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【世界の論点】SNS言論規制 欧州「放置に厳しい目」、韓国「不自由を正当化」

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8日、携帯電話に表示された、凍結されたトランプ大統領(当時)のツイッターのアカウント (ロイター)
8日、携帯電話に表示された、凍結されたトランプ大統領(当時)のツイッターのアカウント (ロイター)

 トランプ米大統領(当時)の支持者による米議会議事堂襲撃を受け、ツイッターなど米IT大手が会員制交流サイト(SNS)のトランプ氏の利用を停止した。フランスやドイツでは、危険な投稿を放置してきたSNS運営企業に厳しい目が向けられる一方で、「表現の自由」の規制は企業ではなく国や裁判所が行うべきだとの論調が主流を占める。一方、北朝鮮と対峙(たいじ)する韓国では、「表現の自由より安全保障が優先」という論理の下、ちぐはぐな言論規制が取られている。

≪ポイント≫

 ・欧州では危険投稿放置のSNSに厳しい声

 ・GAFAの市場支配に警戒感、分割論も

 ・規制は企業ではなく国、裁判所が行うべき

 ・韓国では北朝鮮意識しちぐはぐな言論規制

発言放置の企業に厳しい目 欧州

 フランス紙フィガロは15日付の論説で、ツイッターがトランプ米大統領(当時)のアカウントを永久凍結したことについて、「GAFAによるクーデター。民主主義の擁護者を怒らせた」と非難した。

 フランスは国家主義が強く、GAFAと呼ばれる米巨大IT企業のデジタル支配には、以前から警戒が強い。「表現の自由」の制限は企業ではなく、国や裁判所が担うべきだという論調が目立った。

 12日付仏紙ルモンドは、トランプ氏の危険発言を阻止するのは妥当だとしても、ツイッターの対応は遅すぎたと嘆いた。トランプ氏の暴力的発言を長く見逃してきたのに、退任が決まった途端、アカウント閉鎖という強硬策をとるのは偽善的だと指摘した。

 トランプ氏が始めた「ツイッター政治」はいまや世界に広がり、マクロン仏大統領もSNSでひんぱんに声明を出している。ルモンドは「ツイッターを発信の手段とする政治家たちは、使い方や違反行為を法制化する責任を負う」として、規制は民間に任せるべきではないと主張した。

 14日発売の仏週刊誌ルポワンは「GAFA分割を検討すべき時だ」と踏み込んだ。

 GAFAのデジタル支配について、問題は「彼らがあまりにも強大になり、さらに大きくなろうとしていることだ」と指摘し、反トラスト法(独占禁止法)適用を検討すべきだと訴えた。米国の反トラスト法は、市場をゆがめる独占資本を阻止するもので、米連邦最高裁は1911年、石油大手スタンダードオイルの解体を命じた。

 ドイツでも、厳しい論調が相次いだ。保守系紙ウェルト(電子版)は13日、国や指導者の危険発言を野放しにしてきたSNSの責任を問いかけた。

 イランの最高指導者ハメネイ師が「イスラエルを抹殺すべきだ」と発言したとき、ツイッターは「外交上の威嚇」にすぎないとして削除要求を退けた。昨年は、中国外務省報道官が、アフガニスタン国旗の上でオーストラリア兵が子供の首にナイフを突きつける「偽画像」を掲載したのを放置した。今回、トランプ氏のアカウントの閉鎖を余儀なくされたのは、問題に向き合わなかった結果だと論じた。

 ウェルトは「乱用防止には、自主規制では不十分」と指摘し、欧州連合(EU)による規制法案を紹介した。

 ドイツは1933年、国会議事堂の放火事件を機に、ナチスが不安をあおって強権を掌握した歴史がある。SNSに対する声が厳しいのも、米議事堂襲撃が自国の過去と重なり、民主主義を揺るがす一大事と映ったからだろう。(パリ 三井美奈)

北意識し「不自由」を正当化 韓国

 韓国で北朝鮮メディアのサイトにアクセスしようとすると、画面に「接続しようとしているサイトでは安全保障を脅かす情報が提供されています」と警告文が表示される。韓国では、ネットを含め、言論の自由が完全に保証されているわけではない。北朝鮮の称賛とみなされる情報の発信は「国家の安全と国民の生存・自由」を脅かす反国家活動として「国家保安法」に基づき処罰の対象となる。

 実際、昨年10月には動画投稿サイトのユーチューブで「新型コロナウイルスの国内感染者はゼロだ」という北朝鮮の主張を称賛した脱北者女性が摘発された。

 その一方、文在寅(ムン・ジェイン)政権は昨年12月、北朝鮮を非難するビラの散布に罰則を科す法律を成立させた。これに対し、米国を拠点に北朝鮮の人権問題に取り組む国際団体や米議員は「表現の自由を侵害する」と強く批判。海外からの批判に、潘基文(パン・ギムン)前国連事務総長は「北朝鮮の要求に屈した『反人権法』という非難を自ら招いている」と嘆いた。

 同法成立の背景には、ビラ散布に対する北朝鮮の強い反発があった。北朝鮮は昨年6月、金正恩(キム・ジョンウン)氏の妹の与正(ヨジョン)氏名の談話で激しく非難。北朝鮮・開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破するなど軍事的措置も辞さない構えを見せていた。

 親北傾向の韓国紙、ハンギョレは昨年12月19日付の社説で「対北ビラは、北朝鮮の人権改善に役立たないばかりか、(南北の)境界地域の住民の生命を脅かす」と主張。韓国統一省も「表現の自由は憲法上の権利だが、境界地域の国民の生命、安全という生命権よりも優先はできない」とビラ禁止に理解を求めた。

 文政権の面々は軍事政権時代に民主化運動に携わり、国家保安法を基に弾圧されたとして同法の廃止を訴えてきたにもかかわらず、「国や国民の安全」という保安法と同じ論理で言論の自由を制約する皮肉な対応を取った形だ。

 ビラ禁止法について、韓国紙、東亜日報は12月4日付の社説で、文政権に要求をのませた北朝鮮が味を占め、「韓国メディアや民間団体の批判にまでいちいち難癖をつけて韓国政府を追い込むかもしれない」と懸念を示す。

 この懸念を先取りするように、北朝鮮の対外宣伝サイト、メアリは昨年5月、韓国の保守勢力が「表現の自由の名の下、フェイクニュースを拡散させるのに熱を上げている」と批判した。保守派が正恩氏の健康異常説をユーチューブなどで広めたことを指すようだ。韓国ではいまなお、「国家の分断」を名目に“言論の不自由”が正当化される現実が存在している。(ソウル 桜井紀雄)

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