【スポーツ茶論】「夢舞台」を駆ける“みちのくの若武者”大谷翔平 黒沢潤 - 産経ニュース

【スポーツ茶論】「夢舞台」を駆ける“みちのくの若武者”大谷翔平 黒沢潤

コロラド・ロッキーズとの対戦中、スウェットを被るエンゼルス大谷翔平=9日、デンバー(AP)
 イガグリ頭の野球少年だった約40年前、米大リーグで現在活躍中の大谷翔平の出身中学校(岩手県奥州市)のグラウンドで野球をしたことがある。実家から自転車でも行けるあの土地から今、このような怪物が出現するとは信じ難い。
 地元では連日の活躍に大騒ぎだ。達増(たっそ)拓也・岩手県知事と最近、電話で話した際、「全国メディアや米メディアも毎日、大谷君を取り上げていて大変、誇らしい」と声を弾ませていた。
 岩手など大半の東北地方は戊辰戦争(1868~69年)で薩長側に敗北した後、「白河(福島県)以北、一山百文」などのレッテルも貼られ、「中央」に対して、ものおじする時代も長かった。だが岩手では今、「大谷と郷里が同じ」とうれしそうに胸を張る若者も多いという。地元の高校球児はかつて「甲子園では一勝が夢」などと控えめに語ったものだが、最近は「上位進出」を堂々と口にするなど、大谷効果で“地方意識”はかなり薄らいでいるようだ。
 達増氏は言う。「大谷君は日本のプロ野球の歴史を変え、米大リーグの歴史を変えつつあるが、岩手、東北の歴史も変えている。『太平洋の橋』になっているという点では、すでに新渡戸稲造先生ぐらいの貢献をしている。彼は先生ぐらい、ビッグ(な存在)になった」。なるほど地元の若者の意識も変わるわけだ。
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 米ニューヨークに赴任していた4年前、米映画の異色キャラクター「ET」がいかにも現れそうな光景が広がるロッキー山脈の麓にある「クアーズ・フィールド」を訪れた。標高約1600メートルで空気が薄く、打球が飛ぶことで有名な球場なため、一度は見てみたいと思ったのだ。
 そんな思い出の球場の右翼3階席に今月上旬、大谷が150メートル級弾を練習中に放り込み、敵軍を驚かせるに至った。これには地元紙「デンバー・ポスト」のコラムニスト、マーク・キズラ氏が次のような言葉を吐いた。「人生の終焉(しゅうえん)を迎える前にすべきことがある。中国の『万里の長城』に登ること、アイスランドの『オーロラ』を見ながらダンスをすること、大谷の『打撃練習』を見ること」
 容赦ない辛辣(しんらつ)な批判を浴びせかける米メディア-。その厳しさを米滞在中の5年間で嫌というほど目にしていただけに、こうした指摘は意外というほかない。
 メジャー屈指の豪腕で、200勝間近のバーランダーも、大谷から奪った2500個目の三振をこう振り返る。「彼が負傷しないことを願う。いつか自分が年老いて最期を迎えたとき、『僕の2500奪三振はあいつから奪った』といいたいから」。童顔のサムライを“化け物級”と言わずして何と言ったらいいのか。
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 試合出場かなわず、指をくわえて試合を見るしかない天才・イチローの前で披露した3勝目の快投。米社会らしく「母の日」にちなみピンク色の帽子を同僚とともにかぶり、7回途中11奪三振というなで斬りを見せた13日の投球。米メディア「スポーティング・ニュース」の記者はそんな大谷について、「そういえば、彼はときどき先発投手もしている…」と息をのむ。
 翔平の「翔」の字は源義経が飛翔(ひしょう)するイメージから、「平」は奥州平泉からとったといわれる。この先、多くの試練が待ち受けるだろうが、“みちのくの若武者”らしく、たどり着いた「夢の舞台」で鮮やかに、颯爽(さっそう)と暴れてほしい。