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【舞の海の相撲俵論】強さよりも大事な何か 師弟の旅は始まったばかり

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【舞の海の相撲俵論】
強さよりも大事な何か 師弟の旅は始まったばかり

 99年ぶりに3横綱2大関が休場した異例の秋場所を盛り上げたのも、21歳の阿武咲だった。1場所15日制が定着した昭和24年夏場所以降、史上初となる新入幕から3場所連続2桁勝利。敢闘賞に輝いた。

 印象に残ったのが、初金星を挙げた日馬富士戦だ。勝った瞬間。突き上げようとする拳を腰のあたりで握るにとどめた。初めて横綱に勝ったうれしさを必死に抑えようとするかのように。そこに師匠から弟子へのたしかな伝統の継承を見た。

 動作や態度に人の心は表れる。思うがままに振るまうことが許されるなら、負けた力士も土俵をたたいていつまでも悔しがりたい。だから、勝った力士は敗者の気持ちに配慮しなければならない。抑制の美学こそ相撲の神髄である。

 相手が横綱であろうと「土俵に上がったら五分だ」という阿武咲の気概は頼もしい。現役時代、反骨精神のかたまりで野武士のような渋い雰囲気を漂わせ、第一人者の千代の富士に立ち向かい「白いウルフ」と称された益荒雄の姿が重なり合う。

 阿武咲は11月の九州場所で新三役昇進が濃厚な状況だ。今後への夢が膨らむ弟子のことを尋ねると、師匠は「これからが大変なんだ。強いだけのモンスターはつくりたくない」と言葉に力をこめた。

 若き津軽の暴れん坊を相撲道というレールに乗せ、強さよりも大事な何かを咲かせるための師弟の旅はいま始まったばかりだ。(元小結 舞の海秀平)

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