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【緯度経度】イスラエル空軍が宿敵イランと直接対決 米不在の中東、迫る次の危機 三井美奈

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イスラエル空軍が宿敵イランと直接対決 米不在の中東、迫る次の危機 三井美奈

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エルサレムで演説するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(ロイター) 1/2枚

 その瞬間は今月10日早朝、やってきた。中東最強を誇るイスラエル空軍が歴史上初めて、宿敵イランと直接対決した。

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 まずイスラエル空軍のトマー・バー司令官の説明を聞こう。

 「イランの無人機が暗闇に紛れてわが国の領空を侵犯したため、1分半後に攻撃ヘリでたたいた。無人機の操縦拠点はシリア軍基地にあり、空軍は即時に出撃した。その際、数十発の地対空ミサイルで反撃された」。イスラエル軍の戦闘機1機が被弾し、領内に戻ったところで墜落した。

 問題の基地は、イスラエルとの境界から北東約300キロのパルミラ近郊にある。イスラエル紙ハアレツによれば、イラン革命防衛隊はそこに無人機の移動式操縦拠点を設けていた。イスラエルの攻撃は、シリアの防空網のほぼ半分を壊滅させる大規模なものだったという。無人機の領空侵犯から、わずか1時間後の急襲だった。

 イスラエルの北東に広がるシリア南部では近年、レバノン拠点のイスラム教シーア派組織ヒズボラが不穏な動きを見せていた。ヒズボラは革命防衛隊の「別動隊」としてシリア内戦に出兵し、アサド政権を支えた。イスラエル軍は「ヒズボラはイランからシリア経由でミサイルを入手している」と非難し、昨年来、小規模なヒズボラ攻撃を繰り返した。イスラエルとヒズボラは2006年、レバノンを戦場に約1カ月間交戦しており、戦闘再燃が懸念されていた。

 イスラエル対ヒズボラの戦争でも重大事なのに、イランが前面に出る可能性も浮上して、緊張は一気に高まった。

 さらに大きな心配もある。元イスラエル軍情報部のヨシ・キュペルバッサー元准将は電話インタビューで「今回の攻撃はイランだけでなく、ロシアへのメッセージでもある」と語った。ヒズボラ、イランの背後にはさらに、ロシアのプーチン政権の中東戦略があるというのだ。

 イスラエルとロシアの関係は悪くない。ネタニヤフ首相は1月末にモスクワでプーチン大統領と会談した。

 ネタニヤフ氏はこのとき、プーチン氏に「ロシアがイランを止めないなら、われわれが自力で止める」と警告し、その12日後に攻撃は起きた。キュペルバッサー元准将は「イランの増長を放置すれば、ロシアもツケを払うことになるという警告だ。ロシアはイランを止める力があるのに、イランを放置してきた」と言う。

 アサド政権を支援するロシアは、シリアにS400地対空ミサイルを配備し、制空権を握った。そんなロシアがイランの無人機投入を知らなかったとは考えにくい。少なくとも、イスラエルはそうみている。

 ロシアの最大のライバルである米国のトランプ政権は、シリア内戦を筆頭に最近の中東国際政治からすっかり身を引いている。米国不在の中、イランとイスラエルの対立に中東の火種がくすぶる。燃え広がれば、シリアや周辺アラブ諸国に影響が及ぶのは明らかだ。

 対立の緊迫度は18日、ミュンヘン安全保障会議で示された。ネタニヤフ氏は無人機の「残骸」を振りかざし、「必要ならイラン攻撃も辞さない」と明言。イランのザリフ外相は戦闘機撃墜で「イスラエルの無敵神話は崩れた」と応じた。

 イスラエルの戦争はいつも電撃で始まる。06年の対ヒズボラ戦争は小泉純一郎首相(当時)の同国訪問さなかに勃発した。国際社会は新たな危機を看過してはならない。(パリ支局長)

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  • イスラエルのネタニヤフ首相兼外相と会談する河野太郎外相(小川真由美撮影)