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【ブラインドサッカー】菊島宙選手が今大会29得点 埼玉T.Wingsが初優勝

 決勝7得点、大会を通して29得点-。決勝フィールド上の紅一点で埼玉T.Wingsの17歳のエースストライカー、菊島宙(そら)選手が縦横無尽にピッチを駆け巡り、得点を量産してチームを初優勝へ導いた。

初優勝を喜ぶ埼玉T.Wingsのメンバーら
初優勝を喜ぶ埼玉T.Wingsのメンバーら
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埼玉T.Wingsが過去最多22チームの頂点に

 全国のブラインドサッカーチームの頂点を決める「第18回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権」の「FINALラウンド」が7月7日、東京都調布市のアミノバイタルフィールドで開催された。大会には、6月1、2、8、9日に行われた予選ラウンドも含め、過去最多となる22チームが出場。決勝戦では、埼玉T.Wingsが7-1でfree bird mejirodaiを下し、初優勝を飾った。個人表彰ではMVP(最優秀選手)と最多得点を菊島選手が受賞。ベストゴールキーパー賞も埼玉T.Wingsの岩崎直選手が獲得した。

 決勝戦当日は小雨だったが、1000人以上の来場者が選手たちの白熱したプレーを観戦した。

ブラインドサッカーとは

 ブラインドサッカーは、アイマスクを付けて、転がると「シャカシャカ」と音が鳴るボールとまわりからの声の指示で行う5人制のサッカー。各チームからフィールドプレーヤー4人とゴールキーパー1人が出場し、途中交代も認められている。国内の大会は、男女混合で行われる。今大会では、フィールドプレーヤー、ゴールキーパーの女性選手の割合は合わせて約9%だった。フットサルと同じサイズ(20×40メートル)のコートで、試合時間は前・後半各20分。両サイドライン上には、高さ1mほどのフェンスが並ぶ。選手たちがフェンスに激突しボールを競り合う様子は、迫力あふれる見せ場だ。

 選手は相手のボールを奪いに行く際、「ボイ!」と声を出す(「ボイ」はスペイン語で「行く」の意味)。相手に存在を知らせて危険な衝突を避けるためのルールで、声を出さなかったり、声を出すのが遅れるとファールを取られる。

 相手ゴールの裏側には「ガイド」が立ち、選手の現在位置やゴールの位置、シュートのタイミングなどを、声やゴールポストをたたく音で指示する。ガイドと選手のコンビネーションはブラインドサッカーならではの見どころ。ガイドとゴールキーパーは晴眼者(目が見える人)や弱視者が務める。ただし、ゴールキーパーの可動範囲はフットサルに比べて狭く制限されている。

国際ルールでは、フィールドプレーヤーは全盲の選手のみとなっているが、今大会では各チームごとに健常者の登録は4人まで、ピッチ上には最大2人までの参加が認められている。

 ブラインドサッカーは、パラリンピックの正式種目だが、競技人口の少なさから男子のみの種目となっている。

冴える妙技に沸く会場

 決勝戦では、試合前半3分、free bird mejirodaiのメンバーで日本代表強化指定選手の15歳、園部優月(ゆづき)選手が自身の得意とする左サイドからボールを蹴り込み先制点を決める。「自分のイメージ通りに落ち着いて打てた」と振り返った。

 菊島選手はこのときまでに数本のシュートを放っていたが、なかなかゴールの枠内に決めきれなかった。だが前半8分、ついに最初のゴールを決める。続けて12分にも、ゴールキーパーの脇をすり抜ける強烈なシュートを決め、逆転に成功した。

free bird mejirodaiのディフェンスをかわす菊島宙選手(右)
free bird mejirodaiのディフェンスをかわす菊島宙選手(右)
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 後半10分、相手のゴールスロー(ゴールキーパーによるスロー)をカットした埼玉T.Wingsのキャプテン、加藤健人選手がサイドフェンスを使って菊島選手にパス。菊島選手は相手ディフェンス3人を抜き去り、ゴールキーパーと1対1に。鋭く足を振り抜き、相手を突き放す3点目を決めた。

サイドフェンス際でボールを奪い合うfree bird mejirodaiの鳥居健人選手(左)と埼玉T.Wingsの加藤健人選手
サイドフェンス際でボールを奪い合うfree bird mejirodaiの鳥居健人選手(左)と埼玉T.Wingsの加藤健人選手
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 12分、埼玉T.Wingsは相手のコーナーキックからボールを奪いカウンター攻撃を仕掛けた。菊島選手が、直線的なドリブルで相手ディフェンスを置き去りにすると、会場からはどよめきが起こった。再びゴールキーパーと1対1の場面を作り、4点目のゴール。さらに菊島選手は13分、14分、15分と立て続けにゴールネットを揺らし、勝利を決定づけた。

シュートを放つ菊島宙選手(右)
シュートを放つ菊島宙選手(右)
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 菊島選手は、晴眼者のゴールキーパーに止められないように、ゴール枠内の端にシュートを放つ。フィールドでは、複数の選手がボールを探し競っているなか、傍らで動かず音がしないはずのボールに菊島選手が近づいて拾い、まわりの選手を振り切って一人でゴールに向かっていくシーンもあった。アイマスクをしているのに、まるで一人だけ見えているかのように錯覚させる妙技で会場を沸かせた。

スーパープレーの秘密は正確なイメージ

 決勝の試合を通して、free bird mejirodaiのゴールキーパー、泉健也選手が「宙は6!」(コート内の位置を示す指示)、「宙が中に入ってきたぞ!」などと菊島選手の位置をチームメートに伝えた。ガイドらも「宙が(コーナーキックを防ぐ壁の)一番外側」と声を出し、菊島選手を警戒し続けた。

 自身に集まる厳しいマークをかいくぐり得点を重ねた菊島選手。サイドフェンス際の激しいボールの奪い合いでは、体格がよい男子選手を相手に一歩も引かず、ボールをキープしたまま逆サイドにクリアする場面もあった。他の男子選手に比べて不利となる女子の体格を補うため、この1年間は体を支える胴体部分である体幹のトレーニングに多くの時間を費やしてきたという。

MVPのトロフィーを胸に握手する菊島宙選手(左)と、今大会の「大会応援マネージャー」を務めたタレントの川後陽菜さん
MVPのトロフィーを胸に握手する菊島宙選手(左)と、今大会の「大会応援マネージャー」を務めたタレントの川後陽菜さん
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 まるで目が見えているようなプレーについて菊島選手は「コートを上から見ているんじゃないか、とよくいわれる」という。「実際、自分自身にもそういうイメージはあるんですけど、考えずに感覚でプレーしている」と明かす。

 ブラインドサッカーは、見えない分を頭の中でイメージして補うことが重要な競技だ。菊島選手は自身の持つイメージについて、「頭の中で、20×40メートルくらいのコートをイメージする。監督がキックオフ時に相手の選手とその位置を教えてくれるので思い浮かべる」という。free bird mejirodaiの選手については、「以前に戦ったことがあるので、この感じなら、こう動いてくるかな」と予測して対応するという。ボールを止めて音をなくし、迷う相手のすきを突いて攻める頭脳プレーについては「相手チームはほとんどが全盲の方で、自分よりも耳がよく、そうしないと抜けない。ちょっとやってみようかなと試したら結構引っかかってくれた」と明かした。

 菊島選手は試合中、相手の股の下を抜くドリブルやシュートを何度も成功させた。「以前、同じ選手を相手に決めたことがあって、股下が弱いことは知っていて、狙っていた。(ボールが相手の股下を通ることは)分かっていた」と、正確なイメージを元にプレーしていることがうかがえる。

初優勝「うれしい」

 埼玉T.Wingsは一昨年準優勝、昨年3位と涙をのんできた。初優勝について菊島選手は「ずっと目指してきた目標が達成できてうれしい」と満面の笑顔で答えた。今大会のMVPでありながらも、女子選手はパラリンピックに出場できないことについて、「今は、『女子も出られるように』という目標しか立てられないので、女子の枠ができてほしいと思う。男子になりたいとは、今でもたまに思う」とはにかむ。

 インタビューには恥ずかしそうにはにかみながら答えてくれた菊島選手。ゴール前の落ち着いたプレーについて問われると、「結構あわてていたんですよ」とおどける。

 菊島選手の父であり、チームの監督も務める菊島充さんは、「初優勝は、気持ちいいです。宙とは、3点取ったら今夜は好物の焼き肉、という話をしていたのに、7点も取って、何にしよう」と、初優勝と娘の予想以上の活躍に喜びをかみしめた。

「後半の3点目が…」

 両チーム共に、大会が始まってから決勝戦を迎えるまで、1失点のみと鉄壁の守りを誇っていた。

 free bird mejirodaiの園部選手は、「菊島選手に当たろうとしたが、さらっとかわされた」と振り返る。同チームの山本夏幹監督は「2-1で後半を迎えることは想定内。でも、後半の3点目が痛かった…。きっちり抑える守備練習もしてきたが、タイムアウト後の宙選手にやられてしまった」と悔しがった。(フジテレビ)

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