導入国ではクリアされている問題をなぜクリアできないのか。電波時計の普及が進み、家電製品に内蔵されている。タイマーも自動修正されるものがほとんどだ」
 --労働強化を懸念する声もある
 「日本では終戦直後に連合国軍総司令部(GHQ)の指示で実施された。労働時間が延びたことなどから4年で廃止されたが当時と現在では経済状況がまったく異なる。いつの時代の話をしているのかと疑問に思う。国会に“化石”がたくさんいるから、問題点は整理されているのに議論が進まない」
 --欧州連合(EU)では健康への影響を理由に廃止する可能性がある
 「日米を往復する機会が多いが、3日もすれば体内時計はもとに戻る。サマータイムは白夜の北極圏内を除き、夏の日照時間の長い中高緯度地域でメリットがある。特に東京は同じような緯度にある世界の多くの都市に比べ夏至の日没時間が1時間以上も早いので利点は大きい」
 --導入されれば、東京五輪・パラリンピックでの競技も早朝からスタートできる
 「今回は五輪の暑さ対策が議論のきっかけになったが、国民全体の幸せを考えて議論すべきだ。日本人は日常生活を楽しむことがまだまだ苦手。米国人の多くはサマータイムを楽しみにしている。議論をきっかけに、日本人も豊かな暮らしを楽しめるようになってほしい。(先の国会で)働き方改革関連法が成立した。サマータイム導入は働き方改革の追い風にもなるはずだ」(政治部 長嶋雅子)
 ケント・ギルバート 昭和27(1952)年、米ユタ州出身。55年、米ブリガムヤング大大学院修了後、東京の国際法律事務所勤務。バラエティー番組出演で人気タレントに。講演や執筆活動を行う。
神山潤氏
 --サマータイム導入が検討されている
 「健康への影響を考えれば賛成できない。ロシアは2011年に制度を廃止したが、その最大の理由は健康被害。夏時間への移行時に心筋梗塞が増加していたことが分かったためだ。スウェーデンの研究グループも夏時間となった最初の週に心筋梗塞発生の危険が3・9%高まることを12年に発表している。他にも脳卒中や交通事故が増えるという報告があり、導入している国でも見直しの機運が高まっている」
 --なぜ健康に悪影響が出るのか
 「心筋梗塞は夏時間開始で1時間早く起きる必要から睡眠時間が減り、心血管系に悪影響を与えたのが原因とされる。海外への行き来で時差ぼけとなる人は多いが、これは脳に備わっている体内時計が時刻変動にすぐに対応できるようにはなっていないためだ。ドイツでの大規模調査で、時刻変動に慣れるには数週間かかることが分かっている。とくに小児や高齢者、病人など健康弱者にとって時刻変動によるリズムの変化は悪影響をもたらす可能性が高い」
 --日の出に合わせた起床時間は健康に良さそうだが
 「朝はいいかもしれないが、夜はどうか。アフターファイブも明るいので余暇時間が増えるというが、1日24時間が25時間や26時間になるわけではない。欧米各国と比較すると日本人の睡眠時間は30分以上短く、短い睡眠時間は肥満や生活習慣病、鬱病などをもたらし、健康リスクを高める。現状でも日本の夏は夜の早い時刻は気温が高く早寝が難しい。サマータイム導入でさらに睡眠時間が減れば、健康へのデメリットは計り知れない」
 --省エネや経済効果が期待される
 「省エネはロシア、フランスでは否定されており、日本における試算でも効果は否定的だ。経済効果についてはいろいろな試算がある。ただ、日本政府は東日本大震災後の平成23年4月、コンピューターや産業機械の時刻を変更するのに膨大なコストがかかる上、実施に伴う社会的混乱を懸念して導入を見送っている。時刻変更にかかるコストは今も同じで、状況がよくなっているわけではない。そもそも経済効果のための実施なら、東京五輪と絡める必要はなく、もっと時間をかけて検討すべきだ」
 --五輪・パラリンピックの暑さは深刻だ
 「暑さが厳しい日中は屋内競技だけにして、屋外競技は午前4時から8時と、午後6時から10時に行うなど工夫するしかないだろう。早朝や夕方以降の競技のための調整はアスリートには負担だが、あらかじめ時間が分かっていれば可能だろう。日本中の時刻を変更する必要性はない」(文化部 平沢裕子)
 神山潤(こうやま・じゅん) 昭和31年、東京都出身。東京医科歯科大卒。同大助教授などを経て、平成21年から東京ベイ・浦安市川医療センター院長。専門は臨床睡眠医学。著書に「『夜ふかし』の脳科学」など。