スランプ脱出へ導き出した答えとは  水面舞う“蝶”池江璃花子(3)

オリンピズム 道 東京へ
2017年7月の世界選手権で悔しそうな表情を見せる池江=ブダペスト(恵守乾撮影)

 「本当にうれしい…」。中学校を卒業して1カ月足らずの池江璃花子(ルネサンス)は言葉を詰まらせた。2016年4月の日本選手権。女子100メートルバタフライで初めて日本一となり、念願だったリオデジャネイロ五輪の代表切符をつかんだのだった。

 前年の世界選手権代表選考会では、予想外の予選落ちを経験。一抹の不安が脳裏をよぎる中で、夢を実現させた。

 とはいえ、五輪を目指してから2年にも満たない。中学2年夏に中学記録を更新して「五輪」を意識するようになった後、瞬く間に日本トップに躍り出ただけに「五輪がどんな舞台か想像もできない」状態だった。ところが4カ月後、世界ランキング14位で迎えたリオ五輪本番で“水を得た魚”となる。

 世界の名だたる強豪と肩を並べ、最も緊張する五輪初日の予選。いきなり57秒27の日本新記録を樹立すると、準決勝で57秒05、翌日の決勝では日本人初の56秒台へと突入する56秒86をマークした。泳ぐたびに記録を塗り替える驚異的な強さを見せ、気がつけばメダル争いに加わっていた。3位表彰台までの差はわずか0秒23という5位だった。

 「緊張したけど、スタートラインに立った瞬間、やる気が湧き上がってきた」

 レース後のこの言葉に、計り知れない強さを感じたのは母・美由紀さんだ。「この心があれば、いつかは自分の目標に届く選手になってくれるはず。頼もしいな」

 ところが、大舞台でリレーを含む7種目12レースを泳ぎ切った五輪後、思わぬ悪夢に襲われる。心にぽっかり穴があいたように、練習に身が入らなくなったのだ。じわり体をむしばむ脱力感…。東京五輪のメダル候補として騒がれ、練習以外でも多忙になった。十分な休養が取れないことで、右肩に痛みも発症した。

 リオ五輪翌年の世界選手権ブダペスト大会100メートルバタフライで、主要国際大会初のメダルに挑んだものの、6位に沈む。「こんなに練習しないと、結果に出るんだ」。現地まで応援にきてくれた家族の前で泣き崩れた。

 かつて、日本代表の萩野公介を指導する平井伯昌監督に助言を求めた際、「試合や練習で逃げてはいけない」と諭されたことがある。今の自分は何を求め、何が必要なのか-。追い詰められ、ギリギリの精神状態の中、自身の心に問いかけ続けた。

 導き出した答えは「どんな練習も全力でやる」こと。“才能の塊”は世界大会で勝つため、一切の甘えを捨てた。

 決断したのは異国での武者修行だ。舞台は、日本から赤道を越え約7千キロ離れた豪州の地。“ぬるま湯”につかっていた自身と明確に決別し、覚悟を持って新たな地へ。

 今年1月。まなじりを決して1人、見知らぬ土地に立った池江が、初めて襲われたスランプから脱出するのにさして、時間はかからなかった。(西沢綾里)