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【世界の論点】森氏「女性蔑視発言」辞任 仏、70~80代の長老政治に驚き 米、ジェンダー後進国浮き彫り

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12日、東京で、森氏の写真を掲げて五輪開催に反対する抗議活動の参加者。森氏の発言は欧米メディアの強い関心を集めた(ロイター)
12日、東京で、森氏の写真を掲げて五輪開催に反対する抗議活動の参加者。森氏の発言は欧米メディアの強い関心を集めた(ロイター)

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が女性蔑視と受け取れる発言で辞任した。欧米紙では、森氏の発言だけでなく、日本の指導層の反応や発言を生んだ日本の社会・政治構造に厳しい論調が相次いだ。欧米社会も男女差別と無縁ではないものの、その解消に取り組んできただけに、日本社会の特異性に強い関心を示した。

フランス 70~80代の長老政治に驚き

 フランスの経済紙レゼコー(電子版)は10日、森氏の女性蔑視発言は「時代遅れの日本社会」と「高齢化する男性エリートの女性差別」をめぐる論議を巻き起こしたと紹介した。

 レゼコーは、菅義偉首相は72歳、自民党の二階俊博幹事長は81歳(当時)、経団連の中西宏明会長は74歳で、3人とも「世間の論議を理解せず、森氏を退任させようとしなかった」と報じた。米欧紙が記事に政治家や経済人の年齢を記載するのは極めてまれ。日本の長老政治への驚きがにじみ出ている。

 マクロン仏大統領は43歳で、2024年パリ五輪の組織委員会会長は42歳。政界保守派の大物、サルコジ元大統領でも66歳だから、70~80代が主役の日本政治は、フランスで異質な世界と映る。

 12日付フィガロ紙も「東京五輪 83歳の森氏が去り、84歳の川淵氏が来る」という見出しで年齢を強調した。会長候補に、元日本サッカー協会会長の川淵三郎氏が浮上した時の日本メディアの転電だ。

 一方、ルモンド紙(電子版)は12日、「森氏の発言は、単なる80代男性の時代錯誤な妄言ではない。政界の長老たちは、男性優位に根付いた発言を繰り返してきた」として、日本政治の風潮を批判した。

 ルモンドは、麻生太郎副総理兼財務相が2年前、少子高齢化をめぐって「子供を産まない方が問題だ」と発言したことを振り返り、女性への偏見や侮蔑を含んだ政治家の発言を「放言」で片付ける悪癖こそ、女性差別を悪化させる一因だと論じた。

 厳しい指摘の背景には、男女の格差解消が欧州では重要な政治課題とみなされていることがある。フランスは、議会や企業で女性起用枠を定める「クオータ制」の先進国だが、女性差別は根深く残る。最近の調査では、女性の55%が「職場でセクハラ被害を受けた経験がある」と答えた。

 2019年発表の調査によると、ドイツで「女性が企業トップになるのはよいこと」と考える人の割合は33%にとどまり、日本と同率だった。女性のメルケル首相が15年以上君臨するドイツでも、男性優位の意識は根強く残る。

 女性差別がなかなか消えないからこそ、フランスでもドイツでも政府は「男女平等」の原則論を繰り返す。今回の騒動は、欧州政治家が極めて神経を使う問題について、日本では元首相すら無頓着だということを曝(さら)してしまった。

 一方でルモンドは、森氏の会長辞任について、「自民党の重鎮が、女性差別発言で辞任に追い込まれたのは初めて」と指摘。日本の世論は、変わりつつあると前向きに評価した。(パリ 三井美奈)

米国 ジェンダー後進国浮き彫り

 森氏の女性蔑視発言をめぐり、米メディアでは日本の政治や社会全体の問題として論ずる報道が目立った。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は9日付記事で「五輪組織のトップが女性を侮辱したことで謝罪した。だが、日本ではそれ(謝罪)で十分なことがよくある」との見出しで一連の問題を揶揄(やゆ)した。

 同紙は、森氏が当初「簡単な謝罪で済ませた」ことについて、「国民にほとんど説明責任を果たさず、守旧派を支持し、若者の批判の声に耳を貸さない」という日本の政治構造が背景にあると指摘。菅義偉首相ら与党幹部から辞任を求める声が一切出なかったことも問題視した。

 また専門家の見解として、こうした政治構造が維持されるのは「政策よりも安定と継続性を重視する」日本の有権者の特性も関連しているとも指摘。安倍晋三前首相が「女性活躍」の看板政策に掲げた「指導的地位に占める女性の割合を30%程度」にする目標が12%未満にとどまっていることを挙げ、女性政策を優先しなくても政権を維持できる風潮が「森氏の(会長職への)固執」につながったと論評した。

 他の主要メディアも、世界経済フォーラム(WEF)による男女平等の度合い調査を引用して、日本は対象153カ国のうち121位だったと紹介。AP通信は11日の記事で「森氏の発言は、日本が他の裕福な国に比べ、政治や(企業の)役員会での女性の活躍がどれほど遅れているかを浮き彫りにした」と述べた。

 米国はWEFの調査では53位にとどまり、先進7カ国(G7)の中では下位だ。ただ、女性の地位向上を求める風潮は広がり、2017年に性的被害を受けた女性が男性を告発する「#MeToo(私も)」運動が起きると、性差に関する意識改革はさらに進んだ。差別発言には厳格に対応する「ゼロトレランス(非寛容)」があらゆる場面に広がっている。森氏の発言内容だけでなく、その後の対応も大きな注目を集めたのは、このためだ。

 また、米外交誌「ディプロマット」(電子版)は9日付の記事で、「日本は経済的にも技術的にも進歩を遂げたが、新しい社会規範を受け入れることは依然として控えめだ」と指摘。WEFのランキングで世界水準に達していないにもかかわらず、米調査機関「ピュー・リサーチ・センター」の調査で日本人男性の77%が「男女平等は達成している」と答えたことを挙げ、「森氏の発言は、より広い社会の倦怠(けんたい)感を象徴している」と、社会に根差すジェンダー意識の低さに遠因があると記した。 (ニューヨーク 上塚真由)

 ≪ポイント≫

・欧米紙とも発言を生んだ日本社会に関心

・仏紙は日本の長老政治に厳しい目

・米紙は日本の政治、社会構造の問題指摘

・欧米とも男女平等に取り組むが故の批判

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