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【鼓動】シンガポールで40年ぶりの暴動 リトルインディアが映す出稼ぎ労働者依存政策のひずみ

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【鼓動】シンガポールで40年ぶりの暴動 リトルインディアが映す出稼ぎ労働者依存政策のひずみ

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 シンガポールのリトルインディアで先月、同国では約40年ぶりの暴動が起きた。逮捕されたのは、低賃金で肉体労働を担うインドからの出稼ぎ労働者たちだった。海外からの人材に依存した経済成長のひずみが暴動の背景にあると指摘されている。(シンガポール 吉村英輝、写真も)

飲酒が原因か

 暴動から約1カ月たった週末のリトルインディアを訪ねた。午後になると、多くの出稼ぎ男性が郊外から集まってくる。送金業者の窓口に列を作って本国の家族に給料の一部を送り、1週間分の食材を買い込む。周囲には柵が張り巡らされ、多くの巡回警官が買い物の後の彼らの“楽しみ”を厳しく監視していた。

 南インドから出稼ぎに来て6年になるという男性(28)は、定食店のテーブルで「同郷の仲間と週に1回、こうやって話し合うのが唯一の楽しみ。店で飲んでいる限りは尋問も受けない」と笑顔で語り、3本目のインド・ビール「ノックアウト」を空けた。

 店では1本4シンガポールドル(約330円)だが、酒店で買えば3・5ドル。暴動前は近くの公園や路上で飲んで酒代を節約していたが、当局は飲酒が暴動につながったとして公共の場での飲酒を禁止した。

 ある酒店の主人は、かき入れ時の週末は1日に約600ドルあった売り上げが、暴動後は10分の1に落ち込んだという。「酒以外の雑貨販売だけでは子どもの学費も払えない」と訴えた。

社会からの断絶

 12月8日の暴動は、リトルインディアから郊外の寮に戻る送迎バスに乗り損ねたインド人男性が、そのバスにひかれた事故が発端となった。周囲にいたインド人ら約400人が、中国系運転手と車掌を責めてバスを取り囲み、暴徒化した。ひかれた男性も暴徒も酒に酔っていたとされる。

 だが、暴動について米紙ニューヨーク・タイムズは12月27日付の社説(電子版)で、「評価されずに不当に安く働かされている出稼ぎ労働者の不満の高まりに、シンガポールは対応できていない」と論評した。シンガポール政府は1月14日、同紙が言う「出稼ぎ労働者への不当な評価や抑圧」はないと反論した。

 テオ・チーヒエン副首相は20日、この問題に関する国会での集中審議で「多くの出稼ぎ労働者はシンガポールでの仕事に満足している」と主張。付近では暴動前から飲酒によるトラブルへの苦情も多く、すでに警備強化などの治安対策を強化したと説明した。

 一方、リトルインディアで2008年から出稼ぎ労働者への食料の無料配給を行っている非営利法人(NPO)「TWC2」のデビー・フォーダイスさんは「経済的な搾取から来る労働者の被差別意識と社会からの断絶が暴動の背景にある」と指摘する。

建設ブーム支える

 厳格な移民政策で知られるシンガポールでは、出稼ぎ労働者の永住は認められない。建設計画が中止になれば滞在資格は失われ、借金を抱えたまま帰国するケースも絶えない。食料支援を受けるバングラデシュの男性(29)は、昨年4月にけがをして仕事を失った。休業補償もまだ認められないため、「あきらめて帰る」という。

 シンガポール経済は近年、外国人労働者に頼って成長を遂げてきた。1990年の外国人は人口の10%の32万人だったが、2013年には29%の156万人に拡大した。政府は国籍の内訳を公表していないが、インド、バングラデシュだけで建設労働者の過半を占めるとみられる。彼らが建設ブームを支えている。

 安価な労働力の流入による所得格差の拡大で、国民の不満も高まっている。リー・シェンロン首相は昨年8月の演説で、経済発展の恩恵の公平な配分を掲げたが、その対象に外国人も含まれるかは不透明だ。

 政府は今回の暴動に関する査問委員会を2月19日に開き、関係者から意見聴取するという。リー首相も「教訓を得て、暴動の再発を防ごう」とフェイスブックで呼びかけた。良好な治安や好調な経済から「東南アジアの優等生」と称されるシンガポール。今回の議論が、外国人労働者に頼る成長モデルの見直しにつながるか、注目される。

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リトルインディア暴動

 シンガポールのリトルインディアで昨年12月8日夜に発生。インド国籍の労働者(33)がバスにひかれて死亡したのをきっかけに、警察車両など25台を横転させ、一部に放火する暴動に発展。鎮圧に当たった警官ら39人がけがをした。当局は暴動容疑でインド国籍の25人を起訴。57人を国外退去処分にした。シンガポールでは、1960年代に民族対立などによる暴動が多発したことを教訓に、民族融和や治安規制を推進。69年の華人とマレー人の対立以来、大きな暴動は起きていなかった。

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