【2020年へのバトン】(中)アジア大会は“実戦テスト” 酷暑対策 - 産経ニュース

【2020年へのバトン】(中)アジア大会は“実戦テスト” 酷暑対策

 ユニホームにいくつも三角形の穴が空いていた。のぞく肌に玉のような汗が浮かぶ。「熱がこもると思ったので自分で穴を開けた。東京五輪も、このくらいの暑さならレースできる」。男子50キロ競歩を制した勝木隼人(自衛隊)は、こう言って胸を張った。
 8月30日、午前6時から行われたレース。湿度や放射熱などを加味した「暑さ指数(WGBT)」は28度を超えた。日本陸連の杉田正明科学委員長によると、「原則、持久系の競技は中止するライン」という過酷な状況だったにもかかわらず、勝木には余裕があった。
 2キロごとの給水ポイントで今村文男コーチから氷を入れた帽子を受け取り、その都度、かぶり直して4時間以上歩き続けた。「脳の温度を上げない対策。明らかに効果があった」
 2年後の東京五輪では男子50キロ競歩が午前6時、男女の20キロ競歩とマラソンが同7時スタートだ。早朝とはいえ徐々に太陽が昇り、厳しい暑さが予想される。人間は深部の体温が40度を超えると運動機能が低下し、脱水や熱中症になる危険性が高い。
 高温多湿のジャカルタでのアジア大会を、日本勢は「仮想2020年」と位置づけ、さまざまなテストを行っていた。男子マラソンでは井上大仁(MHPS)が給水で工夫を凝らした。小型ポーチに特製ドリンクと水、保冷剤を詰め込み、まとめて受け取った。保冷剤は握って、手のひらで血液を冷やして循環させ体温上昇を防ぐ狙いだ。
 効果は大きく金メダルにもつながったが、気になる異変が1つあった。序盤の10キロすぎに両ふくらはぎをつりそうになったのだ。それを井上から聞いた杉田委員長は「冷えると血流が良くなくなる。(手の冷却は)体が温まっていないと危ない」とアドバイスしたという。実践したからこそ得られた教訓だった。
 日本陸連ではレース前後に選手の体重と体温を測定。レース中もサーモグラフィーで体の表面温度をチェックした。収集したデータを分析し、選手個々に合った方策を探っていく。
 暑さと対峙(たいじ)するのは陸上競技だけではない。セーリングではレースの合間に首を冷やすベルトを試験導入した。これまで海水を浴びて体を冷やしていたという女子470級優勝の吉岡美帆(ベネッセ)は「頭がすっきりした。これからも使っていきたい」と気に入った様子だ。
 「馬もバテる」と語った馬術の照井慎一監督は今大会中、試合を控えた練習で馬のクールダウンに努めたという。動いた後にしばらく歩かせたのに加え、扇風機で風を当てた。「東京五輪では厩舎(きゆうしや)に冷房も必要になる。ただ、冷やしすぎると屋外に出たときに寒暖差でバテてしまうので、うまく調整しないといけない」と見据える。
 国立スポーツ科学センター(JISS)は大会後、全競技団体を対象に暑熱対策の現状などに関するアンケートを実施する。類似の課題を抱える競技団体同士の横の連携を図るなど支援を進める。中村大輔研究員は「それぞれの競技で良いパフォーマンスを発揮してほしいのはもちろんだが、選手の健康を守るためにも対策に取り組んでいかないといけない」と話している。