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【パラトライアスロン】「いい走りできた」宇田選手が表彰台に 東京大会へ向け秘策も

 世界パラトライアスロンシリーズ第2弾の横浜大会が5月18日、神奈川・山下公園特設会場で行われた。

 同大会2年連続で表彰台を逃してきたPTS4(立位)男子の宇田秀生(ひでき)選手(NTT東日本・NTT西日本)が1時間4分27秒で3位に入賞。一方、3連覇を目指したPTWC(車いす)女子の土田和歌子選手(八千代工業)はバイクでペナルティーをとられ1時間10分23秒で4位、PTS4女子の谷真海選手(サントリー)は1時間18分43秒で2位と悔しい結果に終わった。PTVI(視覚障害)女子の円尾敦子選手(日本オラクル・グンゼスポーツ)は1時間20分30秒で6位、PTS2(立位)女子の秦由加子選手(キヤノンマーケティングジャパン・マーズフラッグ・稲毛インター)は1時間25分9秒で6位となった。

表彰台で他国の選手と喜びを分かち合う宇田秀生選手(右)
表彰台で他国の選手と喜びを分かち合う宇田秀生選手(右)
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 パラトライアスロンは、2016年のリオデジャネイロ大会からパラリンピックの正式競技になった。1人で3つの種目(スイム、バイク、ラン)を連続して行い、その合計タイムを競う。レースの距離はオリンピックの半分で、スイム750メートル、バイク20キロメートル、ラン5キロメートルの計25.75キロメートル。障害の内容や程度で大きく6つのクラスに分かれる。車いす使用者はPTWC、視覚障害者はPTVI、立位クラスはPTS2~5で、上・下肢の切断や機能障害など、肢体不自由者が対象。障害の重い方から順に、2~5に分けられる。同種目の東京パラリンピックの出場権は、6月末から1年間の国際大会の成績によるランキングなどで決定する。

スイムを終え、バイクの種目へ向かう谷真海選手
スイムを終え、バイクの種目へ向かう谷真海選手
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レース後、インタビューに答える土田和歌子選手
レース後、インタビューに答える土田和歌子選手
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低酸素室のトレーニングが結果に

 宇田選手はゴール直後、限界まで力を出し切ったように倒れ込んだ。競技中の手応えを聞くと「力を出し切って、ゴールしたかったので、前だけ見て、表彰台を目指して走った。バイク、ランと、すごくいい調子で最後まで粘れた。いい走りができた」と振り返った。

 毎年少しずつタイムを縮め続けていたが、昨年、一昨年と同大会では6位の成績だった。今大会では3位と大健闘。昨年から、標高が高い場所と同じように、酸素濃度が低い環境を室内で人工的に作り出す低酸素室でのトレーニングを取り入れた。「成果がパフォーマンスにつながってきた」(宇田選手)と手応えを感じている。

ラン中の宇田秀生選手
ラン中の宇田秀生選手
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 競技前はリラックスをして、競技中をイメージ。スイムを終えて水から上がったら、どう体を動かしてバイクに乗るかなど次の動きを頭の中で描き続ける。幼い頃から親しんできたサッカーで鍛えられた習慣だ。

 競技中は1~8までの数字をリズムに乗せて心の中で復唱する。後半、体への負担が大きくなる時間帯でも、リズムに合わせて体を動かすことでペースを維持する。トライアスロンの練習中に編み出した戦略だ。

 宇田選手は右腕を欠損しているが、同クラスには両腕の選手もいる。それらの選手と比べ、どうしてもスイムのスピードは落ちてしまう。「波やうねりもあるので流されたりして、まっすぐ泳ぐのが苦手」と話す宇田選手は、滋賀県の琵琶湖などで目標物を見ながら、まっすぐ泳ぐ練習をしている。

TTバイク挑戦で好成績を

 宇田選手は、来年に迫ったパラリンピック東京大会に向けて、新たな戦略として平地の高速走行に適したTT(タイムトライアル)バイクを使う準備を進めている。

 宇田選手と同クラスのPTS4には、TTバイクを使用する外国人選手が多数在籍している。スピードを出せるバイクだが、乗りこなすためには高い技術が必要。チャレンジであるTTバイクを乗りこなせるよう、今後の世界大会などで試していく。

 TTバイクは平地ではスピードを出せるが、カーブや高低差には弱い。「コースによって、今使用しているバイクと使い分けられるようになりたい」と宇田選手。今大会のコースやパラリンピック東京大会で使用されるお台場のコースは比較的平坦なので、TTバイクの活躍が期待できる。

 パラリンピック初出場の宇田選手は「パラリンピックというところが、どんな空気の場所なのかを知りたい」と話す。「トライアスロンの魅力は、ゴールしたときの達成感。長く楽しく、向き合っていきたい」

音なく落ちたスイムキャップ

 「スイムキャップを落としたことに気づいたときは、初めての体験でどうすればよいか分からず、あわててしまった」。PTVI(視覚障害)で出場した円尾敦子選手は、スイムからバイクに移行するトランジションで、スイムキャップが手元にないことに気づいたときの心境を振り返った。競技で使った用具は所定のかごの中に入れないと、ペナルティーを科される。どんな物でも、コースに捨ててはいけないというトライアスロンの精神を表したルールだ。普段の生活でも、物が落ちる音には敏感な円尾選手だが、スイムキャップの無音の落下は察知できなかった。

 トランジションとは、スイムからバイクへ、バイクからランへ移り変わる過程のことで、この間もタイムに加算される。「ランを1分縮める」ことと「トランジションを1分縮める」ことは同じタイムの短縮。トランジションは「第4の種目」と呼ばれるほど重要なパートだ。

バイクパートが終わり、トランジションエリアでランの準備をする円尾敦子選手(奥)とガイドの武友麻衣さん
バイクパートが終わり、トランジションエリアでランの準備をする円尾敦子選手(奥)とガイドの武友麻衣さん
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 視覚障害の選手は、視覚のあるガイドと一緒に競技を行うことで安全にレースに出場できる。ガイドは途中で交代することなく、すべての種目を選手と一緒に参加する。落としたスイムキャップの処理は、円尾選手のガイドを務める武友麻衣さんが落下地点まで戻って拾った。

落ちたスイムキャップを拾う円尾敦子選手のガイド、武友麻衣さん
落ちたスイムキャップを拾う円尾敦子選手のガイド、武友麻衣さん
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 バイクでは、円尾選手自身がデザインを考えた新しいタンデム(2人乗り)バイクの感触を試せた。また、この日は5月半ばながら、気温は23度で日差しが強かった。「ランは暑かったが、沿道から多くの声援があり、頑張れた」

PTVIで出場した丸尾敦子選手(左)とガイドの武友麻衣さん
PTVIで出場した丸尾敦子選手(左)とガイドの武友麻衣さん
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スイム中、足に触れ続ける手

 PTS2の秦選手は「最下位の6位で、すごく悔しい結果。自身もトレーニングを重ねたが、海外選手も、同様に力をつけていた。それがなかなか追いつかない」と唇をかむ。

 秦選手は以前、水泳でパラリンピックへの出場を目指していた。トレーニングをしていた稲毛インターナショナルスイミングスクールで、同じコースを使って練習していたリオデジャネイロ大会の女子トライアスロン日本代表、上田藍選手と加藤友里恵選手ら周囲の人々に声を掛けられたことがきっかけでパラトライアスロンの世界に飛び込んだ。

 水泳出身のため、秦選手自身も得意としているスイムでは、特に外国選手にマークされることが多い。トライアスロンは接触の機会が多いスポーツだが、今大会、スイムのときはずっと足を触られつづけていたという。自分の右側を泳いでいた選手がスッといなくなり、気づいたら、自分の後ろでずっと足を触ってきていた状態だった。

 秦選手の足に触れ続けた理由として考えられることは、足に触れていた選手が秦選手のすぐ後ろで泳ぐことで秦選手の推進力を生かして進めるため。バイクでは前の選手のすぐ後ろを走行するとドラフティング(風よけ)という反則になる。

 もう一つの理由として、前の選手についていけば、水泳中に頭を上げ方向確認しなくても泳ぐことができ、有利になる。横浜の海は濁っており水中が見えず、前の選手の位置が確認できないため、足に触れ続けたのだろう。秦選手は「戦略の一つだと思うが、ずっと触られていて嫌だった。スイムでは、スタート時に飛び出して、周りに誰もいないという状況にしないと…」と悔しがる。

 パラトライアスロンのスイムとパラ水泳の違いについて秦選手は「(パラトライアスロンのスイムは)気持ちいい。パラ水泳は、決められた幅のレーンで、ゼロコンマ何秒を競う世界。それに対して、パラトライアスロンのスイムは、海、川、湖、沼などで、青空を見ながら自然の中で泳ぐ、全くの別物。すごく楽しいし、泳ぐのが気持ちよい。より水泳が好きになった」と話す。

義足改良も、身体鍛錬も

力強く走る秦由加子選手
力強く走る秦由加子選手
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 秦選手は右の太ももから下に義足を装着している。今回は、バイク用の義足のソケット(足をはめる部分)から下の部分を、力がよく伝わる仕様のものに変えて大会に臨んだ。

 以前は自身の足で地面を蹴れる左半身を中心に鍛えていた。鍛える割合は右半身1割に対し、左半身9割。「右半身は、今まであきらめている部分があった」(秦選手)が、今シーズンから改良によって義足にきちんと力が伝わることが分かった。右半身の鍛錬も重視する必要が出てきたため、左右を同等に鍛えるなど、今大会に向けて準備を進めてきた。

 日本でパラトライアスロンを含めたパラスポーツの各競技があまり有名でないこともあり、義足など装具に関する分野では、海外に大きく後れを取っている。秦選手は「大腿切断で義足を使って競技をする女子選手は、過去をさかのぼっても日本人ではほとんどいない。過去のデータに頼れない」という。義足は装具士に相談し、海外製品を取り寄せたり、使用感を確認しながら問題を解決し続けている。

 「装具士をはじめ、道具を作ってくださる方の丁寧さを広く知ってもらいたい。見に来てくれる人、支えてくれる人、みなさんの力を借りながら楽しんでいきたい」

見た目ほど違いはない

 陸上競技などで、パラリンピアンはウサギの足のような義足を使っているから、技術の進歩と人間の鍛錬を掛け合わせて競うように見える。一方、オリンピアンが履いている陸上競技用の靴にもさまざまな技術が使われている。技術の粋が集められた競技用の靴を履くのと、義足を使用している状態は、どちらも進歩した技術を生かしている点で違いはない。

ハンドサイクルをこぐPTWCの木村潤平選手
ハンドサイクルをこぐPTWCの木村潤平選手
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■世界パラトライアスロンシリーズとは

 トライアスロンを統括する国際組織、国際トライアスロン連合(ITU)が毎年開催する国際大会。今年は4月にイタリアのミラノで第1戦が行われた。第2戦は今大会、第3戦は6月28日にカナダのモントリオール。最終戦は8月末から9月頭にかけて、スイスのローザンヌで行われる。

(フジテレビ)

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