スポーツ スポーツ

【パラ・パワーリフティング】男子65キロ級 佐野「駆け引き」制し優勝2位奥山も日本記録樹立

 パラ・パワーリフティングの大会で国内最大級の「第20回 全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会」が2月1、2日に、日本工学院八王子専門学校の片柳記念ホール(東京都八王子市)で行われた。東京パラリンピックを見据えた各階級の選手が奮起し、逆転に次ぐ逆転など手に汗握る試合が展開され、9の日本記録が更新された。

逆転に次ぐ逆転を演じ、会場を沸かせた男子65キロ級の表彰台。(左から)2位の奥山一輝選手、優勝した佐野義貴選手、3位の城隆志選手
逆転に次ぐ逆転を演じ、会場を沸かせた男子65キロ級の表彰台。(左から)2位の奥山一輝選手、優勝した佐野義貴選手、3位の城隆志選手
その他の写真を見る(1/5枚)

 男子9階級、女子6階級、ジュニア(14歳の誕生日を迎えた後に訪れる1月から、20歳になった年の12月末まで参加可能)、海外からの招待選手3人、合わせて54人が出場した。

 今大会の記録は、東京パラリンピックに出場するために必要な基準(参加標準記録)として残るが、実際に出場する選手が決まる東京パラリンピック・ランキングには反映されない。

3秒の試技

 パラ・パワーリフティングでは、下肢に障害を持つ選手がベンチプレスで持ち上げたバーベルの重さを競う。試技は3秒ほどで終わるものの、バーベルをいったん胸の上で止める、バーベルを左右平行に挙げるなど、見た目の美しさも重視。3人の審判員のうち、2人以上が「成功」の判定を出すと大会の記録として認められる。1選手につき3度試技が行われ、成功した一番重い重量が各選手の大会の記録として残る。

 パラ・パワーリフティングには、3度の試技を行ったあと日本新記録に挑戦できる4度目の試技、特別試技がある。大会記録や順位には影響しないが、日本新記録を出せた場合、正式な記録として残される。第3試技までを終えた選手は、この日の手ごたえをもとに日本記録に挑戦。次々と新記録が生まれた。

逆転に次ぐ逆転

 激戦区の男子65キロ級では、第1試技で日本記録を持つ佐野義貴(よしき)選手(51、EY新日本有限責任監査法人)が、133キロ挙げに成功。続けてルーキー奥山一輝選手(22、順天堂大学)が135キロに挑んだが、これに失敗してしまう。(※カッコ内は年齢、所属の順。以下同)

 選手は重量を自身で指定する。重量が軽い順に試技に挑戦するので、ここから競技の駆け引きは始まっている。

 第2試技、佐野選手が138キロで失敗したが、奥山選手が139キロに挑戦、これを挙げて逆転に成功した。

 第3試技、この日の検量で奥山選手より体重が軽い佐野選手は優勝を狙い奥山選手と同じ139キロを指定、再度の逆転に成功した。選手が同重量に成功した場合は、当日の検量結果で体重の軽い選手が勝ちとなる。

139キロを挙げ、手ごたえを得た表情の佐野選手(中央)
139キロを挙げ、手ごたえを得た表情の佐野選手(中央)
その他の写真を見る(2/5枚)

 あとがなくなった奥山選手は、優勝を狙い、140キロを指定したが失敗。佐野選手の優勝が決まった。

 続いて、日本記録に挑戦できる特別試技を迎えた。このときの日本記録は、佐野選手が持つ140キロ。日本記録には、500グラムごとに挑戦できる。佐野選手が140.5キロを指定すると奥山選手は、さらに重い141キロを指定した。日本記録をかけ、500グラムを争う両雄の選択に会場のボルテージは最高潮に。

 先に挑戦した佐野選手は挙げきれなかったが、奥山選手が141キロを挙げて、日本記録を更新した。

141キロで日本新記録を樹立し、喜びを爆発させる奥山選手(中央)
141キロで日本新記録を樹立し、喜びを爆発させる奥山選手(中央)
その他の写真を見る(3/5枚)

重量指定でベテランの駆け引き光る

 「駆け引きは、まだまだ、僕のほうが、強かった」

 男子65キロ級で優勝した佐野選手は、ゆっくり、勝利をかみしめるように言葉を紡いだ。

 第1試技で指定した133キロは、奥山選手が指定した135キロより軽い。佐野選手は「(奥山選手より低い重量から始め)追いかけていく立場から、先にバーベルの持ち上げに成功しプレッシャーを与える」作戦を決行、これが見事に当たった。

 佐野選手は「重量よりも、この大会で奥山選手に勝つことを目標にしてきた」と大会にかけてきた意気込みを明かす。競技を終え「奥山選手に勝てたことが一番の収穫」と納得の表情で話した。

新記録樹立で鍛錬の成果実感

 一方の奥山選手は、第1試技で、失敗した場面を「いい調子でやっていこうと臨んだが、片方だけが上がってしまうという悪い癖がでてしまった」と反省した。

 第2試技で139キロを成功させた際に「軽い」という感覚を持った。その感覚をもとに特別試技では141キロを選択。成功の場面を「恐れる気持ちを抑えて戦えた」と振り返った。

 大会を終え、「(自分は)波に左右されるが、悪い波が来たところを断ち切り、いい波にもっていけたことが今日の収穫」とした。自身の成長について、「昨秋は140キロを挙げられなかったが、今日は139キロを軽く感じられたことから、日々のトレーニングの手ごたえを実感している」と話した。

 大会を通じ、奥山選手の成長を一番実感していたのは優勝した佐野選手だった。佐野選手は、「今日は勝てたが、奥山選手は僕よりも重い重量を軽く挙げた。来週から打倒・奥山選手として、追いつけるようなトレーニングをしていきたい」と危機感をあらわにした。

西崎選手、3階級で日本記録樹立

 男子49キロ級では、西崎哲男選手(42、乃村工藝社)130キロを挙げ、初優勝。特別試技では、135.5キロで日本記録を樹立した。

日本新記録を樹立し、客席の声援に応える西崎選手
日本新記録を樹立し、客席の声援に応える西崎選手
その他の写真を見る(4/5枚)

 西崎選手は、東京パラリンピックへ出場する可能性を高めるため、59キロ級から減量を重ね49キロ級に転向した。59キロ級で138キロ、54キロ級で142キロの日本記録も所持している。今大会、49キロ級でも記録を出したことで、3階級の日本記録保持者となった。

 西崎選手は、第1試技で127キロ、第2試技で130キロを挙げ、第3試技で133キロに挑戦。試技では、胸の上でバーベルをぴたりと止めなくてはならないが「胸でちょっとバウンスしてしまった」感覚があり、失敗。だが、「力的にはまだまだいける」と手ごたえを感じていた。

 特別試技を迎えるにあたり、英国人の世界的指導者で日本代表のヘッドコーチを務めるジョン・エイモス氏と一緒に修正点を確認。これが奏功し、日本記録樹立となった。西崎選手は「うれしい。日本記録が一番の目標だった」と笑顔で話した。

コーチとの絆で実力着々

 健常者のパワーリフティングと大きく違う点に、コーチがステージ上まで付き添えるというものがある。コーチは、下肢が不自由な選手のために、バンドで下肢を固定したり、声がけをして集中を手伝ったり、声を掛け続けて気持ちを鼓舞したりできる。

 なかにはステージ上で、力を入れることができない下肢に、無意識にけいれんが起こってしまう選手もいた。そのままでは試技を行えないため、コーチが足を押さえて鎮める場面も見られた。

 今大会とは別に、2月20日から英マンチェスターで行われる国際大会と、4月にドバイで行われる国際大会は、東京パラ出場のランキングに関わる。この2大会を本番と見据える西崎選手は、エイモス・ヘッドコーチに「今日は、トレーニングの延長で楽しめ。ただ、一本一本集中しろ」とアドバイスを受けた。

 日々のトレーニングでも、「メニューはコーチに任せていて、与えられたものを淡々とこなすだけ」と全幅の信頼を寄せる。

 パワーリフティングは、筋力もさることながら、ステージ上での集中力に結果が大きく左右される。エイモス・ヘッドコーチは「西崎選手には短い時間でも効果の高いトレーニングを課している。また、サイコロジカルシンキングを中心に鍛えている」と明かした。

 西崎選手の所属する乃村工藝社の社員ら応援団による、怒濤の応援も会場を大いに盛り上げた。西崎選手は、「やはり、(応援には)安心感をいただける。集中できるし、声に力をもらえた。第3試技で失敗して、気持ちに焦りが出るところで声に助けてもらい、特別試技で集中でき結果が出せた」と話した。

応援の声が直接選手の力に

 会場では、観客席からの応援に選手が大きくうなずき、試技を成功させるなど、声援が直接選手の力になる場面が多く見られた。男子59キロ級で優勝した光瀬智洋選手(26、シーズアスリート)が試技の直前、集中を終え「行きます!」と掛け声をかけると、会場から「行け!」「挙げろ!」といくつもの返事が返ってきた。パラ・パワーリフティングの会場は、パラリンピック競技会場のなかでも、選手と観客の心の距離が近く、屈指の一体感を醸成していた。

135キロを挙げ優勝が決まり、雄たけびを上げる光瀬選手(中央)
135キロを挙げ優勝が決まり、雄たけびを上げる光瀬選手(中央)
その他の写真を見る(5/5枚)

 今大会で日本記録を更新した選手は次の通り。

(階級/名前、敬称略/記録)

男子49キロ級/西崎哲男/135.5キロ

男子65キロ級/奥山一輝/141キロ

女子41キロ級/成毛美和/58キロ

女子61キロ級/龍川崇子/62キロ

女子67キロ級/森崎可林/67キロ

女子79キロ級/坂元智香/75キロ

ジュニア男子49キロ級/中川翔太/40キロ

ジュニア男子65キロ級/大宅心季(おおや・しき)/81キロ

ジュニア女子67キロ級/森崎可林/67キロ

(フジテレビ)

ランキング