PR

スポーツ スポーツ

【勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一】(178)ドラフト浪人 入団拒否会見 まるでロボット

クラウンへの入団拒否を発表する江川と船田元衆院議長(右)
クラウンへの入団拒否を発表する江川と船田元衆院議長(右)

 クラウンとの交渉を拒否した江川家には連日、知人やファンからの電話がかかってきた。父・二美夫によれば「70対1」で「行くな」が多かったという。江川家は世間の声を気にした。

 拒否賛成-という世論の盛り上がりを二美夫は待っていた。そんな中、12月1日、直腸腫瘍で入院中の岡野祐(たすく)パ・リーグ会長が病床からコメントを発表した。

 岡野祐-昭和35年に阪急ブレーブスの球団代表に就任。西本幸雄監督とひと悶着(もんちゃく)(第54~56話参照)あったあの岡野である。43年に4代目パ・リーグ会長に就任していた。

 「リーグの構成球団は一心同体、運命共同体です。江川選手がクラウンに入団されることを、リーグ全体が切望しています。大手を広げて待っています」

 行くな、来てくれ-世間の声がピークに達した12月3日、江川親子は結論を持って東京・平河町の船田事務所を訪ねた。午後3時、記者会見が始まった。船田自らが短い声明文を読み上げた。

 「ええ、結論としてクラウンからの要請をお断りすることになりました」

 会場がどよめいた。それは予想に反したからではない。表立った形での交渉の場も与えられず、いきなり〝最後通告〟の形で拒否を突きつけられたクラウンへの同情に近かった。

 江川は母校・作新学院の「職員」として後輩たちの練習を手伝い、翌年の夏に渡米。南カリフォルニア大で体を鍛えながら次のドラフトを待つ〝ドラフト浪人〟を選択したのである。

 --なぜ、拒否を-という質問に、江川は前もって用意されたメモを読み上げた。

 「なじみのない球団で、ファンに満足してもらえるかどうかわからない。九州は遠距離なのでこれまでお世話になった人々に見てもらえない。長男として近くにいて親孝行をしたいからです」

 高校時代からずっと江川の取材を続けてきたアマ野球担当の名取和美先輩は、会見で淡々と話す江川に驚いたという。

 「まるでロボットのように、目には自分というものがなかった。江川君はこんな子じゃない-と思った」

 こうして江川は、あの「大騒動」への第一歩を踏み出したのである。

(敬称略)

関連トピックス

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ