PR

【ベルリンの壁崩壊30年】(3)欧州平和の幻影 対露抑止より対話

PR

ロシア産天然ガスのパイプライン
ロシア産天然ガスのパイプライン

 「欧州連合(EU)vs偽情報」。EUが運営するこんな名前のサイトはロシアが絡む偽情報の監視が目的だ。7月には露メディアの「米国の意向に反する欧州諸国には北大西洋条約機構(NATO)の部隊活用もありえる」という報道を取り上げ、フェイク(偽)ニュースだと反論。2015年の開設以降、発見した偽情報は6千件を超える。

 2014年のウクライナ・クリミア半島併合以降、欧州にとりロシアの脅威は強まった。新型ミサイル開発など軍事的手段だけでなく、偽情報で世論の分断を図る手法は16年米大統領選でも使われ、欧米にとりその脅威は「すでに常態化した」(EU幹部)。特に懸念された5月の欧州議会選では、1月から選挙時期までに前年同期の倍となる約1千件が把握された。

 「社会を刺し貫く手段は最も危険だ」。東西分断時代のドイツで情報が果たした役割を知るカルステン・フォイクト元独連邦議会議員(78)はいう。

 だが、独北東部ルプミンには欧州とロシアの緊張と裏腹な光景があった。ロシアから天然ガスを直接ドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム2」の建設現場だ。バルト海沿いの敷地には多くの巨大パイプが設置されていた。

 露国営ガス企業ガスプロムが事業を主導し、ドイツなどの企業も協力。稼働中のパイプラインに並行して敷設され、年内完工を目指す。ガスはドイツ経由で欧州諸国にも供給され、事業会社担当者は「欧州のための事業だ」と強調する。

 事業への逆風は強い。EUはガスを外交圧力の手段に用いられるのを避けるため露産ガスへの依存低下と供給源の多様化を目指すが、米国ではトランプ大統領が「ドイツがロシアの人質になる」と批判し、議会も超党派で制裁を準備する。EUでも東欧を中心に反発や疑問は強い。

 メルケル独首相は「政治的要素を考慮する」と認めたが、私企業による「純粋な経済事業」として、建設を止めようとしない。

 「政治的意味がある。だからノルドストリームに賛成だ」。そう語るのは東西ドイツ統一を果たしたコール元首相の外交顧問だったホルスト・テルチク氏(79)。ロシアを含む欧州の戦争の歴史を踏まえれば、「欧州の持続的な平和はロシアとの対決でなく、ロシアとともにしか構築できない」とみるためだ。

 テルチク氏はそのために対話や協力関係の継続が不可欠で、ノルドストリームはその一環とする。対露経済制裁にも反対だ。ドイツではロシアと敵対しても孤立させないのが「大半の政党のコンセンサス」(フォイクト氏)で、世論も7割以上がノルドストリームを支持。「ロシアにはもっと接近すべきだ」との意見も5割を超える。

 制裁導入を主導するなど厳しい態度をとるメルケル氏も「対話の糸を切ってはならない」とし、ロシアを欧州に引きつけるためノルドストリームなど経済関係維持は必要だとする。

 だが、「ジャーマン・マーシャル基金」のヤン・テヒャウ上級研究員はドイツが対話重視に傾きがちな背景に、西独が1970年代に進めた「東方外交」と呼ばれる緊張緩和策への「過大評価」があるとみる。当時のブラント政権は「接近による変化」を掲げ、断絶していた東独など共産圏との関係正常化を推進した。

 ドイツでは米国との軍拡競争による旧ソ連の疲弊より東方外交の方が冷戦終結に貢献したとの見方が強いというが、テヒャウ氏は「東方外交は米国の強い核抑止力があり可能だった。抑止と対話は一つの戦略なのに、強い立場をとることを忘れている」と語る。

 独外交政策評議会のステファン・マイスター氏も、今のロシアに接近しても「政治的変化はもたらせられない」と強調。ドイツがロシアと対等な交渉をするには、ノルドストリームを「取引材料」にするほどの覚悟が必要と指摘した。(独北東部ルプミン 宮下日出男)

この記事を共有する

おすすめ情報