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【井崎脩五郎のおもしろ競馬学】男女の会話にも長い歴史の格調

 前を歩く年配のカップルが、映画「カサブランカ」の話をしている。12月28日(土)、中山競馬場の帰り道である。

 「最終レースのベストウィッシュCって、あったろ」

 「ええ」

 「あのベストウィッシュって、カサブランカに出てきたセリフだっけ?」

 「どのあたりのシーン?」

 「最後の空港のシーン。イングリッド・バーグマンが、ハンフリー・ボガートに別れを告げるところ」

 「ああ。あれはGod bless you。お元気で、と言っているわ。ベストウィッシュ(Best wish)は、ニュアンスは似てるけど、幸あれ、という意味よね。日本で、年末に人と別れるとき、よいお年をと言うじゃない。欧米では同じ意味をこめて、ベストウィッシュと言うのよ」

 そうなのかなあと、後ろでこっそり聞き耳を立てていて、ひとつ勉強してしまった。

 それにしても、このお二人、どういう関係なんだろうと、同じ歩調で前へ進みながら詮索(せんさく)していたら、「夕ご飯、何にしようか。お母さんはおすしとろうと言ってたけど…」。このひと言で夫婦であることが分かった。競馬帰りに、こんな話をしている夫婦がいるんだなあ。感心してしまった。聞き耳立てて、ごめんね。

 われわれが歩いていたのは、中山競馬場から総武線の下総中山駅に向かう、法華経寺に近い長い下り坂だったが、そういえばここは、小説の舞台になったところなんだよなあと思い出した。古井由吉(ふるい・よしきち)の「中山坂」。

 文芸評論家・湯川豊の「一度は読んでおきたい現代の名短編」(小学館新書)にもこの小説は紹介されており、ラストについて、「この話の結び方、最上のものといっていい。たまたま参道の坂道で出会った女と老人の、半日の人生が見えてきて、楽しくももの悲しい。短編小説を読む体験というのは、そういうものではないか、と改めて思うのである」。

 法華経寺(1260年創建)の長い歴史が、格調ある空気を一帯に生んでいるのかもなあ。(競馬コラムニスト)

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