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ゴールボール日本女子が銀メダル 東京パラに向け収穫と課題 鍵は“三角形ディフェンス”

 視覚障害者のパラスポーツ、ゴールボールの大会「天皇陛下御在位三十年記念2019ジャパンパラゴールボール競技大会」が2月1日から3日まで、千葉市の千葉ポートアリーナで開催され、日本(世界ランキング4位)、トルコ(同2位)、ブラジル(同1位)、米国(同6位)の女子選手たちが熱戦を繰り広げた。3日の決勝戦では、2016年リオデジャネイロパラリンピックを制したトルコが、日本を3-0で下して優勝。王座奪還を目指す日本チームの市川喬一ヘッドコーチは「ディフェンスを細かく修正していく」と、守備力の強化を2020年東京パラリンピックに向けた課題に挙げた。3位決定戦ではブラジルが米国に6-5で競り勝った。

銀メダルを手にする(左から)小宮正江選手、浦田理恵選手、安室早姫選手、欠端瑛子選手、若杉遥選手、萩原紀佳選手=2月3日、千葉市
銀メダルを手にする(左から)小宮正江選手、浦田理恵選手、安室早姫選手、欠端瑛子選手、若杉遥選手、萩原紀佳選手=2月3日、千葉市
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音でボールを“見る”

 ゴールボールは両チームがボールを転がすように投げ合い、前後半各12分でゴールした数を競う競技だ。コートに入る3人の選手は障害の程度によってプレーに差が出ないように、目の上にアイパッチを貼り、その上からアイシェードと呼ばれるゴーグルを着けて視覚からの情報を完全に遮断する。そのため選手は味方同士の声やバスケットボールほどの大きさのボールに入っている鈴の音、ラインのテープの下に張られた糸などを頼りにプレーする。コートは6人制バレーボールと同じ18メートル×9メートル。シュートは自陣で1回、自陣と敵陣の間にある「ニュートラルエリア」でもう1回バウンドさせるのがルールだ。

 日本女子代表チームは2012年ロンドンパラリンピックで優勝し、パラ団体競技初となる金メダルを日本にもたらした。しかしリオ大会では5位でメダルを逃している。ロンドン大会の金メダリストで、守りの要「センター」のポジションを務める浦田理恵選手(アソウ・ヒューマニーセンター)は「バウンドボールの高さやスピードボールの速さの点で世界のチームの攻撃力が進化している」と、東京パラリンピックで再び頂点をつかむ難しさを語る。

決勝戦でボールを止める浦田理恵選手
決勝戦でボールを止める浦田理恵選手
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 そこで市川ヘッドコーチが着手しているのがディフェンスの改革だ。日本チームは3人が横一列になって守る「一文字(いちもじ)」という陣形を得意としてきたがライバル国から研究され、もはや“鉄壁”とは呼べなくなっている。今はセンターの浦田選手が前に出る三角形を基本としながら「対戦国によって柔軟に形を変える」(市川HC)陣形の完成度を高めることが重要だという。

バウンド対策の裏をかかれる

 しかし今大会ではトルコの攻撃力が日本の守備力を上回った。超攻撃的なプレーの中心となったのは、トルコが全7試合で記録した合計43点のうち、一人で33点を奪う活躍だったセブダ・アルトノロク選手だ。アルトノロク選手の武器は男子並みに力強いバウンドボール。叩きつけるような投法なので、コートを這うように進む「グラウンダー」よりスピードは出ないが、高低差がある軌道で迫ってくるボールを防ぐのは困難を極める。身体を横たえて守る選手の肩や腰に、ボールが上の角度から当たり、そのままゴールすることも少なくない。

トルコのセブダ・アルトノロク選手
トルコのセブダ・アルトノロク選手
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 日本とトルコは予選リーグで1日と2日に1回ずつ対戦。世界レベルの経験が少ない若手を積極的に起用する方針も影響し、それぞれ4-7、2-5と大量得点を許して連敗を喫した。市川ヘッドコーチは「ここまで点を取られるのは想定外」とこぼし、3回目の顔合わせとなった3日の決勝戦ではアルトノロク選手のバウンドボールを警戒してディフェンスラインを下げる作戦に出る。

 ところがトルコはその裏をかきグラウンダーを多用した。スピードのあるグラウンダーは、ゴールから離れた前の位置で勢いを削いで押さえ込みたいところだったが、ゴールに近い位置で守る格好になり、アルトノロク選手に選手同士の間を狙われて試合開始1分25秒で先制を許してしまう。前半に3失点し、後半は追加点を許さない粘りの守備を見せたが、相手の守りに阻まれ得点できず0-3で優勝を逃した。

 市川ヘッドコーチは「準優勝で終わったのは残念だが、強豪国と戦って手応えを感じた。失点を抑える自分達のプレーができれば(東京パラリンピックで)首にメダルをかけられることは選手たちも自覚していると思う」と前を向いた。

欠端瑛子選手
欠端瑛子選手
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 日本の攻撃陣にも明るい兆しが見えている。プロ野球の横浜大洋ホエールズなどで通算57勝を挙げた元投手、欠端光則氏を父に持つ欠端瑛子選手(セガサミーホールディングス)はチーム最多の11点をマークし、父親譲りの力強いショットで攻撃の柱として存在感を示した。リオ大会を経験した日本のエースは、助走をつけ、身体を横に一回転させて投げるボールのコントロールを高めたいと話し「決勝で点を入れられなかったことは残念だったが学べたことは多い」と言葉に力を込めていた。

小宮正江選手
小宮正江選手
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 キャプテンの若杉遥選手(立教大学)を半月板損傷で欠く不運見舞われたチームを支えたのが、ベテランの小宮正江選手(アソウ・ヒューマニーセンター)だ。市川ヘッドコーチが「どこのポジションでもできる」と太鼓判を押す柔軟性を強みに、予選ではトルコ相手に2試合で2ゴールを挙げた。欠端選手が投球姿勢に入ると同時に浦田選手とともにポジションにつき、足音によってボールがどこから放たれるか分からなくする「フェイク」というコンビネーションでも息の合うところを見せ、チームに欠かせない選手であると印象づけた。

1日のブラジル戦に先発出場し、一投目でゴールを奪った萩原紀佳選手
1日のブラジル戦に先発出場し、一投目でゴールを奪った萩原紀佳選手
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 新人も負けてはいない。競技歴約2年で初の国際試合に臨んだ17歳の萩原紀佳選手(埼玉県立特別支援学校 塙保己一学園)は予選1日目、ブラジルとの試合に先発出場し、相手のゴール右隅をまっすぐ狙った一投目でネットを揺らした。試合開始から15秒の鮮烈な“国際試合初ゴール”を飾った萩原選手は「すごく緊張したが点を獲れて嬉しい。コーチから『練習を信じて思い切りやってこい』と言われたのを実行できたと思う」と自信を深めた。

安室早姫選手
安室早姫選手
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 若い世代では萩原選手だけでなく、24歳の安室早姫選手(筑波大学附属視覚特別支援学校)が高いレベルの国際試合で経験を積めたのも収穫だ。「目標としていた結果には届かなかったが、短期間で何度も強豪国と戦う貴重な経験をさせていただいた」(安室選手)。例えばブラジルには、相手に背を向けた後ろ歩きで助走をつけ、ジャンプして足の間からショットを放つ独特なフォームの選手達がいる。

後ろ向きの姿勢で、足の間からバウンドボールを投げるブラジルのアナ・カロリナ・クスタディオ選手
後ろ向きの姿勢で、足の間からバウンドボールを投げるブラジルのアナ・カロリナ・クスタディオ選手
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 「ブラジルではこれが主流。最もパワーのある投げ方だ」(ブラジル代表コーチのナシメント氏)。全身をバネのように使った、しなやかな動きから繰り出されるショットを国内で経験することは難しい。特徴的なトップ選手達のプレーを肌で感じられる機会は貴重だ。市川ヘッドコーチは「2020年の東京パラリンピックの次、2024年(パリパラリンピック)もゴールボールは続いていく」と先を見据えて選手の底上げを図りたいと話していた。

※世界ランキングは2018年12月31日時点

(フジテレビ)

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