産経ニュース for mobile

【湯浅博の世界読解】やはり過剰な期待であった中国の対北朝鮮制裁 米中による「妥協なきゲーム」が再開された

記事詳細

やはり過剰な期待であった中国の対北朝鮮制裁 米中による「妥協なきゲーム」が再開された

湯浅博の世界読解更新
6月21日、ワシントンで外交・安全保障対話に臨む米中担当者ら(ロイター) 1/1枚

 トランプ米政権の中国による対北朝鮮制裁は、やはり過剰な期待であった。

<< 下に続く >>

 6月半ばにワシントンで開催された「米中外交・安全保障対話」で、中国の楊潔●国務委員らは、共同文書を拒否し、記者会見も平然とボイコットした。ティラーソン国務長官とマティス国防長官が、北朝鮮問題での協力と引き換えに、「南シナ海問題で譲歩することはない」と突き放した結果であろう。

 交渉が思い通りにならないと、相手かまわず席を立つのは、中国が骨の髄まで大国主義に染まった証左である。同じ時期にハノイで開催されていた中国とベトナムの国防当局高官による国境防衛交流プログラムでも、中国側が南シナ海問題で激高して予定を打ち切っている。

 これら中国の威圧的な行動は、米国といえども新興大国の行動を邪魔する能力も意思もないと見くびってきた結果ではないか。

 中国が南シナ海の人工島の造成を本格化させた状況下でも、オバマ前政権はハワイ沖で実施する環太平洋合同演習(リムパック)に、中国海軍を2016年までに2度招待した。しかも、中国が情報収集艦を送り込んで、他国艦船への諜報活動をしていたことを見逃している。

 さらに同年7月のハーグにある国際仲裁裁判所が、中国が南シナ海を独り占めする「九段線」論を否定するクロ裁定を出しているのに、オバマ前政権はフィリピンを支援すらしなかった。中国が裁定を「紙クズ」と無視する振る舞いを許せば、「力による現状変更」を認めてしまうことになる。

 トランプ現政権もまた、4月の米中首脳会談以来、中国が北朝鮮に核開発停止の圧力をかけることを期待し、それまでの対中批判をすべて引っ込めていた。だが実際には、トランプ大統領自身が「うまくいっていない」とツイートするほど進んでいない。

 ジョン・ボルトン元米国連大使ら共和党保守派は、トランプ政権の行き過ぎた「中国依存」は、オバマ前政権の「戦略的忍耐」と少しも変わらないと不満をぶちまけていた。中国の習近平政権が北の核開発をとめられない以上、南シナ海の一時「休戦」はたちまち崩れてしまう道理である。

 中国が対北制裁に失敗したか、もしくは約束をホゴにしたのなら、トランプ政権がとるべき対中政策は主に2つに絞られる。

 まず、米国は北朝鮮と取引する中国の企業と金融機関に対する「二次的制裁」に踏み込む段階に入る。トランプ政権はすでに、北朝鮮と不正な交易を続ける中国企業10社と個人名を挙げ、中国政府に厳しい取り締まりを要求していた。中国がこれを拒めば、この夏の終わりまでに一方的に発動すると伝えている。

 ワシントン・ポスト紙はコラムで、中国の中規模な銀行から段階的に二次的制裁を実施するよう求め、ウォールストリート・ジャーナル紙の社説は、中国4大銀行の一つ、中国銀行への制裁を主張する。

 第2に、米国がこれまで抑制していた南シナ海での「航行の自由」作戦を、5月の駆逐艦デューイに続いて強化する。米外交評議会のラトナー上級研究員は、中国と沿岸国が領有権争いをしている島嶼(とうしょ)部に、米軍を駐留させよとの提言まで示している。

 元来、トランプ大統領が掲げる「米国を再び偉大に」は、習主席のいう「中華民族の偉大な復興」とは相反するものであり、妥協の余地がないゲームが再開されたというべきだろう。(東京特派員)

●=簾の广を厂に、兼を虎に