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【激動ヨーロッパ】米欧同盟の成果かすませるトランプ氏の攪乱言動 実は重要決定目白押しだったNATO首脳会談

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 今月11~12日にブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議は、国防費をめぐるトランプ米大統領と他の首脳の緊張ばかりが目立った。実際にはロシアへの抑止力向上など同盟強化に向けた重要な事柄がいくつも決定されたのだが、同盟をかく乱するようなトランプ氏の強硬な言動が成果を覆い隠し、結果として米欧の「亀裂」を印象づけることになった。(ベルリン 宮下日出男)

 2日目の12日昼、報道陣が詰める施設ではトランプ氏の記者会見が急遽(きゅうきょ)設定され、緊張が走った。国防費増大の再確認など主要議題は11日に共同宣言として採択されていたが、トランプ氏には6月の先進7カ国(G7)首脳会議で承認を事後撤回した“前科”がある。直前の議論の様子が「またか?」との不安を生んだ。

勝利宣言?

 12日の協議ではトランプ氏が別議題の討議中、各国の国防費が不十分だと突然批判を開始した。このため、ストルテンベルグ事務総長が、協議に加わっていた非加盟のウクライナ、ジョージアの両首脳を退席させ、緊急に国防費問題を再協議する異例の事態となった。

 加盟29カ国中、国内総生産(GDP)比2%との目標を満たすのは米英など5カ国のみ。トランプ氏はドイツなど特に比率の低い国をやり玉に挙げ、目標を期限の2024年でなく「直ちに」達成せよと要求。できなければ、米国は「勝手に行動する」とも迫った。

 ただ、トランプ氏は会見で「強い不満」を首脳らに伝えたとする一方、「すばらしい会議だった」と誇らしげに評し、懸念されたNATO離脱も「必要ない」と表明。目標達成の前倒しは合意されていないが、土壇場の紛糾は「勝利宣言」(ロイター通信)のための演出との印象すら与えた。

テコ入れ逆効果

 「テコ入れという点ではトランプ氏は目的を果たした」。シンクタンク「ドイツ外交政策評議会」のヘニング・リーケ氏は首脳会議について、こう分析する。

 欧州の国防費増大は米国がかねて求めてきた課題であり、トランプ氏の圧力が動きを加速させているのは確かだ。米以外の加盟国の国防費は17年、近年最大の増加を記録しており、ストルテンベルグ氏も「トランプ氏の指導力のおかげ」と評する。

 ただ、その圧力のかけ方は議論も呼ぶ。最たる例がドイツへの対応だ。

 トランプ氏は会議直前、ロシアに対するエネルギー依存などを取り上げ、ドイツを「われわれがロシアから守っているのに数十億ドルをロシアに払っている」と激しく批判。ドイツは「ロシアの捕虜」とも言い切った。メルケル独首相との会談後、融和姿勢も見せたトランプ氏は「ディール(取引)に効果的な手法だ」と胸を張る。

 ただ、メルケル氏は目標達成へ一段の努力を表明したが、国内では国防費急増への慎重論や「反トランプ感情」は強い。「人を動揺させるようなショーが、国内での冷静な議論を一層難しくした」。リーケ氏はトランプ氏の手法が逆効果になることを懸念した。

決定事項が「本質」

 一方、ストルテンベルグ氏は「NATOは首脳会議前より団結したと感じる」と総括した。国防費や貿易問題で首脳間に相違は残るが、意志決定という「本質で実行力を示した」とみるからだ。実際、今回の会議の決定にはNATO強化に重要な政策が目白押しだ。

 大きな柱は対露抑止力の強化。従来も拡充してきた有事即応では、さらに一定規模の陸・海・空軍部隊が30日以内に展開できる態勢を整え、欧州大陸の部隊移動を調整する司令部をドイツに新設。大西洋のシーレーン(海上交通路)確保を担う新司令部も米国に置く。有事には米国から応援が駆けつけるとのシグナルだ。

 軍事力と情報操作やサイバー攻撃などを組み合わせて相手国に動揺を与えるロシアのハイブリッド攻撃への対応も強化。ギリシャと国名論争の解決にめどをつけたマケドニアの加盟交渉開始の承認は、バルカン半島での影響力拡大をうかがうロシアへの牽制となる。

 「(今回の首脳会議は)危機があったような印象をもたれるが、過去数年で最も充実した会議という現実とギャップがある」とNATO関係者は漏らす。国防費の緊張した議論がこれらの決定をかすませた。

 「トランプ氏はNATOに反対する行動はとっていない。だが、その言葉が打撃を与えている」と語るのは英国のアダム・トムソン元NATO大使。リーケ氏はそれに伴う「不安と信頼喪失がNATOを損っている」との見解を示している。

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