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【一筆多論】「不毛の地」日本が必要なら 遠藤良介

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東方経済フォーラムに合わせて開かれたU-18柔道トーナメントを観覧し、メダリストらの前で記念撮影に応じる安倍晋三首相(前列左)とプーチン露大統領(同右)=5日、ウラジオストク(ロイター)
東方経済フォーラムに合わせて開かれたU-18柔道トーナメントを観覧し、メダリストらの前で記念撮影に応じる安倍晋三首相(前列左)とプーチン露大統領(同右)=5日、ウラジオストク(ロイター)

 モスクワ特派員時代には仕事柄、現地のテレビ・ニュースをよく見た。

 ロシアの主要テレビ局はどこも政権の統制下にあるため、プーチン大統領や政府高官の動向を辟易(へきえき)するほど報じる。それに加え、実に長々と伝えるのが国連安全保障理事会のもようだ。

 国連安保理では、常任理事国である米国と中露がことごとく対立する構図が定着し、形骸化が進んでいる。だが、世界の重要問題について、何かが決まる必要などない。ロシアの国連大使が米国の大使を言い負かしているように見えること、あるいは米国の「横暴」をロシアの拒否権行使で阻止したように見えることが大事なのである。

 視聴者は、国連安保理こそが世界政治の中心であり、ロシアは米国と対等に張り合っているという印象を持つに違いない。

 いま一つ、ロシアのテレビが延々と流すのは、ロシアが毎年開催する国際経済フォーラムである。

 サンクトペテルブルク国際経済フォーラムや、南部ソチでのロシア投資フォーラム、極東ウラジオストクでの東方経済フォーラムなどがそうだ。これらはロシア経済の「魅力」をアピールし、外国の投資を呼び込む目的で開かれている。

 筋書きは似たり寄ったりだ。プーチン氏や閣僚がロシア経済の「明るい展望」を基調演説で力説する。外国要人や内外の財界人を交えた各種の討論会を行う。外国企業との合意文書の署名式を行い、「200以上の文書が署名された」などと成果を宣伝する。実際には「相互理解の覚書」といった空疎なものも多い。

 こうしたフォーラムの中で最も新しいのが、2015年にプーチン氏の号令で始まった東方経済フォーラムである。

 プーチン氏は通算3期目の重要課題に極東開発を掲げ、その起爆剤にしようとフォーラム開催を始めた。折しもロシアは14年のクリミア併合とウクライナ介入で欧米に経済制裁を科された。プーチン氏は、アジア諸国との関係を重視する「東方シフト」にかじを切り、それを極東の発展につなげようと考えた。

 しかし、事が思惑通りに進んでいるとはいえない。安倍晋三首相も参加した今月上旬の東方経済フォーラムについて、露紙は酷評している。例によって「記録的な数の契約」が喧伝(けんでん)されたが、実質的なものは何もなかった、と。

 極東地域はロシアの面積の36%を占めるが、人口は減少を続け、614万人にすぎない。いかにフォーラムで投資を呼びかけても、外国の大企業が進出するには市場として小さすぎる。モスクワなど西部に商品を運搬するのは高額で、政府の補助金がなくてはビジネスとして成り立ちにくい。

 今月の東方フォーラムでは、プーチン氏が色丹島に建設された水産加工場の稼働式典にテレビ回線で参加した。だが、北方領土の実効支配を誇示している場合ではない。

 極東地域では人口の25%近くが「貧困層」とされ、全国の水準を大きく上回る。政権の唱える「極東発展」が生活水準の向上に結びつかないため、住民の不満も高まりつつある。

 ロシアが望む極東開発は、純粋な経済やビジネスの論理では実現しない。日本の協力が必要なのであれば、北方領土の返還によって日露関係を根本的に好転させることが不可欠だ。安倍首相は、このことこそプーチン氏に強く訴えるべきではないか。(論説委員)

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