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【ベルリンの壁崩壊30年】(1)庇護者の米国、今や「脅威」

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 戦後の東西冷戦を象徴したベルリンの壁崩壊から30年の節目が近づいている。米国第一を掲げるトランプ大統領の登場でかつての自由主義陣営の絆は緩み、ドイツ人はトランプ氏の米国を最大の脅威とみなす。中露が虎視眈々と楔を打ち込む機会をうかがう中、「西側諸国」はどこに向かうのか。欧州で激動の現場を訪ねた。

 ベルリン中心部の旧テンペルホフ空港を5月、1人の元米兵が訪れた。ゲール・ハルボーソン氏。98歳。

 「ベルリンの自由に命をささげた人々のために来られたことは栄誉なことだ。ここは私にとって、第二の故郷です」

 第二次大戦後の1948~49年、「ベルリン大空輸作戦」にパイロットとして従事したハルボーソン氏がこう訴えると、聴衆は起立して敬意を表した。作戦終了から70年を記念する式典が空港脇にある公園で開かれたときの光景だ。

 戦後、ドイツ東部と東ベルリンを占領した旧ソ連は当時、英米仏が統治する西ベルリンへの陸路を封鎖した。1年近く連日続けられた空輸作戦は陸の孤島となった西ベルリンの市民を救うもので、英米仏が撃墜の危機を冒して生活物資を届けた。子供らのため小さなパラシュートで菓子を空から落とすアイデアを発案したハルボーソン氏ら英雄たちのことを今のベルリン市民は忘れていない。

ベルリン大空輸作戦終了70年記念式典で地元市民と話し合う元米兵、ゲイル・ハルボルゼン氏=5月12日、ベルリン市内(宮下日出男撮影)
ベルリン大空輸作戦終了70年記念式典で地元市民と話し合う元米兵、ゲイル・ハルボルゼン氏=5月12日、ベルリン市内(宮下日出男撮影)
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 「自由のための戦いは報われる」。西ベルリン出身のミヒャエル・ミュラー・ベルリン市長(54)は式典でこう訴えた演説で、作戦で育まれた米国への「信頼」が89年11月9日の壁崩壊と90年の東西ドイツ統一の礎になったとしたが、米大使は所用を理由に式典を欠席した。

 自動車輸出で貿易黒字を稼ぐ一方、安全保障では米国にタダ乗りしている-。こうドイツ批判を繰り広げるトランプ米大統領は、欧州連合(EU)を「ドイツの道具」として懐疑の目を向け、北大西洋条約機構(NATO)加盟国としての国防費支出増を求める。

 そんなトランプ氏に、メルケル独首相が臆する気配はない。今年5月の米ハーバード大での演説では、87年に当時のレーガン米大統領がベルリンの壁付近で「この壁を壊しなさい」とソ連に訴えた有名な言葉になぞらえ、「頭の中の無知と偏狭の壁を壊しなさい」とトランプ氏を批判し、多国主義の重要性を唱えた。

 「米国はドイツ存続に関わる最重要パートナーだったが、今や価値観で対立する。全く新たな局面を迎えた」。冷戦終結を挟み、対米関係に長年従事した知米派の重鎮、カルステン・フォイクト元独連邦議会議員(78)は独米関係の現状の深刻さをこう嘆く。

 敗戦で東西に分断されたドイツでは西ドイツがNATOや自由貿易体制など米国の庇護(ひご)の下で民主主義を定着させ、繁栄を享受。東西統一には英仏が強大なドイツの復活を警戒したが、米国は一貫して支持し、欧州統合も後押しした。

1989年11月9日、東西ドイツの国境開放後にベルリン・ブランデンブルク門前の「ベルリンの壁」の上に立つ人々(DPA提供・AP=共同)
1989年11月9日、東西ドイツの国境開放後にベルリン・ブランデンブルク門前の「ベルリンの壁」の上に立つ人々(DPA提供・AP=共同)
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 だが、トランプ氏はその多国主義の秩序を否定する。フォイクト氏は「一国主義は欧州で古い問題を呼び起こし、ドイツの核心的利益にかかわる」と危機感を強める。ドイツの世論は今やトランプ氏の米国を中露以上の脅威とみなす。

 独保険会社「R+V」が昨年9月に発表した世論調査で、ドイツ国民に「最大の不安」を尋ねたところ、「トランプ米大統領の政策」(68%)が首位で、2位は「難民」(63%)。米調査会社「ピュー・リサーチ・センター」の同時期の調査で、トランプ氏を「信頼する」とした10%は、プーチン露大統領(35%)、中国の習近平国家主席(30%)を大きく下回った。

 「中国やロシアよりも米国が脅威だなんて、ばかげている」。独シンクタンク「ジャーマン・マーシャル基金」のヤン・テヒャウ上級研究員は、ドイツ国民がトランプ政権に向ける厳しい視線に、戸惑いを隠せない様子で語った。(ベルリン 宮下日出男)

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