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【末續慎吾の哲学】未来をつくる言葉

 先の見えない状況が続いている。新型コロナウイルスの感染が世界的に広がり、人の不安もウイルスのように伝染している。

 未知の現象なので対処が難しいことは分かるが、世間を飛び交っている言葉が、どうも“雑”だなと思う。もっと丁寧な情報の伝え方があるのではないか。もっと前向きにできないものか。閉塞(へいそく)感がものすごい。これでは気持ちから病気になりそうだ。

 こう感じてしまうのは、アスリートを長くやってきたからかもしれない。スポーツの現場では、最悪な状況になっても「未来をつくる言葉」を使うことが多いからだ。例えば、目の前にレースがあったとする。実力や調子から見て、ある選手は出場選手の中で3番手くらい。1番になりそうな選手とは大きな差がある。だが、その3番手の選手はそのことを十分自覚しつつもトップを目指している。そういったとき、どんな声を掛けたらいいだろう?

 「どうせ3番だからリラックスして臨もう」と言うのは無責任だ。「よし、1番目指そう」と安易に言ってしまうのも、やはり無責任。私なら「今できることと、それに対する未来」を伝える。「今こうだから、こうしよう。そうすればお前にしかできない結果が出る」といった具合に。状況が絶望的でも、それを認めた上でなお、未来へと引っ張る言葉を伝えたいと思う。

 人は想像の及ばない事象に対しては恐怖や不安を感じるものだ。そして、突然それが目の前に来ると、受け止めきれない。場合によっては自分にとって都合の良い情報の方向に走ってしまったり、よく考えたり見極めたりせず、これまでの経験だけに基づいて判断してしまったりする。

 このような難しい状況のとき、いわゆる「正論」を投げ掛けただけでは人の心は動かない。一方的で乱暴なコミュニケーションは何も生まない。前に進む力を絶やさないように、丁寧に気持ちを作り上げていくことが重要だ。不安は不安として受け止め、混乱しないよう配慮しつつ、頑張れば何かしらの道は開けるという心情に持っていく。そうでなければ頑張ることすらできなくなる。

 人には本来、何かを生み出そうとする力が備わっているはずだ。ネガティブな時に求められるのはポジティブな言葉。奮い立たせるリーダーだ。今は品のないネガティブな言葉が氾濫し、暗く感じる。どの世代が牽引(けんいん)していたら世の中は変わるのだろうか。

 僕自身、3月中に予定していた陸上教室や講演が全て延期になった。一度、足を止めると、流れる時間の“密度”が変わる。そうすると、今、必要でなかったことが見える。本当にやりたかったことも見えてくる。ポジティブさを保ちながら、自分を省みる機会にできたらいい。

(陸上世界選手権200メートル、北京五輪400メートルリレーメダリスト)

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