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【欧州を読む】「富裕層の敵」英労働党のコービン党首 勝利なら「合意なき離脱」超す混乱か

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総選挙でライバルになる最大野党・労働党のコービン党首(左)と与党・保守党党首のジョンソン首相=11月10日(AP)
総選挙でライバルになる最大野党・労働党のコービン党首(左)と与党・保守党党首のジョンソン首相=11月10日(AP)

 12日に迫る英総選挙では、ボリス・ジョンソン首相(55)率いる与党・保守党が過半数を獲得し、来年1月末までの欧州連合(EU)離脱を実現できるかどうかが焦点となる。ジョンソン氏の「最大のライバル」になるのが、最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首(70)。「筋金入りの社会主義者」「富裕層の敵」…。さまざまな異名を持つコービン氏はどのような男なのか。(ロンドン 板東和正)

■個性と個性の戦い

 「ジョンソン氏と同じくクセが強い男だ」

 ロンドンに住む有権者の男性(35)は、コービン氏をそう評する。

 英南部チッペナム出身のコービン氏は、大学を中退後、労働組合勤務などを経て1983年に下院議員に当選した。英国では高学歴の議員が多い中、「異色の存在」だ。 

 よれよれのジャケットにノーネクタイがトレードマーク。きまじめで「最も経費を使わない国会議員」とも評され、バスに乗って帰宅する姿が度々、市民に目撃されている。

 常に労働者の味方であり続け、反戦や反核の主張を貫いてきた。2003年、ブッシュ(息子)米政権の主導でイラク戦争が始まり、労働党のブレア政権が参戦を決めた際は、同党所属にも関わらず、党の方針に何度も反発した。

 労働党党首に選出された15年9月の党首選では、当初は有力候補とみなされていなかった。しかし、低所得者を中心にコービン氏の庶民的な姿に賛同する有権者が徐々に増え、党内でも支持を伸ばした。 

 一方、今回の総選挙で対峙する保守党のジョンソン氏は、名門中等教育機関イートン校からオックスフォード大に進学した。ボサボサの金髪で身なりに構わない型破りな政治家ながら、れっきとしたエリートだ。冗談を交えた演説に定評があり、労働党の地盤とされるロンドンの市長を2期連続で務めた。

 英政府関係者は「有権者の高い支持と強い個性という面で、コービン氏とジョンソンは良い勝負だろう」と指摘する。

■庶民に寄り添うセンス

 英調査会社「ユーガブ」によると、3日時点の保守党の支持率は42%で首位。後を追う労働党は9ポイント低い33%で、3位の野党・自由民主党に21ポイントの差をつけている。今回の総選挙は、保守党と労働党の「二大政党」の争いになるとみられている。

 総選挙の最大の争点はEU離脱だが、医療や低所得者への公共サービスといった福祉分野に強い関心を寄せる有権者も目立つ。

 労働党は総選挙で、英国の国民保健サービスNHSの支出拡大や、ブロードバンド網の無料提供などを主張。「バラマキ」ともいえる公約で、保守党の獲得議席数にどこまで迫るのかが注目されている。中でも、ブロードバンド網を無料提供するとの公約は若年層の支持を集めており、「労働党の支持率上昇に貢献する可能性がある」(有権者)ともみられている。

 この公約のアイデアを出したのが、鉄道や電力会社の再国有化を訴えてきたコービン氏といわれている。

 英国の家庭でブロードバンド網の導入には月額30ポンド(約4200円)ほどかかり、貧困者にとっては重い負担だ。コービン氏は公約で、英通信大手の一部事業を国有化することで、10年以内にブロードバンド網を市民に無料で届けることを約束した。

 ロンドンに住む学生(23)は「日々、インターネットを使う学生にとって、これほどうれしい話はない。労働党支持者でなくても、お金に困っている苦学生なら票を入れたくなる」と指摘。「コービン氏には高齢者だけではなく、若い世代の庶民に寄り添うセンスがある」と絶賛する。 

■富裕層は労働党政権を警戒

 一方で、コービン氏の勝利に戦々恐々とする有権者もいる。それは、銀行家や資産家を中心とした富裕層だ。

 仮にコービン氏が政権を保守党から奪還すれば、富裕層に対する高税率を推し進める見通しだ。英BBC放送によると、コービン氏は、高額所得者が受け取る給料に制限をかけるため、「国が最高賃金を設定するべき」との信念も掲げている。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルは「英国内の投資家が、コービン氏が率いる労働党政権誕生の可能性におびえている」と指摘している。一部の欧米メディアは、コービン氏が首相に就任すれば、富裕層が国外に脱出して企業投資が後退すると予測。経済への影響が必至といわれる、EUからの「合意なき離脱」をも超える混乱が待ち受けている-との分析さえある。

 コービン氏が一部の有権者から毛嫌いされるのは、経済政策だけが理由ではない。

 BBCによると、コービン氏は長年、英領北アイルランドとアイルランドの「統一」を訴えてきたとされる。

 それが端的にあらわれたのが、1987年。英国による北アイルランド支配に反発するカトリック系のアイルランド共和軍(IRA)のメンバーが英陸軍特殊部隊に殺害された際、コービン氏は1分間の黙祷(もくとう)をささげたという。

 当時、反英武装闘争を展開していたIRAは、北アイルランドで英国統治の維持を主張する多数派プロテスタントにとっては「テロリスト」だ。コービン氏の行動はその逆鱗に触れ、今でも悪評がつきまとう。

 「労働党のことは嫌いではない。ただし、コービンが党首を務める労働党は支持できない」

 11月に英議会が解散して以来、有権者の声を拾っていると、このような意見がよく聞こえてきた。コービン氏のアクの強さや主張は、総選挙で「吉」と出るのか「凶」と出るのか-。

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