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【ロシアを読む】今年も進展なかった日露領土交渉 プーチン氏の“意欲減退”鮮明に

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12月19日、ロシアのモスクワで年末の記者会見に臨むプーチン大統領。日露平和条約交渉は今年、目立った成果はみられなかった(ロイター)
12月19日、ロシアのモスクワで年末の記者会見に臨むプーチン大統領。日露平和条約交渉は今年、目立った成果はみられなかった(ロイター)

 日本とロシア間の最大の懸案である日露平和条約締結交渉と、それに付随する北方領土帰属交渉は2019年、複数回の首脳会談や外相会談、実務者協議が行われたものの、期待された具体的進展はなかった。北方領土での日露共同経済活動など信頼醸成プロセスでは一定の前進がみられたが、“本丸”である北方領土帰属交渉では、ロシアの態度はむしろ硬化している。プーチン露大統領の言動を中心にして今年の日露交渉を振り返るとともに、来年の展望を占った。(モスクワ 小野田雄一)

■「両国世論の支持必要」

 昨年11月のシンガポールでの首脳会談で、安倍晋三首相とプーチン氏は「平和条約締結後にソ連は日本に歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島を引き渡す」と定めた1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速させることで合意。日本国内では「4島回復の断念につながる」との批判が出た一方、「最低でも2島の返還が現実味を帯びた」との期待感も強まった。ロシア国内では、島の引き渡しに反対する抗議デモが起きたほか、世論調査でも回答者の大半が島の引き渡しに反対しているとの結果が出た。

 今年の日露交渉は1月14日、河野太郎外相(当時)とラブロフ露外相によるモスクワでの外相会談で始まった。ラブロフ氏は会談後の記者会見で「『南クリール諸島(北方領土のロシア側呼称)は第二次大戦の結果としてロシア領になった』ということを日本が認めない限り、交渉は前進させられない」とするロシアの立場を強調した。これを日本が認めた場合、「ロシアによる不法占拠」という日本の主張の根拠が失われることになり、日本にとっては容認しがたい主張だ。

 1月22日には安倍首相とプーチン氏による首脳会談もモスクワで行われた。プーチン氏は会談後の会見で「両国が相互に受け入れ可能な決定を得るためには綿密な作業が控えている。決定は両国世論に支持されなければならない」と発言。国内世論の反発を考慮し、交渉の長期化を示唆した発言として受け止められた。

■「交渉はテンポ失った」

 プーチン氏は3月、露財界人との会合で「平和条約締結には、日米安全保障条約からの日本の離脱が必要だ」「日露交渉はテンポを失った」との認識を示した。発言の背景には、この時期、米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を米国がロシアに通告し、「条約失効後に米国が日本にミサイルを配備するのではないか」との見方が広がっていたことがある。

 プーチン氏は6月下旬、露国営テレビとのインタビューで島の引き渡しについて尋ねられ、「そのような計画はない」と回答。同月末の大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた日露首脳会談を前に、日本に譲歩しない姿勢を強調した。実際、6月の首脳会談の成果は、平和条約交渉の加速継続の確認など形式的なものにとどまった。

 8月には、メドベージェフ露首相が4年ぶりに北方領土の択捉島に上陸した。

■日本を挑発?

 9月に露極東ウラジオストクで行われた日露首脳会談の後の記者会見で、プーチン氏は「平和条約締結問題は二国間関係にとどまらない。米国への日本の義務を考慮する必要がある」とし、日米安保条約が交渉の障壁になっているとの認識を改めて示した。日本側に島を引き渡した場合、そこに米軍の戦力が配備される可能性などを念頭に置いた発言とみられている。この首脳会談の直前には、プーチン氏は露企業が色丹島に建設した水産加工場の操業開始式典にビデオ中継を通じて参加。ロシア単独での北方領土開発に抗議してきた日本への挑発とも取れるような行動も見せつけた。

 ウラジオストクでの会談で両首脳は、11月の南米チリでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて次回会談を実施することで合意した。しかし露大統領府は10月30日、「プーチン大統領はAPECに参加しない」と発表。結局、APEC首脳会議自体がチリ政府の決定により中止となったが、プーチン氏の対日交渉への“意欲の減退”を象徴する出来事となった。

 12月19日にモスクワで行われた毎年恒例の年末記者会見で、プーチン氏は「日米同盟への懸念」という従来の主張を繰り返した。同日行われた日露外相会談でもこれといった成果はなかった。平和条約交渉の具体的な進展は、今年1年を通じてみられなかったというのが実情だ。

■共同経済活動で前進も

 平和条約交渉が停滞している一方、北方領土での日露共同経済活動や文化的交流、査証(ビザ)取得の緩和などの面では一定の前進もあった。

 6月の大阪での首脳会談で両首脳は、共同経済活動で事業化を目指すとされた(1)海産物養殖(2)温室野菜栽培(3)観光ツアー開発(4)風力発電の導入(5)ごみ処理対策-の5項目のうち、観光ツアー開発とごみ処理対策に関して具体化作業を進めることで一致。8~9月にごみ処理に関する両国専門家の意見交換を実施したほか、10月末には観光ツアーの試行事業も行われた。

 16年12月の山口県での首脳会談での合意に基づき、18~19年にかけてロシアで行われた交流事業「ロシアにおける日本年」では、文化や経済、スポーツなどで計600以上のイベントが開催され、延べ150万人以上が参加した。

 11月には露外務省が、現在は極東など一部地域に限定されている日本人を対象とした「電子ビザ」制度を、21年からロシア全土に拡大すると発表した。ビザ取得が簡素化され、日本からのロシア旅行の活性化が期待されている。

■制度設計で隔たり

 ただ、共同経済活動に関しては今後、協議の難航も予想されている。共同経済活動を開始するためには、日露双方の法的な立場を害さない形で経済事業と人の往来を可能にする新しい制度を構築する必要がある。制度設計をめぐる日露の見解の隔たりは埋まっていない。

 さらに共同経済活動は本来、平和条約締結に向けた信頼醸成プロセスだと位置付けられてきた。平和条約交渉で目立った進展のないまま、共同経済活動の前進のみを“成果”として掲げる日本政府の姿勢に対し、日本国内では「予算・外交資源の無駄遣いだ」との批判的な声も強まりつつある。来年の日本政府は、こうした国民の視線にどう応えるかということも課題となる。

■プーチン氏の興味減退

 平和条約交渉に対するプーチン氏の興味の減退は、別の場面でも間接的に露呈した。

 象徴的だった出来事が2つある。

 ひとつは、トルコ軍のシリア北部侵攻をめぐって10月に露南部ソチで行われたトルコのエルドアン大統領との会談。もうひとつは、ウクライナ東部紛争をめぐって12月にパリで行われたロシア・ウクライナ・ドイツ・フランスの4カ国首脳会談だ。

 前者ではプーチン氏とエルドアン氏の会談は6時間超に及んだ。後者も記者発表は当初の予定から5時間以上も遅れた。世界が注目したこの2つの会談ではともに、一定の合意が達成された。

 これらの会談から明らかになったのは、プーチン氏は一定の成果や結論を得る必要があると判断した場合、時間を問わずに徹底的に議論に応じるということだ。日露交渉では、このような姿勢は見えていない。

■米VS中露がマイナス要因

 日露双方の専門家の間では、ともに強い政治基盤に支えられた安倍首相とプーチン氏の在任中に平和条約が結ばれなかった場合、締結のチャンスはかなり遠のくとの見方が強い。安倍首相の任期は21年、プーチン氏の任期は24年までだ。

 日露外交筋は「日露交渉は残念ながら、世界が固唾をのんで結果を見守っているようなものではない。ロシア側から見れば、日本に“譲歩”するメリットはほとんどない。支持率が低下しているプーチン氏にも、あえて国民の反発を招きかねないような決断をする余裕はない」と分析する。

 米国とロシア、米国と中国の対立構造が当面続く見通しであることも、平和条約交渉のマイナス要因だ。ラブロフ露外相は11月、日米関係に関するロシアの「懸念のリスト」を日本に伝達したとし、日本側の対応を待つ考えを明らかにした。リストの詳細は不明だが、「引き渡し後の島に米軍が配備されないようにする」などとの確約を日本に求めた可能性が指摘されている。こうした要求は、日本国内への米軍の基地設置権などを定めた日米安保条約と矛盾する恐れがある。

 北朝鮮の脅威や、中国の軍事的な台頭、ロシアと中国の軍事協力関係の深化などアジア情勢が不安定化する中、日本は米国との同盟関係にひびを入れるわけにはいかないのが実情だ。国際政治の舞台における日本の“可動範囲”が大きくない現在の状況が続く限り、来年も日露平和条約交渉に大きな進展は期待しにくい。日本政府が交渉戦略を見直す必要性に迫られる可能性も否定できない。

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