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【産経抄】9月16日

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 プロゴルファーの青木功さんは、店頭のパターに一目惚(ぼ)れした。買って握ってみると、シャフト(柄)がやや長い。「切っちまうべぇ」。糸のこでグリップをまるごと切り落とした。グリーン上で腰をくの字に曲げる打法は、このパターから生まれたという(『勝負論』新潮新書)。

 ▼切る。削る。おもりを付ける。手元のクラブがブランドものの逸品であれ、手になじむまで加工した。ショットを放つ瞬間、わずか1ミリのずれが、100メートル先では数メートルもの狂いを生む。道具を侮る者は、「いつかその道具に裏切られる」。青木さんの経験則である。

 ▼「時の人」が市販のラケットで偉業を成し遂げたと聞き、スポーツ用品店に急いだ若者も多かったろう。テニスの全米オープンを制した大坂なおみ選手である。残念ながら「市販」は誤報だったらしい。メーカー側が、「市販品とは異なる仕様でした」と訂正した。

 ▼大坂選手の飾らない人柄も手伝い、「市販」のニュースは胸に落ちるものがあった。メーカーによると重さにして「約2%」の差で、数グラムの違いとか。ペン以外の物を持ち慣れぬ身には雲をつかむような話である。トップ選手のみが知る、道具の重みがあるらしい。

 ▼〈能書は必ず好筆を用ふ〉と、空海の言葉にある。字が達者な人は、良い筆を使う。「弘法筆を選ばず」ではなく道具を選んでいた。次は自分も、と色めき立ったテニス愛好家には気の毒だが、誰もが同じラケットで手軽に強くなっては、大坂選手の立つ瀬がない。

 ▼将棋の故大山康晴名人は上達の秘訣(ひけつ)を子供から問われ、「いい駒といい盤を持つこと」と答えている。いい道具を持てば手入れを心がける。上達への一歩だ、と。「なおみ」を目指す子供たちの道しるべだろう。

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