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【視覚障害者柔道】若手ホープ瀬戸が藤本の猛攻をかいくぐり連覇

 視覚障害者柔道の大会で国内最大級の「第34回全日本視覚障害者柔道大会」が12月8日、東京都文京区の講道館で行われた。激戦区の66キロ級では、昨年初優勝を果たした若手ホープの瀬戸勇次郎選手(19、福岡教育大)が、1996年のアトランタ・パラリンピックからの3連覇を含む5個のメダルを保持する“レジェンド”藤本聡選手(44、徳島視覚支援学校)を下し連覇を果たした。

※選手の後ろのカッコ内は年齢、所属団体の順。

 前半は相手のペースに翻弄された。藤本選手が続けざまに繰り出すともえ投げから、側転をするように逃れて着地するという場面が目立った。

藤本聡選手(右)の猛攻から逃れる瀬戸勇次郎選手
藤本聡選手(右)の猛攻から逃れる瀬戸勇次郎選手
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 「このままでは負けてしまう」。中盤、藤本選手の三角絞めにとらえられた。瀬戸選手は、畳を蹴り、「待て」の宣言を受けようと自分の体を場外に近づけた。三角絞めがきつく絞まり、次第に意識が薄れていくなかで、「早く『待て』の宣言がかかってくれ」と願った。(降参の合図である)タップをしなければ…と考えたところで間一髪、審判から「待て」の宣言。「ここで『待て』がもう少し遅かったら、タップしていた」

藤本聡選手(左)の三角絞め
藤本聡選手(左)の三角絞め
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 残り1分を切ったとき、瀬戸選手が得意の背負い投げを仕掛けた。藤本選手は直前に仕掛けた三角絞めの足の疲れから踏ん張りがきかず、瀬戸選手に「技あり」の判定。そのままけさ固めで押さえ込み、合わせ一本となった。

けさ固めで押さえ込む瀬戸勇次郎選手(右)
けさ固めで押さえ込む瀬戸勇次郎選手(右)
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 試合後、瀬戸選手は「攻められっぱなしで、試合内容はよくない。勝ててほっとした」と胸をなで下ろした。「狙っていたわけではないが、藤本さんが三角絞めで疲れていなかったらあの背負い(投げ)は決まらなかった」

 瀬戸選手は今後の強化ポイントとして「積極的に攻める」と「技の数を増やす」ことを挙げた。東京パラリンピックへの出場について問われると、「出たいとは思うけれど先のこと。今は目の前のことを一つ一つやっていきたい」と自身の成長に意欲を見せた。

 一方の藤本選手は「試合前半は自分のペースだった。チャンスはあったが決めきれなかった自分が悪い」と唇をかんだ。三角絞めを長くかけていたことで、「足が疲れてしまった」と振り返った。大会全体を通しては、2位決定戦で下した斎藤大起選手(25、サイバー・コミュニケーションズ)との試合を振り返り、「練習した成果が出た。試合でも使える技であると分かり、収穫があった」と話した。

 東京パラリンピックの出場権は来春までの国際大会の成績によるポイントランキングで決められる。瀬戸選手にリードを許している藤本選手だが、「最後まであきらめない。(東京パラリンピックは自身の)有終の美を飾るステージだと思っている」と気持ちを切らせていない。

(左から)準優勝の藤本聡選手、優勝した瀬戸勇次郎選手、3位の斎藤大起選手
(左から)準優勝の藤本聡選手、優勝した瀬戸勇次郎選手、3位の斎藤大起選手
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技の応酬、見応え十分

 視覚障害者柔道は、目に障害がある選手が、組んだ状態から開始する競技。相手に技を仕掛けやすいようつかみにいく組み手争いがなく、両選手は4分間組み合ったまま技を掛け合う。組み手争いを避ける“逃げ切り勝ち”ができず、時間いっぱい駆け引きが行われ、見応えは十分だ。

今大会、男子7階級と女子6階級に全国から44人の選手が出場し、技を競った。

男子は60キロ級と73キロ級で、それぞれ6人がトーナメント形式で優勝を争った。66キロ級と90キロ級は5人の選手が、81キロ級は3人の選手がリーグ戦を行い、100キロ級、100キロ超級、シニアではそれぞれ2選手が出場した。

 一方、女子競技者は少なく、同階級に2選手、もしくは1選手のみが出場した。2選手の場合は3回対戦し、先に2勝した選手の勝ちとなる。48キロ級、52キロ級、63キロ級、70キロ超級でそれぞれ2選手ずつが出場。57キロ級、と70キロ級では、1選手のみの出場となったため、計量は行われたが、不戦勝となった。

夫婦でメダルを

 男子90キロ級の広瀬悠(はるか)選手(40、伊藤忠丸紅鉄鋼)は、5人で行われるリーグ戦を勝ち抜き、連覇を果たした。

内山輝将選手(左)に技をきめる広瀬悠選手
内山輝将選手(左)に技をきめる広瀬悠選手
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 広瀬選手は、リオ・パラリンピックの女子57キロ級で銅メダルを獲得した妻の広瀬順子選手(28、伊藤忠丸紅鉄鋼)と一緒に練習をするなかで、「自分に足りなかった『攻める姿勢』を学んだ。また、柔道に対するひたむきな姿勢を見習っている」と話した。この日、同階級の出場選手がいなかったため、試合がなかった順子選手は「パラリンピックでは、夫婦で金メダルを目指したい」と意気込んだ。

半谷選手「パラでは金を」

 女子48キロ級では、ロンドン、リオと2大会連続でパラリンピックに出場した半谷(はんがい)静香選手(31、エイベックス・グループ・ホールディングス)が、島田沙和選手(18、神戸市立盲学校)に2勝し、同階級を連覇した。

島田沙和選手(左)の体勢を崩しにかかる半谷静香選手
島田沙和選手(左)の体勢を崩しにかかる半谷静香選手
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 「東京パラリンピックでは金メダルを目指す」と話す半谷選手の課題は、組み手の際に力が入ってしまい、動きが固くなってしまうこと。「そこをどう緩めていくか」を日々考える。

 半谷選手は先天性の弱視で、視力の悪化は現在も進行中。「スーパーなどで買い物をする際、以前は品物を目に近づけて判断していたが、最近ではそれでも見えなくなってきたので、振ってみたり、匂いで判断する」と明かし、「行きつけの店では店員さんが助けてくれる」とはにかんだ。

藤原選手「通常の柔道と全く違う」

 女子52キロ級では、藤原由衣選手(26、各務原市柔道協会)が、2勝1敗で石井亜弧(あゆみ)選手(30、三井住友海上あいおい生命保険)に逆転勝ちし、初優勝した。

石井亜弧選手(左)の体勢を崩す藤原由衣選手
石井亜弧選手(左)の体勢を崩す藤原由衣選手
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 「小3から高3までの10年間、柔道をやっていた。個人で、岐阜県3位に入賞したこともある」と話す藤原選手は、視覚障害者柔道をはじめてからまだ2年。7年間のブランクを乗り越え、障害者アスリートとしての道を選んだ。去年から体幹の強化など、体の土台作りを行っている。今年は土台の上に「骨組み」を鍛えているという。

 10年間、健常者の柔道で鳴らしてきた藤原選手にとって、組み手争いがない視覚障害者柔道は、「まだ違和感があるくらい違う」と明かす。普段は地元の高校や大学に出向き、学生と一緒に練習している。

各国も選手強化

 日本の“お家芸”といわれる柔道だが、視覚障害者柔道には各国も力を入れてきている。長く世界で戦ってきた藤本選手も「リオ(・パラリンピック)から世界のレベルが一気に上がっている。過去の経験はもう、役に立たないと思って取り組んでいる」と慎重だ。

 今大会の競技役員を務めた、日本視覚障害者柔道連盟の佐藤雅也理事は「強豪のウズベキスタン・カザフスタン・アゼルバイジャンなどは、1年のうち10カ月は合宿をしている。合宿が3泊4日の日本とは、生活スタイルや練習環境が違うことから、意識が違ってくるということはある」と話す。パラリンピックに向けては、「外国の選手に力負けしないよう、日本の選手は体幹を鍛えて、4分間つかんだら離さない力強さを身につけていく」とした。

 佐藤理事は注目する若手選手を問われると、「瀬戸選手、藤原選手、島田選手には今の代表を脅かす存在になってほしい」と期待を寄せた。(フジテレビ)

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