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【ロシアを読む】高まる反プーチン機運 モスクワ市議会選で激しい抗議デモ

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8月10日に行われたモスクワ市議会選の不正疑惑をめぐる抗議デモ。数万人が参加し、プーチン政権を批判するシュプレヒコールが上がった=モスクワ(小野田雄一撮影)
8月10日に行われたモスクワ市議会選の不正疑惑をめぐる抗議デモ。数万人が参加し、プーチン政権を批判するシュプレヒコールが上がった=モスクワ(小野田雄一撮影)
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 9月8日に予定されるモスクワ市議会選(定数45)をめぐる不正疑惑への抗議デモが収まる気配を見せない。ロシアの警察当局は既にデモ参加者らを2000人規模で拘束し、行政罰や刑事罰を科すなど強権的な手法で事態の沈静化を図っているが、抗議側の反発はむしろ強まっている。従来はモスクワ市民もそれほどの関心を示してこなかった市議会選で今回、なぜここまでの騒動が起きているのか-。背景を探っていくと、プーチン露政権への不満の強まりや自由への希求など、ロシアに兆しつつある変化が見えてくる。(モスクワ 小野田雄一)

有効な署名も無効に?

 今回のモスクワ市議会選では、反政権派指導者として知られるアレクセイ・ナワリヌイ氏(43)の周辺グループや、社会民主主義を志向するリベラル系政党「ヤブロコ」などから10人以上の活動家らが立候補を予定していた。これらの立候補予定者は、届け出に必要な有権者5000人分の署名を市選挙管理委員会に提出。しかし市選管は「多くの署名が偽造されたもので、無効だ」として立候補登録を却下した。

 しかしその後、署名した有権者の証言などから、実際には有効な署名も無効とされていた疑惑が浮上。活動家らは立候補登録を認めるよう求めたが、市選管側は拒否した。結局、7月中旬に立候補登録は締め切られ、活動家らは「反体制派の議席獲得を阻止したい市当局側が、有効な署名を故意に無効とした」などと訴えている。

延べ10万人が参加

 立候補を却下された活動家らは市民に抗議デモへの参加をSNS(会員制交流サイト)上で呼びかけた。最初の大規模なデモは7月14日に当局の許可のないまま開催され、ロシア警察当局によると約1000人が参加。25人以上が「公共の秩序を乱した」などとする容疑で拘束された。当局側はデモ参加者数を実際より少なく公表するのが通例で、実際はその数倍に上ったとみられている。

 7月20日には当局の許可の下でデモが開催され、非政府系団体によると、2万2000人以上(当局側発表では1万2000人)が参加。近年では異例の規模となった。

 デモの大規模化への懸念からか、当局は7月27日に予定されたデモついては再び実施を許可しなかった。無許可デモは拘束リスクが高いにもかかわらず、この日も1万人以上(当局側発表では3500人)が集まり、1000人以上が拘束。8月3日に行われた同様の無許可デモにも数千人(当局側発表では1500人)が参加し、600人以上が拘束された。

 8月10日には再び当局の許可の下でのデモが開催され、6万人(当局側発表では2万人)が参加した。一部の参加者が許可された時間や場所を超えてデモを続けたため、130人以上が拘束された。

強硬姿勢強める当局

 収まらないデモに当局側は強硬姿勢を強めている。当局側は、一連の無許可デモを呼びかけて公共秩序を乱したなどとして複数の活動家を拘束。日本円で数十万円単位の罰金を科すなど、事態沈静化に躍起だ。

 拘束したデモ参加者に対しても同様だ。当局側は従来、拘束者には罰金や短期収監などの行政罰で対応してきた。しかし7月下旬以降、当局は無許可デモを「暴動」とみなし、刑事罰の適用を拡大していく方針を示唆。実際に8月上旬時点で、活動家や参加者ら少なくとも計12人が刑事事件として立件された。露メディアによると、有罪となった場合、10年以上にわたって収監される可能性がある。

 行政事件としても1000人以上が立件され、うち半数超は既に裁判所から短期収監や1万ルーブル(約1万6000円)程度の罰金支払いなどを命じられた。

 ロシアは対外的にも神経質になっている。露外務省は8日、ドイツメディアが無許可デモへの参加を露市民に呼びかけたとして、在露独大使館に抗議したと発表。9日には無許可デモの開催場所をSNS上で告知したとして、在露米国大使館に抗議したとも発表した。

 11日には、露通信規制当局が、動画サイト「ユーチューブ」を運営する米グーグルに対し、「無許可デモの動画を流すのは選挙妨害だ」として対策を要求。守らなかった場合は必要な措置を取ると警告した。

「プーチンは去れ!」

 注目に値するのは、モスクワ市議会選という、いわば“マイナー”な問題で、なぜここまで抗議運動が拡大したのか-という点だ。モスクワ市政は2010年以降、プーチン政権と一心同体とされるソビャーニン市長が実質的に牛耳ってきたことから市議会の影響力は低く、大半の市民も市政に無関心だったためだ。

 デモでのシュプレヒコールは、その答えの一つとなりそうだ。デモでは「立候補を認めろ!」「モスクワはわれわれの街だ!」といった通常の要求に加え、「プーチン(大統領)なきロシアを!」「プーチンは必要ない!」など、形式上は無関係なプーチン政権を批判する大合唱が頻繁に上がっている。モスクワ市議会選をめぐる抗議デモは、プーチン政権への不満を表明するための口実ともなっていることは間違いない。

統一地方選が試金石に

 長びく経済低迷などでプーチン政権の支持率は過去最低水準が続いている。露独立系機関「レバダ・センター」が7月末に発表した世論調査結果によると、「(大統領任期が満了する)2024年以降もプーチン氏に大統領でいてほしいか」という問いに、回答者の38%が「いてほしくない」と回答。この回答は昨年の調査から11ポイント増加しており、国民の熱狂的支持を受けた14年のクリミア併合以降で最高の数値となった。

 プーチン政権の人気低下の背景としては、長びく景気低迷やメディア・インターネット規制の強化、年金支給開始年齢の引き上げ政策、クリミア併合で高まった愛国心の沈静化といったさまざまな要因が指摘されている。最近の世論調査では「ロシアは軍事的な強国を志向するのをやめ、経済や福祉、環境政策に予算を使うべきだ」と考える国民の割合も増えている。

 モスクワ市議会選と同じ日には、ロシア各地で知事を決める統一地方選も行われる。一部地域では既に、プーチン政権派の候補が落選する可能性が伝えられている。ロシアの選挙は政権側に有利な仕組みで、完全に民意が反映されるわけではない。それでも次の統一地方選では「モスクワ市議会選をめぐる騒動はロシア社会の変化を示しているのか」という問いへの答えの一端が見えるはずだ。

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