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【車いすバスケ】宮城MAX 前人未踏の11連覇 35歳レオ“覚醒” 東京パラへ錬磨誓う 天皇杯 第47回日本車いすバスケットボール選手権大会

 令和最初の大会で35歳のレオが“覚醒(かくせい)”した。東京パラリンピックでも活躍が期待される日本車いすバスケ界の大黒柱、藤本怜央(れお)選手が、31得点/20リバウンドと大車輪の働きで宮城MAXの天皇杯11連覇を牽引した。

 車いすバスケットボールのクラブチーム日本一を決める「天皇杯 第47回日本車いすバスケットボール選手権大会」が5月10、11、12日の3日間、東京都調布市の武蔵野の森総合スポーツプラザで開かれた。決勝は宮城MAX(東北)が71-35で埼玉ライオンズ(関東)を圧倒し、11連覇を果たした。最優秀選手(MVP)には、攻守に存在感を示しながら決勝戦でチーム最多の31得点を挙げた宮城MAXの藤本選手が選ばれた。

 本大会は、元号が令和に変わり初めて行われた車いすバスケの大会。東京パラリンピックを前に各チームが技を競い、白熱した試合を繰り広げた。決勝戦は、11連覇をかけた宮城MAXと、宮城MAXも出場していた3月の「第8回 長谷川良信記念・千葉市長杯争奪車いすバスケットボール全国選抜大会」で優勝した埼玉ライオンズの対戦となり、順当なカードのように思える。だが、どのチームが勝ち進んでも不思議ではないと思わせる拮抗した試合が数多く展開され、観戦に訪れた人々を魅了した。

シュートを放つ宮城MAXの藤本怜央選手(中央)
シュートを放つ宮城MAXの藤本怜央選手(中央)
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金色のテープが舞うなか、天皇杯を掲げ優勝を喜ぶ宮城MAXのメンバーら
金色のテープが舞うなか、天皇杯を掲げ優勝を喜ぶ宮城MAXのメンバーら
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決勝で王者の貫禄を見せつけた宮城MAX

 11連覇の快挙を成し遂げた宮城MAXでヘッドコーチも兼任していた藤井新悟選手は「ベストとはいえないチーム状況だったが、最近の大会で優勝が続く埼玉ライオンズへの対策を立ててきたことが結果につながった。優勝できてうれしい」と目を赤くしながら、勝利をかみしめた。シュートが決まるごとに会場から大きな声援を受けていた、女子日本代表のフォワードとしても活躍する藤井郁美選手は「全員で一戦一戦成長しながら勝ち取った勝利。決勝戦では、しっかり出だしからシュートにフォーカスできた」と振り返った。

宮城MAXの藤井郁美選手(中央)が藤井新悟選手(左)にアシスト
宮城MAXの藤井郁美選手(中央)が藤井新悟選手(左)にアシスト
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 決勝戦では、第1クオーター、エース藤本選手が序盤に3ポイントシュートを決めるとチームが勢いづき、徐々にリードを広げる展開に。続く第2クオーター、点差を縮めたい埼玉ライオンズは宮城MAXが誇る藤本選手・土子(つちこ)大輔選手のツインセンターによる高さを生かした攻撃を警戒。スペースができたミドルレンジで宮城MAXのシューター、藤井郁美選手が相手のマークを振り切り、ミドルシュートを次々と決めて37-14と大差をつけて前半を終えた。

 本大会では、女子選手は同時に2人までプレーが可能で、1人につきチームの持ち点の合計から1.5点が減点される。

ミドルシュートを放つ藤井郁美選手(右)
ミドルシュートを放つ藤井郁美選手(右)
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 後半、埼玉ライオンズの篠田匡世(まさつぐ)選手や藤澤潔(きよし)選手、主将の原田翔平選手らがミドルレンジから得点を重ねる。それに対して藤本・土子両選手は、埼玉ライオンズの障害が軽く動きやすいハイポインターの選手をゴール下のシュートエリアから徹底して排除。第4クオーター終わりまで点差は縮まらなかった。決勝戦を通して、藤本選手、藤井郁美選手のシュートはどの位置からでも必ず決まるような印象があった。

 試合後、埼玉ライオンズのキーマンでU23世界選手権の日本代表としても活躍する18歳の赤石竜我選手は、「地力で及ばなかった。何もできないまま40分が過ぎ試合が終わってしまった。自分のプレーをやらせてもらえなかった」とうつむいた。中井健豪(けんご)ヘッドコーチは「藤本選手はシュート力だけでなく、カバーリングもうまい。試合をしっかり分析して次につなげたい」と話した。

速攻からレイアップシュートを打つ埼玉ライオンズの赤石竜我選手(左)
速攻からレイアップシュートを打つ埼玉ライオンズの赤石竜我選手(左)
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今回から健常者も参加可能に

 昨年7月、健常者プレーヤーも日本車いすバスケットボール連盟に登録が可能となった。競技の普及、振興を図るとともに、共生社会への貢献が目的だ。

 天皇杯としては本大会から健常者が出場可能になり、埼玉ライオンズでは新たに3人の健常者が加わった。健常者の選手がコート上で同時にプレーできるのは1チーム2人まで。健常者の持ち点は4.5点なので、ハイポインターの篠田選手や大舘(おおだち)秀雄選手らとプレータイムをシェアする。健常者の参加で戦略の幅が広がり、普段の練習のレベルも格段に上がったことが、埼玉ライオンズの躍進につながった。

 決勝で藤本選手とマッチアップし、3ポイントシュートを決める活躍をした健常者プレーヤーの大山伸明選手は、大学1年のときに車いすバスケに出合い、今年で8年目となる25歳。バスケ未経験の大山選手が車いすバスケを始めたきっかけは、大学入学時、車いすバスケサークルの真剣な練習風景に魅せられたことだった。大学卒業後も健常者で構成される車いすバスケの社会人チームに所属してプレーを続けた。

 普段はさいたま市内の病院に、看護師として勤務している。今大会から健常者も出場可能となったことを受け、1月から職場と練習場所が近い埼玉ライオンズの練習に合流した。夜勤や昼勤の合間を縫って、週3回の練習に参加してきた。

 大山選手によると、健常者と障害者の有利/不利な点については、一長一短だという。健常者は体幹がしっかりしており、足の重さがあるため、コンタクトの際には簡単に飛ばされない強さを発揮する。障害者は欠損部位の分が軽く、スピードやクイックネスに長ける。

 大山選手は健常者の強みを生かし、センター用で重心が高く、動きやすいオーダーメードの車いすを使用している。「健常者がプレーすることで、多くの人が車いすバスケに関心をもってくれたら」と期待を口にする。

埼玉ライオンズの健常者プレーヤー、大山伸明選手
埼玉ライオンズの健常者プレーヤー、大山伸明選手
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宮城MAXの“1強”ではない

 宮城MAXは11連覇の快進撃を続けているが、“1強”ではない。

 3位のワールドバスケットボールクラブ(東海・北陸)の主将、竹内厚志選手は個人賞のスリーポイント賞、持ち点別にベスト選手が選出されるオールスター5にも選ばれた。ヘッドコーチも兼任する、力強いプレーが持ち味の大島朋彦選手は46歳のベテランで、コート上で存在感を発揮していた。

 3位決定戦で惜しくも敗れたパラ神奈川スポーツクラブ(関東)は若手が中心のスピードに優れたチーム。鳥海連志(ちょうかい・れんし)選手は持ち点が2.5点とローポインターながら車いすを自身の足のように自在に操り、相手のディフェンスに切り込むプレーで観客を魅了した。古澤拓也選手は広い視野から繰り出すアシストやスリーポイント賞を獲得した飛び道具が武器だ。

パラ神奈川スポーツクラブの鳥海連志選手(中央)
パラ神奈川スポーツクラブの鳥海連志選手(中央)
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パラ神奈川スポーツクラブの古澤拓也選手(左)
パラ神奈川スポーツクラブの古澤拓也選手(左)
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 宮城MAXの初戦の相手、伊丹スーパーフェニックスは、第3クオーターまでリードを保っていた。第4クオーター、宮城MAXが怒濤(どとう)の追撃で逆転。逆境での強さを見せた。試合後、藤本選手は「もうやりたくないっすね(笑)」とおどけた口調で本音を口にした。

 大会直前まで海外でプレーしていた伊丹スーパーフェニックスのエース村上直広選手は「合流から試合までの日が浅く、チームとの連携がうまく取れなかった」と悔しさをにじませた。

東京パラリンピックではメダルを

 決勝戦ではシュートが決まると笑みをこぼしていた宮城MAXの藤本選手。「一人ひとりが1年間を通してトレーニングを続けた。苦しいときには支え合い、うまくいったときには盛り上がる一致団結したチーム」と常勝チームの強さを振り返った。今回からの健常者参加について「競技のレベルが高まっている」と歓迎する一方、「障害者スポーツは障害者が強くないといけないと思っている」と自負をのぞかせる。

 東京パラリンピック前の天皇杯は今回が最後。藤本選手がキャプテンを務めた前回のリオデジャネイロ・パラリンピックで、日本代表は9位だった。今年36歳を迎える藤本選手は、選手権大会でのMVP受賞も5度目となる。「今回のMVP受賞は、『まだまだ成長してほしい』という声だと受けとめている。東京パラリンピックまで1年ちょっとしかない。メダル獲得へ向けて、一歩でも前へ成長していきたい」と決意を新たにした。

 会場となった武蔵野の森総合スポーツプラザは、有明アリーナとともに車いすバスケの東京パラリンピック会場でもある。入場者数は延べ人数で5月10日が2,173人、11日が4,336人、12日が11,885人となり、過去最高だった。

 大会の運営委員長も務めた、日本車いすバスケットボール連盟の常見浩副会長は「若い選手らの奮起を受けて、ベテラン選手らが覚醒したかのような躍動感あるプレーをみせてくれた」と振り返った。

 昨年の準優勝チームであるNO EXCUSE(東京)のエース香西(こうざい)宏昭選手は、ドイツリーグの所属チームが決勝ラウンドに進出したため、本大会に出場することができなかった。常見副会長は、「天皇杯はチーム日本一を決める大会。来年は日程を調整し、海外の選手が参加できるようにしたい」としている。

 会場では、来場者向けに車いすの操作や車上からシュートが打てる乗車体験会を実施。上半身の筋力だけで、通常と同じ高さのゴールにシュートを届かせることの難しさや、ドリブルをしながらブレーキを掛けることの大変さなどを知ることができる。乗車体験を楽しんでいた、大会ボランティアの経験もあるという女子大学生は「車いすに座ってから見上げるゴールの遠さに驚いた。体験してみて選手のすごさが改めてわかった」と感想を述べた。

 試合中、休むことなく車いすをこぎ続ける選手らの手の皮は分厚い。皮膚の表面に残るやけどのような痕は激しい車いすコントロールの勲章だ。会場などで機会があれば、ぜひ選手に握手を求めることをすすめたい。(フジテレビ)

ペイントエリア内に残る無数のタイヤ痕。激しいぶつかり合いを想起させる
ペイントエリア内に残る無数のタイヤ痕。激しいぶつかり合いを想起させる
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■車いすバスケットボールとは

 一般のバスケットボールとの違いは3つ。ボールを持ちながら3回以上プッシュ(車いすをこぐ)するとトラベリング。ダブルドリブルはなく、プッシュ2回以内でドリブルすれば、何度でも再びプッシュできる。また、体を動かせる範囲によって、障害の一番重い1.0点から4.5点まで、0.5点刻みでクラス分けされている。コート上の5選手の合計点は14.0点以内収めないとならないため、障害の重い選手にも平等に出場機会が与えられる。本大会では、登録人数の多いチームで15人、少ないチームは10人で戦った。点数が14点を超えないよう、選手の組み合わせにも戦略が必要となる。

【結果】

優勝:宮城MAX

準優勝:埼玉ライオンズ

3位:ワールドバスケットボールクラブ

4位:パラ神奈川スポーツクラブ

5位:NO EXCUSE

6位:伊丹スーパーフェニックス

7位:千葉ホークス/福岡breez

MVPを受賞した藤本怜央選手(左)と、日本車いすバスケットボール連盟の玉川敏彦会長
MVPを受賞した藤本怜央選手(左)と、日本車いすバスケットボール連盟の玉川敏彦会長
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【個人賞】賞:選手名(持ち点)所属チーム

MVP:藤本怜央(4.5)宮城MAX

サントリーやってみなはれスピリッツ賞:赤石竜我(2.5)埼玉ライオンズ

三菱電機Changes for the Better賞:藤井新悟(1.5)宮城MAX

スリーポイント賞:竹内厚志(3.0)ワールドバスケットボールクラブ/古澤拓也(3.0)パラ神奈川スポーツクラブ

オールスター5:斉藤貴大(1.5)伊丹スーパーフェニックス/赤石竜我(2.5)埼玉ライオンズ/竹内厚志(3.0)ワールドバスケットボールクラブ/藤井郁美(4.0)宮城MAX/藤本怜央(4.5)宮城MAX

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