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車いすバドミントン・山崎悠麻選手 世界ランク1位の女王は子育ても全力

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 パラバドミントン女子シングルスで世界ランキング1位の山崎悠麻選手(車いすWH2、NTT都市開発)は10月、インドネシアのジャカルタで行われたアジアパラ競技大会に出場し、女子シングルスと混合ダブルスで銅メダルを獲得した。9月に都内で行われた「ヒューリック・ダイハツ JAPAN パラバドミントン国際大会2018」では単・複・混合ダブルスの3冠を達成したのに続く好成績だ。

山崎悠麻選手
山崎悠麻選手

 2020年の東京パラリンピックで初めて正式競技に採用されるパラバドミントンで、日本勢のメダル獲得の期待が高まる。山崎選手も、東京パラリンピック出場権をかけたポイントレースとなる2019年シーズンに向けて今から練習に熱を込めているが、家庭では子育てに奮闘する母の顔ものぞかせる。パラリンピックのメダルと、大切な2人の息子たち。選手として、母としての戦いが続く。

「彼女は『前向きな心配性』」

 10月30日、フジテレビのパラスポーツ応援プロジェクト「PARA☆DO!」が、東京都江戸川区のヒューリック西葛西体育館で山崎選手の練習に密着した。同施設は、今年から10年にわたって日本障がい者バドミントン連盟を協賛する「オフィシャルゴールドパートナー協賛契約」を結んだ大手不動産会社のヒューリックにより改修され、連盟所属選手の練習のために無償で提供されている。カメラの前で、山崎選手と、現役時代は韓国ナショナルチーム所属だった日本ヘッドコーチの金正子(きむ・じょんじゃ)さんは往復170回以上に及ぶラリーを見せ、撮影スタッフらを驚かせた。激しい打ち合いでシャトル(羽根)はボロボロになったが、傷んだのは羽毛の部分で羽軸は折れていなかった。これは上手く「クリア」を打てた証拠だという。

 クリアとは、主にシャトルを高い打点でとらえるスイングによって、放物線を描く軌道で相手コートの奥に返球するショットを指す。シャトルが相手コートのバックライン近くまで高く上がり、そこから急角度で落下するクリアは「ハイクリア」と呼ばれ、相手をコートの奥に追い込みたいときや、長い滞空時間を使って自分の体勢を立て直したいときなどの様々な場面で使われる。健常者や立位の選手より打点が低く、ジャンピングスマッシュのように“一撃”で得点を奪える攻撃的ショットが少ない車いす選手にとって「試合はクリアの応酬」(金ヘッドコーチ)と言われるほど重要なテクニックだ。

 長いラリーは、クリアを打ち続ける体力と集中力を鍛えて、相手に試合の主導権を渡さないようにするための重要な練習だった。その他、相手のショットが厳しくもなくチャンスでもないときもしっかり打ち返してラリーをつなぐ対策や、予測とは違うところにシャトルが飛んできたときの対処など実戦を意識した練習が続けられた。

山崎選手(左)を指導する金ヘッドコーチ(右)
山崎選手(左)を指導する金ヘッドコーチ(右)

 「山崎選手は『心配性』なところがいい。失敗を恐れて縮こまるのではなく、試合で勝つために準備を欠かさない『前向きな心配性』です」と金ヘッドコーチ。

 小学2年生から中学3年生までバドミントンをしていた山崎選手は、高校1年生のときに交通事故に遭い、車いすの生活になった。2013年に東京国体でパラバドミントンを観戦したのをきっかけに、自身も競技を始めた。練習を続けてきた成果は今、世界の舞台で花開いている。

 「バドミントンの経験があり、手首を柔らかく使ってコースを突く技術に長けています。まだ伸びる余地があるチェアワーク(車いすを操る技術)を強化すれば、東京パラリンピックのメダルが見えてくるでしょう」

「パラリンピック出場がゴールではない」

 指導者からも大きな期待を寄せられる山崎選手。世界バドミントン連盟が発表した10月21日付けのパラバドミントン世界ランキングでは、女子シングルス(WH2)で1位、女子ダブルス(WH1、WH2)で福家育美選手(ダイハツ工業)とのペアが2位だった。東京パラリンピックの実施種目ではないが、車いすの混合ダブルス(WH1、WH2)でも長島理選手(リクシル)とのペアが2位に入っている。

 好調を維持しながらも油断はない。山崎選手は2つの銅メダルを手にしたアジアパラをこう振り返る。

「目標にしていたメダルが獲れたことは嬉しい。ですが、ドロップのミスが多かったので、練習で精度を上げていきたいと思います」

 ドロップとは、頭上でシャトルをとらえて、相手コートのショートサービスラインあたりに落とす球足の短いショットだ。ハイクリアで相手をコートの奥へ追いやり、空いた手前のスペースをドロップで狙って相手を前後に揺さぶる戦略は、コートの半面を縦に使って試合をする車いすバドミントンのシングルスで特に有効だろう。

高い軌道のシャトルに対してラケットを構える山崎選手
高い軌道のシャトルに対してラケットを構える山崎選手

 2019年は東京パラリンピック出場権をかけたポイントレースが続く。山崎選手は、すでにその先の大舞台を見据えている。

「東京パラリンピック出場がゴールではありません。いい色のメダルを獲りたい。大きな会場で、大勢の人の前でプレーする機会はなかなかないので、どんなときも自分のプレーができるようにしていきたい」

素顔は子育てに奮闘中のお母さん

 世界ランク1位の女王もコートを離れると、別の心配ごとと向き合う。今、気になっているのは、6歳の長男が小学校に入学する準備だ。

「子供の持ち物に名前のシールを貼るか、ハンコにするかで悩んでいます。幼稚園のとき、クレヨン一本一本に名前を書くだけでも大変だったのに(笑)」

 アスリート活動を優先し、NTT都市開発に出勤するのは週に1日。また、移動時間の無駄をなくすために在宅勤務制度も活用している。平日のうち4日は自宅がある日野市の周辺などで練習をし、土日は家族で過ごす。「子供が離れないでいてくれる間は、できるだけ一緒にいたい」という。

「今年の夏に、自宅の前で子供たちとスイカ割りに挑戦しました。上の子がやりたがったのですが、下の子は『やりたくない』って(笑)。後で割ったスイカを、こうやって(かぶりつくように)皆で食べました」。山崎選手は愛おしそうに思い出を語った。

指にテーピングをする山崎選手。大会の前に、験担ぎでネイルに「金」色の装飾をすることもあるという
指にテーピングをする山崎選手。大会の前に、験担ぎでネイルに「金」色の装飾をすることもあるという

 引っ越しをしたため、子供たちが通う保育園が自宅から離れたところにあるというのも悩みだ。今は、山崎選手が運転する自動車を使っても、送り迎えに合わせて約1時間半かかる。自宅近くの保育園は、既に入園している子供たちが年長などのクラスに持ち上がるため、新規で入るのは難しい。

 さらに「お世話になっている保育園がとてもよく面倒をみて下さるので、保育園を変えること自体が心配」(山崎選手)との事。4歳の次男が保育園に通う期間と、パラリンピック出場に関わる2019年シーズンが重なることを考慮しなくても、親として頭の痛いところだろう。

 そんな山崎選手を家族が支える。山崎選手の両親と、夫の両親がそれぞれ、日野市に隣接する市に住んでおり、遠征で家を空けるときなどに駆けつけてくれるという。

「私の母が保育園の送り迎えをしてくれたり、主人の両親がお泊りで子供を見てくれたり。私の母は子供を迎えに行った後、主人が帰ってくるまで家にいてくれて、ご飯まで用意してくれて…。本当に感謝しています」

 山崎選手は、支えてくれる家族や子供たちのためにも東京パラリンピックでメダルを獲りたいと意気込んだ。

山崎悠麻選手
山崎悠麻選手

(フジテレビ)

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