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【ベルリンの壁崩壊30年】(2)ゆらぐ共同防衛 当時の勇気はどこへ

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 西欧諸国にとり、北大西洋条約機構(NATO)に基づく共同防衛に代表される米国の存在は、特に欧州の安定という点で重要な意味を持った。2度の大戦を招いたドイツは、歴史的にその強大さから欧州だけでは押さえ込めない不安定要素とみなされてきたが、米国の軍事力がこの問題を解消し、西欧の対独不信を和らげてきた。

 ドイツも欧州連合(EU)結成に至る欧州統合の流れの中で、単独行動を控えることを是とし、多国間の枠組みを重視する姿勢が国際社会で評価され、信頼を回復した。ドイツ国民の間では「米主導の世界秩序で最も恩恵を受けてきた」(独週刊紙ツァイト)との認識が強い。

 米欧の民主主義は今、「新冷戦」とも称される時代の奔流の中で、中露からの挑戦に直面している。世界の国内総生産(GDP)に民主主義国が占める比率は5年後に中露など非自由主義的な国々に抜かれるとも試算され、冷戦時代にも増して米欧の連携が重要となるが、トランプ氏への嫌悪感がドイツ国内での議論に影を落としている。

 最たる例はトランプ氏が特に批判する国防費問題だ。ドイツはGDP比2%とのNATOの目標に対し、2024年でも1・5%にとどまる見通し。メルケル首相は一段の努力が必要だとしているが、その主張は「トランプ氏への融和」であるとして批判され、国民の5割以上が目標の義務化に反対する。

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 独シンクタンク「ジャーマン・マーシャル基金」のヤン・テヒャウ上級研究員は、国防費増が「安全保障上の利益だと伝わらない」のが実情だと説明する。

 国民意識の土壌に、1990年の東西統一の影響があると指摘する声もある。現職の独大統領府外交部門責任者、トーマス・バガー氏が最近発表した「1989年の再評価」と題する論文はその点で注目された。

 バガー氏は、統一を実現したコール首相(当時)が語った「ドイツは初めて友人とパートナーのみに囲まれた」との言葉を引いて、ドイツが「平和の配当」を受ける中で「脅威への感覚」を失ったと主張した。歴史的に近隣国の脅威にさらされてきたドイツが統一でやっと獲得した平和への強い感慨ゆえに、新たな国際環境への対応を難しくさせているという説だ。

 ジャーマン・マーシャル基金のテヒャウ氏も、ナチス時代の苦い経験からドイツ国民には「再び歴史の誤った側に立つことへの不安」が強いため、安全保障・外交で「道徳的に耐えうるか否か」が優先される傾向があると指摘。このことが先行きや全体を俯瞰(ふかん)した「戦略的」な議論を難しくさせている要因とみる。

 「ドイツ人が統一で『もう自分を守る必要がない』と理解したなら問題だ」

 そう語るのはベルリンの壁が崩壊した89年当時の駐東独米公使で、現在、ドイツで安全保障研究所を率いるジェームズ・ビンデナーゲル氏(70)だ。

 ビンデナーゲル氏もトランプ氏の政策に不安を抱く一人ではあるが、「彼が世界の変化をもたらしたのではない」と指摘する。

ベルリンでインタビューに応じる元駐東独米公使のジェームズ・ビンデナーゲル氏(宮下日出男撮影)
ベルリンでインタビューに応じる元駐東独米公使のジェームズ・ビンデナーゲル氏(宮下日出男撮影)
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 その経済力と軍事力で米国の覇権を奪おうとする中国と、米欧をつないだ自由主義を「時代遅れになった」といってはばからないプーチン氏が統治するロシア。権威主義国家への対応のため欧米は今、共通戦略を議論し、戦後に米国が果たしてきた役割を欧州が多く肩代わりすべきときなのに、ビンデナーゲル氏は「ドイツは西独時代と同じまま(米欧の同盟関係が)機能するのを期待しているようにみえる」という。

 89年11月9日のベルリンの壁崩壊は、当時の旧東独市民が当局による鎮圧を恐れず、自由を求めてデモを繰り広げた結果だ。その様子を見てきたビンデナーゲル氏には、国際的な貢献に尻込みするドイツ国民が当時の志を忘れているように思えてならない。

 「ドイツに今、必要なのはあの時、市民が示した自由のために戦う勇気だ」(ベルリン 宮下日出男)

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