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【「欧州文化首都」ヴロツワフ】(上)市民一人一人がはぐくむ芸術

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(上)市民一人一人がはぐくむ芸術

「欧州文化首都」ヴロツワフ更新

 千年の歴史を誇るポーランドの都市、ヴロツワフは今年、EU(欧州連合)が指定する欧州文化首都に選ばれ、数多くの文化芸術事業が計画されている。中世の建築から前衛的なアートまで、多様な文化に彩られたこの街がこの1年、どのような魅力を放つのか。今月中旬、開幕イベントで盛り上がるヴロツワフを訪ねた。(藤井克郎)

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 午後4時を過ぎると、早くも夜のとばりが降りてくる中、14世紀に建てられた旧市庁舎前の広場を目指して大勢の市民が歩を進めていた。決して政治的スローガンを叫んでいるわけではない。欧州各地から集まったアーティストらと一体となってパレードし、広場でのパフォーマンスに参加しようというのだ。その数およそ12万人。人口約63万人の市民の20%近くが、この晴れやかな欧州文化首都の開幕を飾る熱狂に酔いしれた。

 「ポーランド人はそれほどお祭り好きな国民ではない。特に冬は寒さも厳しく外に出たいという季節ではないが、この週末には20万人もの市民がさまざまな開幕イベントに参加した。これだけ多くの人が集まったことが、私にとっては一番の喜びです」と、「欧州文化首都ヴロツワフ2016」の総合ディレクターを務めるクシシュトフ・マイさんは満足そうに語る。

 東欧ポーランドの南西部に位置する同市では今年、欧州文化首都として1000を超える文化芸術プログラムが用意されている。欧州文化首都とは、ギリシャの女優で文化大臣を務めたメリナ・メルクーリが、真の欧州統合には文化の相互理解が不可欠だとして提唱、1985年にアテネで開かれたのが最初だ。1年間にわたり欧州文化の特徴を持つさまざまな事業を行うもので、今年は同市のほかにスペインのサンセバスチャンも選ばれた。ポーランドでの開催は2000年のクラクフに次いで2都市目となる。

 その理念の一つが市民参加だ。今月17日には市内のホールで開幕記念式典が開かれたが、記者の座席にはプラスチックの筒が入った紙袋が置かれている。何だろうと思っていると、お堅い挨拶の後、世界が注目する地元の音楽グループ「スモール・インストルメンツ」のコンサートが始まり、何と聴衆全員で楽器を演奏するのだという。

 「アーティストだけが参加するのではなく、市民も自ら新しい文化を感じるというのが大きなポイント。長く練習を重ねなくても、1人1人が芸術をはぐくむことはできる。約300のコンサートを予定していますが、1年後どんなことが生まれるか想像できないですね」と音楽担当のキュレーター、アグニェシュカ・フランコフ=ジェラズニーさんは興奮を隠せない。

 実は今回の欧州文化首都プロジェクトには美術や文学、映画など分野ごとに8人のキュレーターを配し彼らが責任を持ってプログラムを組んでいる。「ヴロツワフを語る上で大事なキーワードに多様性がある。8人ものキュレーターがいることからもプログラムの多様性がわかると思う」と総合ディレクターのマイさんは自信をのぞかせた。