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【久保田るり子の朝鮮半島ウオッチ】欧州で無視された「北の代弁者」 米からはイエローカード

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15日、パリのエリゼ宮でマクロン仏大統領(右)と握手を交わす文在寅大統領。文氏が唱える対北制裁の緩和は一蹴された(AP)
15日、パリのエリゼ宮でマクロン仏大統領(右)と握手を交わす文在寅大統領。文氏が唱える対北制裁の緩和は一蹴された(AP)

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は10月中旬、欧州を訪問して仏、英、独、伊、ベルギー、欧州連合(EU)、ローマ法王、タイの首脳らと会談し、「北朝鮮の制裁緩和」を説得するセールス外交を繰り広げた。各国首脳とも「北朝鮮には制裁を継続し、完全かつ不可逆的で検証可能な核廃棄(CVID)につなげるべき」との立場を明確にして文氏の要請に応じなかった。文大統領の先走りが国際社会で違和感を広げるなか、米国は文政権に「警告」を発している。

■文大統領と国際社会との温度差が浮き彫り

 欧州首脳で文大統領の制裁緩和に同調する人物は1人もいなかった。ベルギーでのアジア欧州会議(ASEM)首脳会議(51カ国首脳が出席)は議長声明で「北朝鮮に対し、すべての核兵器を完全かつ検証可能、不可逆的な方法で破棄するよう求める」と明記し、制裁とCVIDが原則であることを確認した。

 文大統領は一連の会談の中でも、マクロン仏大統領、メイ英首相を重視していたようだ。英仏は国連安全保障理事会の常任理事国で国連制裁には影響力があるためだ。文大統領は両首脳に「北朝鮮は核実験場を爆破しミサイル実験場の破棄を約束した」などと説明、「少なくとも北朝鮮の非核化が後戻りできない段階に来たという判断に立つなら、国連の制裁緩和を通じ非核化を促進していくべきだ」と安保理での働きかけを求めた。

 しかし、マクロン氏は「フランスは北朝鮮がCVIDによるプロセスを始めることを期待する」として「そのときまで国連制裁を継続しなければならない」と明言。メイ氏は「北朝鮮はCVIDに対する具体的行動が必要だ」と取り合わなかった。

 文大統領の北朝鮮を代弁する主張は、これまでは控え目に米国に対して発せられていただけだったが、欧州訪問で国際社会から「ダメ出し」された格好だ。仏ルモンド紙は「文大統領がフランスに来る理由は北朝鮮の立場を支持するためだ」と直截に評した。

 文大統領の唯一の成果はバチカンでローマ法王フランシスコと会談、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が法王の訪朝を希望していることを伝え、法王から「無条件で応じる」と快諾を得たことだ。法王招請は9月の平壌での南北首脳会談で文大統領が金正恩氏に提案したもので、実現すれば文大統領の“橋渡し”が成功したことになる。

 欧州訪問で「制裁緩和」を訴えた文大統領だが、先月までは北朝鮮が固執する「終戦宣言」を「最重要課題」としていた。ところが今月に入って北朝鮮が、「米国が終戦を望まないのであればわれわれも未練はない」(朝鮮中央通信)と態度を変え、「われわれの非核化措置にも関わらず、制裁圧力の維持を叫ぶことは完全な矛盾だ」(同)と制裁緩和要求に転じるや、文大統領も「制裁緩和を通じて非核化を促すべきだ」にシフトしたのだ。

 北朝鮮が司令塔になったかのような韓国の従北ぶり。すでに「北朝鮮の代弁者」の異名が付いた文大統領だが、欧州首脳はあくまで原則論で突き放した。

■米国の「警告」が始まった

 米国は韓国の態度に不満を募らせている。

 平壌の南北首脳会談後、米財務省が韓国の複数の銀行に「北朝鮮に対する国連制裁を順守せよ」と要請する電話連絡を行っていたことが、10月下旬の韓国国会の国政監査で報告された。

 この報告によると、米財務省は9月中旬、韓国の政府系と民間大手の銀行計7行(産業銀行、国民銀行、新韓銀行など)の米ニューヨーク支店に連絡。その後、米財務省財務次官(テロ・金融犯罪担当)が各銀行幹部との電話会議を持った。

 そこでは、韓国の銀行が北朝鮮・開城(ケソン)や金剛山(クムガンサン)などに支店を出すとの情報があることに関連して、そうした活動は制裁違反であることや、「統一」をうたった金融商品も違反であることなどが伝達されたという。制裁破りをすれば米国の対北制裁法に抵触して米独自制裁を受けると、“イエローカード”を突きつけた格好だ。米側は「北朝鮮に対する金融協力は米国の政策と一致しない」ことを強調して注意喚起したという。

 こうした情報は韓国の保守系野党が各銀行に調査して明らかになったもので、韓国政府も事実を認めた。政府は「米財務省の通常の業務」「誤解が解けた」などと抗弁したが、米制裁の対象になれば各銀行の外国為替業務が停止され、銀行は経営危機に直面することになる。米制裁は「疑わしい取引に対する報告の不履行」などで巨額の罰金を科す例もあり、警告自体が米国側の不信感の強さを物語っている。

 だが韓国は、米国の警告を無視するように、南北鉄道連結のための合同調査は今月末から開始する予定だ。南北は鉄道道路の連結の着工式を11月から12月に行うことで合意している。

 韓国紙、朝鮮日報によると、米政府は韓国政府に「鉄道連結など南北経済協力事業のリストとタイムテーブル」の提出を要求し、「事業者が国連制裁違反に抵触しないことを韓国政府が保証することを要請」(同紙)したという。

 韓国金融機関は米韓政府の間で戦々恐々としているようだ。(編集委員)

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