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東京パラリンピックに向け着実な一歩 車いすバスケットボール日本選手権 宮城MAXが死闘制し10連覇 初代天皇杯王者に輝く

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 車いすバスケットボールのクラブチーム日本一を決める「天皇杯 第46回日本車いすバスケットボール選手権大会」が5月19、20日の2日間、東京都調布市の武蔵野の森総合スポーツプラザで開かれた。決勝は、宮城MAX(東北)がNO EXCUSE(東京)を延長戦の末に87―78で破り、大会10連覇の偉業を達成。MVPにはチーム最多の35得点を挙げた土子大輔選手が選ばれた。3位決定戦は、埼玉ライオンズ(関東)が58―44でワールドバスケットボールクラブ(東海・北陸)に勝った。東京パラリンピックに向け、着実な一歩となった大会の模様をリポートする。

 優勝セレモニーで喜びを分かち合う宮城MAXの選手たち
 優勝セレモニーで喜びを分かち合う宮城MAXの選手たち

 金色のテープが舞うなか、宮城MAXのキャプテン、豊島英選手が高々と天皇杯を掲げた。10連覇を成し遂げたメンバーは両手を突き上げた。パラスポーツの日本選手権では、初めて天皇杯が下賜された記念の今大会。20日に行われた決勝は、日本一を決めるにふさわしい白熱の試合となり、宮城MAXがNO EXCUSEとの死闘を制した。

 就任1年目に絶対王者の座を守り抜いた佐藤聡ヘッドコーチ(HC)は「10連覇のプレッシャーがものすごくあったので、ほっとしました。選手のときの倍くらい疲れました」と感無量の表情で喜びを語った。キャプテンの豊島選手は「天皇杯の初代チャンピオンになり、MAXの代表として天皇杯を掲げたことは本当にうれしい」。こちらも感激の面持ちだった。

 宮城MAXが大黒柱の藤本怜央選手、千葉ホークスから新加入した土子選手、キャプテンの豊島選手を中心に得点を重ねれば、NO EXCUSEはスーパースター・香西宏昭選手、新鋭の森谷幸生選手の攻撃力で応戦した。リードしているチームが何度も入れ替わった大熱戦は、第4ピリオドを終えても69-69と決着がつかず、5分間の延長戦にもつれ込んだ。

 延長に入ってからは、土子選手が最初に得点を決めた宮城MAXが着実に加点。とくに女子日本代表の中心である藤井郁美選手がチームトップの9点を奪う活躍を見せ、昨年の決勝では3点差で下したライバルを87-78で振り切った。延長戦は18-9のスコアで圧倒し、佐藤HCは「土子選手が加入して大きな戦力アップになった。延長戦がこの1年で一番、いいバスケットができた」と声を弾ませた。

 追い詰められながらも踏ん張った宮城MAX。エースの藤本選手は勝因として「プライド」と「関連性」を挙げた。プレーヤー個人の能力を生かしながらも、他のプレーヤーを生かす連携も強く意識して戦った。「佐藤HCが重要視した関係性に応えないといけないと土子には話していた。ぼくと土子が安定してフィニッシュしていけば、チームは崩れない。ぼくが常に土子を見て、土子もぼくを常に見ていた」と藤本選手。昨季まで所属した千葉ホークスでは絶対的存在だった土子選手は「野球でいえば、藤本が4番でぼくが3番」と互いの良さを引き出した関係性を表現した。

 千葉県在住の土子選手は週末、片道4時間かけて宮城に通った。ときには藤本選手の自宅に泊めてもらい、「優勝できなかったらお前のせいだよ」などと叱咤激励されたという。成長を描いて移籍した先で待っていた栄冠。土子選手は「チームにできることをがむしゃらにやりました。本当に最高の気分です」とかみしめるように喜びを語った。藤本選手は「彼はプレッシャーをかけた方が伸びると思っていたんですよ」と豪快に笑った。

 藤本選手は、決勝では不本意な出来だったが、2人の関係性は10連覇と土子選手のMVPとなって結実した。この両輪の動きに豊島選手のスピード、藤井選手の思い切りが掛け合わさり、最後の最後にNO EXCUSEを突き放した。

 攻め込む宮城MAX・藤本選手(左)と、ディフェンスするNO EXCUSEの香西選手(中央)、佐藤選手(右)
 攻め込む宮城MAX・藤本選手(左)と、ディフェンスするNO EXCUSEの香西選手(中央)、佐藤選手(右)

 紙一重の差で頂点に届かなかったNO EXCUSEも見事だった。両チーム最多の46得点を挙げた香西選手は、敵将の佐藤HCに「カッコいいなと思って見ていた」と言わしめるほど攻守に大車輪の活躍。森谷選手も次々にシュートを決め、宮城MAXの藤本選手に「あのパフォーマンスはかなりの驚き」と大きな衝撃を与えた。すべてを出し切った香西選手は「2年前が6点差、昨年が3点差。今年は第4クォーターで言えば同点。なかなか追いつかないけど、ちょっとずつ前進しています」とさっぱりとした顔でライバル対決を振り返った。

 決勝戦には大会事務局発表で6085人の観衆が詰めかけ、ハイレベルなゲームを堪能した。「これをきっかけに車いすバスケは面白いな、また見に来たいなと思ってもらえればうれしいですね」。会場の観客をはじめ、テレビやネット中継で観戦した人も、森谷選手のコメントにうなずくだろう。

 MVPを獲得した宮城MAX・土子選手(9番)のシュート
 MVPを獲得した宮城MAX・土子選手(9番)のシュート

 この大会は日本一を決める大会であること、初めて天皇杯を下賜されたことに加え、2020年東京パラリンピックに向け、重要な一歩という意義があった。会場の武蔵野の森総合スポーツプラザは、有明アリーナとともに本番のパラリンピックで車いすバスケットボールの試合会場となる。昨年11月のオープン以来、車いすバスケの主要大会が開かれるのは初めてであり、選手にとっても運営する側にとっても、貴重な経験を積む場であった。

 決勝を戦った2チームには日本代表選手が多い。前回リオデジャネイロ・パラリンピックで2大会連続9位だった日本は、地元開催の東京で本気でメダル獲得を目指しており、それぞれが2年後を意識しながらプレーした。

 4大会連続でパラリンピックに出場している宮城MAXの藤本選手は、リングやバックボードとなかなかフィーリングが合わず、「入ったなと思ったシュートが外れた。アジャストできなかった」と素直な感想を語った。裏を返せば、この会場に慣れれば慣れるほど、本番で大きなアドバンテージとなる。「何度もパラリンピックに出ていますけど、過去の会場と似た雰囲気がありますね。パラリンピックに向け、ここがホームコートという気持ちを持ち、例えばトイレひとつにしても、プレーに集中できるよういろいろ知る必要がある」と視線を前に向けた。

 日本代表では藤本選手と両輪となるNO EXCUSEの香西選手も「2020年に向けていいリハーサルになっている。いままで他国でパラリンピックに出場してきましたが、この会場が満員になったらすごいと思います。それがどういう絵になるのか楽しみでワクワクしています」と高ぶる思いを隠さなかった。

 会場となった武蔵野の森総合スポーツプラザ
 会場となった武蔵野の森総合スポーツプラザ

 運営面でも、2020年を控え、着実に下地づくりを進めた。武蔵野の森総合スポーツプラザがある調布市を中心に近隣の府中市、三鷹市などから延べ120人のボランティアがコート管理、整備などを担当した。大会の運営委員長を務めた日本車いすバスケットボール連盟の常見浩副会長は「選手権に関しましては、ボランティアをしたいという方がたくさんいらっしゃいまして、みなさん、手慣れていましたね。あとは、この規模を超えるお客さんが入ってきたときに、どう対応するかが大切になると思います」と手ごたえを得た様子だ。

 常見副会長は今大会のテーマとして①競技力向上とファンの獲得②競技役員の技術向上③ボランティアの育成──の3点を掲げていた。

 ①は出場チームを従来の16チームから8チームに絞り、各試合のレベルを上げるようにした結果、「初戦からハードな大会を勝ち抜く準備を考えなければならなくなった。決勝は近年にない質の高い試合だった」(宮城MAX・藤本選手)という効果があった。観客数は初日が4004人、2日目が6085人でコートサイドの席はほぼ埋まった。②と③もマイナスとなった要素はなかった。常見副会長は「全体的に、まずまずだったと言えます」と収穫を口にした。

 会場内では車いすバスケットボールの体験会が開かれた(右)
 会場内では車いすバスケットボールの体験会が開かれた(右)

 6月8日からは日本代表の強化の一環として、ドイツ、オーストラリア、カナダの代表チームを招いて、同じ武蔵野の森総合スポーツプラザで「三菱電機ワールドチャレンジカップ2018」が開催される。パラリンピックに向けたリハーサルの第2弾としても重要な大会だ。

 武蔵野の森総合スポーツプラザは味の素スタジアムや野球場に隣接しており、スポーツが身近にある土地柄から、パラリンピック後にレガシーを残しやすい環境ともいえる。大会運営ノウハウの蓄積、ボランティアの輪の広がり、地域住民に車いすバスケットボールに親しんでもらう雰囲気づくり。今回の日本選手権で得た財産に、さらなる上積みが加わることが期待される。(フジテレビ)

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