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【特派員発】コロナ・暴行死 黒人社会の現実 上塚真由

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新型コロナウイルスの一大感染地となった米ニューヨーク市ブルックリン区イースト・ニューヨークの低所得者向け集団住宅に住むタワナ・マイヤーズさん(上塚真由撮影)
新型コロナウイルスの一大感染地となった米ニューヨーク市ブルックリン区イースト・ニューヨークの低所得者向け集団住宅に住むタワナ・マイヤーズさん(上塚真由撮影)
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 米国で拡大する新型コロナウイルスの感染や、その渦中に起きた白人警官による黒人男性暴行死事件は、社会をむしばんできた人種間の格差の現実をあぶり出している。パンデミック(世界的大流行)で大打撃を受けた東部ニューヨーク市の、低所得の黒人が多く住む地区を訪れ、格差の実態を取材した。(米東部ニューヨーク市ブルックリン区 上塚真由、写真も)

■コロナ「壊滅的だった」

 ブルックリン区のイースト・ニューヨーク。高層ビルが立ち並ぶマンハッタンの中心街から地下鉄で約1時間の距離だが、駅を降りると空き家が点在し、ゴミが散乱。道路もところどころ、修復されないまま放置されている。見かけるのは黒人ばかりで、白人はほとんどいない。

 市の調査で、同地区の一角が市内で最も新型コロナ感染が深刻だったことが分かった。人口10万人当たりの死者数は約660人で、マンハッタン区(約148人)の4倍以上だ。一帯には低所得者向けの集合住宅が密集している。

 「同じ住宅の住民は4人亡くなった。全員が50~60代の黒人で、コロナは壊滅的だった。恐ろしい」と、集合住宅で暮らす黒人女性、タワナ・マイヤーズさん(58)は話した。

 集合住宅に入ると、感染拡大の理由が分かる。マイヤーズさんの10階の部屋に向かうエレベーターに乗ると、住民でぎゅうぎゅう詰め。ソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つには困難な状況だ。300世帯以上あるのにエレベーターは2台だけでそれもたびたび故障する。

 付近にはマスクをしていない若者も多く、マイヤーズさんは「多くの人は、新聞やテレビのニュースを見ないので、状況を分かっていない」と嘆く。

 5月半ばに深刻な被害状況が明らかになり、市当局は集合住宅内の清掃を実施。住民らにマスクが配布されたが、それまでは物資や情報が不足し、「孤立」した状態だったという。

■白人流出、街は荒廃

 また多くの黒人の住民が慢性的な疾患を抱え、マイヤーズさんもその一人だ。ぜんそくや慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)を患い、吸入器が手放せない。外出には歩行器が必要だ。

 「タブレット端末がなく、コロナ禍で医者の診断も受けられなかった。近所には歩いて行けるウイルス検査所が一つもない。私たち黒人がコロナと戦うには、もっと支援が必要だ」

 イースト・ニューヨークは1960年代ごろまで白人の労働者階級の居住区として知られた。だが、公民権運動後の70年代から黒人の移住者が増えると、黒人との混住を嫌う白人たちが市郊外へと転居。人口流出が深刻となり、街は荒廃し、治安の悪化が進んだ。90年代には年間100件以上の殺人事件が起き、「ニューヨーク市の殺人の首都」(米メディア)と呼ばれるほどまでに悪化。その後、治安は次第に改善して昨年は殺人事件が10件まで減少したが、今もギャング同士の抗争は絶えない。

 米国で感染爆発が起きた多くは、こうした黒人が多く住む都市部の地域だ。米メディアは、住宅環境の悪さや医療サービス不足のほか、コロナ禍でも働きに出ざるを得ない住民が多いことなど、貧困問題に関連していると指摘する。さらに、コロナ禍によって、深刻な経済的打撃を受けているのも低所得者層だ。

■開発計画…家賃高騰を懸念

 建設作業員として働いていた同地区の黒人男性、ショーンさん(29)は、コロナ禍で一時解雇となった。雇用先は職場復帰を約束したが、復職の見通しはついていない。「順調だった生活が、コロナで振り出しに戻った」という。不動産業で働くパートナーのジャスミンさん(29)が家賃を負担。10カ月の娘のミルクや食料品は近くの食料供給所で無料で手に入れる毎日で、生活は次第に困窮を極めている。

 行政も貧困問題を放置しているわけではない。市議会は2016年、同地区の再開発計画を承認。計画には低所得者向けの住宅建設なども含まれるが、開発による家賃高騰を懸念する声は消えない。ジャスミンさんは「10年後にこの町からたくさんのゴミがなくなったとしても、そこに私たちはもういないかもしれない」と語った。

 5月25日、白人警官に暴行死させられたジョージ・フロイドさんも中西部ミネソタ州ミネアポリス市の黒人の低所得者が多い地区に住んでいた。事件への抗議デモは全米に広がったが、イースト・ニューヨークでは活発ではなかった。それでも、この町の多くの黒人にとり人ごとではない。ジャスミンさんはいう。

 「黒人の命を軽視されたフロイドさんの事件は、私たちの問題だ」

■BLM団体を発足 チボーナ・ニューサムさん

 米中西部ミネソタ州の事件を受けて拡大した抗議デモ「ブラック・ライブズ・マター」(BLM、黒人の命は大切)は、警察の行き過ぎた暴力の廃止だけでなく、社会の仕組みの変革を求めている。4年前にニューヨーク市でBLM団体を発足させたチボーナ・ニューサムさん(35)が運動の目的を語った。

 「私たちの要求の中で重要なのは警察に暴力をやめさせ、警察改革を法制化することだ。黒人への不当な暴力や過度な取り締まり、警察に監視される日常が変わらないことに激しい怒りを感じ、フラストレーションは限界に達している」

 《米調査機関「ピュー・リサーチ・センター」の調査で、黒人の45%が警察に不当に呼び止められたと答え、中南米系の19%、アジア人の16%、白人の9%に比べ格段に多かった》

 「警察の予算打ち切りも求めている。莫大(ばくだい)な予算を地域の学校や福祉に回すことが重要だ。黒人の問題は、貧困から抜け出せない構造的な仕組みが深くかかわっているからだ」

 「ニューヨーク市では学区ごとの固定資産税収入などで学校が運営され、その結果、所得格差が教育の不平等に直結している。貧困層の黒人の子供が多く通うブロンクス区の学校には本もほとんどない。こうした学校でこそより良い教育を提供することが必要だ」

 《警察予算打ち切りには米国民の多数が反対。ABCテレビの調査では反対64%、賛成34%だった》

 「新型コロナウイルス禍でも黒人のような経済的弱者が多く犠牲になった。貧困地域には生鮮食品のスーパーがなく、健康的な食べ物の入手が難しい。黒人が貧困から抜け出せないのは『怠惰だから』との主張は間違いだ。奴隷制度の時代から、社会のシステム自体が私たち黒人に不利になるように作られていることが根本の問題だ」

■全米の新型コロナ死 黒人の犠牲が圧倒的 米民間機関調査

 新型コロナウイルスの流行について、人種や貧困問題と、感染拡大の関連性が注目されている。

 ニューヨーク市は一時、米国の感染中心地となり、感染者は累計で21万人を超えている。だが、行政区ごとに様相は異なる。同市の統計によると最も貧困率が高いブロンクス区の10万人当たりの感染者数は、マンハッタン区の約2倍となった。同じ行政区でも所得の違いで地域の明暗が分かれており、貧困率が28・7%と高いブルックリン区イースト・ニューヨークは、同市の中でも新型コロナの被害が最悪の規模となった。

 一方、黒人が最も犠牲となっていることもデータが裏付ける。民間の調査機関「APMリサーチラボ」は、45州と首都ワシントンの感染状況を調査。6月23日までの集計では、人種別の10万人当たりの死者数は黒人が圧倒的に多く、65・8人。白人(28・5人)の2・3倍となった。

 人種間の所得格差も解消されていない。米政策研究機関「ブルッキングス研究所」によると2016年の白人世帯の純資産平均は17万1千ドルで黒人世帯(1万7150ドル)の10倍近い。貧富の差は近年、拡大傾向にあると報告している。

■米国の黒人

 英国の植民地だった1619年、今の南部バージニア州に西アフリカから奴隷として連れてこられたのが最初とされる。

 1861~65年の南北戦争を経て、65年に奴隷制は廃止されたが、その後も南部諸州で人種隔離政策である通称「ジム・クロウ法」が次々と成立した。1950~60年代に黒人たちが差別解消を求めて声を上げ、64年に成立した公民権法で人種などを理由とした差別が禁止されたが、黒人への不当な扱いは残る。

 2009年には米国初の黒人大統領としてオバマ氏が就任。近年は度重なる警官の暴力などで刑事司法制度への不満が高まり、黒人少年射殺事件で容疑者の白人男性が無罪となったことをきっかけに2013年、「ブラック・ライブズ・マター」運動が始まった。

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