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【激動ヨーロッパ】メルケル独首相、後継禅譲へ「危険な賭け」

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19日、ヨルダンの空軍基地で独連邦軍の駐留部隊を視察後、報道陣に応対するクランプカレンバウアー独国防相(ロイター)
19日、ヨルダンの空軍基地で独連邦軍の駐留部隊を視察後、報道陣に応対するクランプカレンバウアー独国防相(ロイター)

 ドイツのメルケル首相の有力後継候補である保守系与党、キリスト教民主同盟(CDU)の女性党首、アンネグレート・クランプカレンバウアー氏が試練に直面している。指導力の弱さや失言で国民の支持が低下。巻き返しのため兼務することになった国防相は、不祥事の多い“鬼門”ポストとされる。メルケル氏が描く円滑な禅譲には「危険な賭け」(メディア)となりそうだ。(ベルリン 宮下日出男)

 「ドイツの貢献が国際的なテロとの戦いで、いかに重要かが明らかになった」

 クランプカレンバウアー氏は19日、訪問先のヨルダンで米欧によるイスラム過激派掃討に参加する独軍部隊を視察し、こう強調した。7月24日の国防相就任後、部隊の海外派遣先を訪れるのは初めて。この約1カ月、国防相と党首の「二足のわらじ」で慌ただしく業務をこなしてきた。

 国防相を兼務することになったのは、前任のフォンデアライエン氏が欧州連合(EU)の次期欧州委員長に決まり、後任が必要になったからだ。それまでクランプカレンバウアー氏は入閣をきっぱり否定していため、この人選に国内では大きな驚きが広がった。

■「前方への逃避」

 「状況が変わった」。自身は方針転換の理由をこう語る。政権は今、連立相手の中道左派、社会民主党が離脱する懸念が高まり、大きく揺れる。このためCDUとして、党首入閣で政権維持への意思を明確するのが適切との判断に「メルケル氏と私は至った」のだという。

 だが、理由はそればかりでなさそうだ。独メディアはこの決断をクランプカレンバウアー氏の「前方への逃走」(経済紙ハンデルスブラット)だと指摘する。

 クランプカレンバウアー氏は昨年2月、メルケル氏が意中に置く後継候補として地方の州首相から党幹事長に大抜擢。昨年12月には寛容な難民政策など「メルケル路線」に反対する保守派の対抗候補と大接戦の末、党首選を制した。

 その後、党内の分断克服と党勢回復を担ったが、5月のEU欧州議会選で党は過去最低の結果に低迷。選挙前に若者がCDUの気候変動対策を批判したネットの投稿動画について、「世論操作」と反論して大きな批判を浴びるなど、誤解を招く発言でしばしば物議も醸した。

 この結果、独メディアの政治家人気ランキングでクランプカレンバウアー氏は党首就任当時の2位(支持率58%)から、6月には12位(同33%)に転落。首相に「ふさわしくない」との回答が71%に上る世論調査の結果も報じられた。

 「このままでは首相への野心にサヨナラすることになると気づいた」。CDU幹部はメルケル氏とクランプカレンバウアー氏の判断についてこう語る。重職の国防相として政府の経験を積みながら、新たなスポットを浴びることで支持回復を図る-との狙いだ。

■国防省は「地雷原」

 だが、この人事には「冒険」(独紙フランクフルター・アルゲマイネ)との見方がもっぱら。国防省は連邦軍も含め、かねて不祥事が多く、歴代国防相が政治家としての将来を傷つけられた事例が少なくない。首相に上り詰めた国防相経験者は戦後1人だけだ。

 フォンデアライエン氏も在任中、連邦軍将校による要人暗殺計画のほか、多くの軍装備品に欠陥が見つかるなどの問題が相次ぎ、最近は国防省にも不自然なコンサルタント契約をめぐる疑惑が浮上。かつてはメルケル氏後継の候補といわれたが、その芽をつまれた。

 「一歩でも間違えれば、首相候補の立場が消える地雷原」。独誌シュピーゲルは国防相の役職の難しさをこう表現した。

 防衛政策は社民党との対立が大きな分野でもある。秋には中東で過激派掃討に参加する独軍部隊の派遣延長手続きが必要となるが、社民党では反対論が強まっており、連立継続のため、どう理解をとりつけるか最初の正念場となる。

 党首としても修羅場が続く。9月1日には東部2州の議会選挙が行われるが、世論調査では移民・難民危機で台頭した右派ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「ドイツのための選択肢」(AfD)にCDUが敗北する可能性もあり、その場合、今後の首相候補を決める党内議論で保守派のライバルらに追い落とされる懸念も否定しきれない。

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