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わたしたちが捨てたガジェットは「電子ごみ」になり、途上国の人々の健康を害している

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 先進国で使い古されたガジェットや電子機器が、発展途上国に大量に輸出されている。その大半は電子ごみとなり、貧しい少年や若者たちが燃やしたり破壊したりして金属を回収しているが、有毒な煙や水や食べ物の汚染で健康を害する人も多い。こうした問題の深刻さが、西アフリカのガーナで暮らす若者の生活から浮き彫りになる。

TEXT BY JACKLIN KWAN

TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO

WIRED(UK)

THOMAS IMO/GETTY IMAGES
THOMAS IMO/GETTY IMAGES

イブラヒムは平日、毎朝6時に起床する。そして8時までには、いつものように煙を上げる炎の上にかがみこんで、銅線の絶縁皮膜を燃やして取り除く。この8年間続けている仕事だ。

彼は西アフリカに位置するガーナの首都アクラの中心部近くで、「バーナーボーイ(burner boy)」として働いている。電子機器のごみが山積みされている廃棄場「アグボグブロシー」で、金属を回収するために燃やす回路基板や電線を探し歩く少年や男性たちに付けられた名だ。

この廃棄場では、廃棄された電話やコンピューター、家電製品などが20エーカー(約80,000平方メートル)にわたって広がっている。オダウ川を隔てて隣接するのが、イブラヒムが住んでいるスラム「オールド・ファダマ」だ。ここにはガーナの田舎からやってきた貧しい人々が、1980年代から住み続けている。

ガーナ政府はオールド・ファダマを、劣悪な衛生環境や犯罪、貧困といった荒廃の象徴と見ている。一方、ここに住み着いた人々にとっては、本来なら首都が提供しなければならない経済的機会を手に入れられる都合のいい場所となっている。

電子ごみを焼いて金属を回収

イブラヒムは、一緒に働くほかのバーナーボーイたちと同様に学校から落ちこぼれ、仕事を求めて苦労した末にガーナ北部から移り住んだ。自分より先にアクラに移った友人たちから、アグボグブロシーに廃棄されている電子機器から銅などの金属を回収して稼いだ話を聞いたからだ。

アグボグブロシーで働き始めたときイブラヒムは18歳だったが、許可証のようなものは誰からも求められなかった。電子機器の廃棄物、すなわち電子ごみ焼いて金属を回収する仕事は、バーナーボーイの“先輩”たちから教えてもらった。

バーナーボーイたちの間には仲間意識がある。北部の家から追い出され、少しでも経済的に楽になるために必死で働いている彼らは、互いに助け合っているのだとイブラヒムは語る。

仕事の内容は、ハンマーや石だけでモニターを叩き割り、内部にある銅や金、鋼鉄、アルミニウムなどの価値のある材料を手に入れることだ。天気のいい日は電子ごみに火をつけて燃やし、電線の被覆や回路基板に使われているプラスティックの絶縁材料を溶かして取り除き、金属を取り出す。

バーナーボーイたちは、道具や保護具を買う金をもっていない。このため真っ黒な煙のせいで、イブラヒムは絶え間なくせきをするようになった。廃棄場の空気は、化学薬品と燃えたゴムの臭いがする。

煙を吸い続けた代償

バーナーボーイたちが苦労して取り出した金属は、スクラップ業者やリサイクル業者に売ることができる。調子のいいときで1日に2ポンド(約280円)、悪い日でも0.5ポンド(約70円)になる。

この収入は、ガーナにおける1人当たりの推定生活賃金である1日約4ポンド(約570円)に比べると少ないが、アグボグブロシーやオールド・ファダマでは最も儲かる商売のひとつだ。イブラヒムよりも年上のバーナーボーイであるシャイブは、節約して残った金を故郷の家に送り、ふたりの妹たちの生活を支えている。

作業は太陽が沈み始める午後6時に終わるが、今度は毒性のある煙を吸い続けた報いを受けることになる。イブラヒムは煙が原因で胸が痛み、頭痛もする。シャイブは、せきの発作が起きると、たんに血が混じるようになった。

シャイブは金に余裕ができると、バーナーボーイたちに薬を売りに来る男から伝統療法の薬を買うこともある。シャイブによると、その飲み物は「心臓を洗ってくれる」のだという。まだ16歳のもうひとりのバーナーボーイは、体中が痛いが鎮痛薬を飲んでもまったく楽にならないとこぼしていた。

あらゆるものを包み込む毒

どのバーナーボーイたちも同じような症状を訴えているが、成人が電子ごみの汚染に長期にわたって晒されることについての調査は、十分には実施されていない。一方で、両親が電子ごみを扱う仕事をしている親から生まれた子どもや、子ども本人が電子ごみを扱う仕事をしている場合の重大な健康上の影響に関する資料は、ある程度は存在する。

インドの電子ごみ廃棄場で働く子どもたちは、肺の機能低下や皮膚疾患、けいれんを起こす胃疾患、肝臓障害などを経験している。同じ条件下の妊娠女性にも、死産や早産が増えている。

シャイブと一緒に働いていた数人は、体調の悪化で働けなくなり、北部にある自分たちの村に帰った。「回復しなかったやつもいるし、村で伝統療法の治療を受け続けているやつもいるんだ」と、シャイブは語る。

アグボグブロシーの敷地内や周囲にいる人々は、これらの煙を「あらゆるものを包み込む毒」と呼んでいる。空気中だけでなく、土壌や水、そして自分たちの食料にまで入り込んでいるというのだ。

実際のところ、残留性の有機汚染物質やダイオキシン、鉛や水銀のような金属などの有毒なう物質が電子ごみを燃やすことで放出される。そして住民たちが呼吸したり、汚染された食べ物や水を摂取したりする際に吸収されていく。

バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)をはじめとする民間の監視団体の報告によると、アグボグブロシー周辺で集めたニワトリの卵が、驚くほど高濃度の有毒物質で汚染されていることがわかっている。成人がそうしたニワトリの卵を1個食べただけで、欧州食品安全機関が勧告している耐容一日摂取量の220倍の塩素化ダイオキシン類と、4倍のポリ塩化ビフェニル(PCB)を摂取することになるという。PCBのような化学物質は、その環境毒性と、がんの原因になる可能性があることから、英国では1981年に使用が禁止されている。

廃棄物の大半が先進国からやってくる

こうしたなか2020年8月には、アグボグブロシーの有毒物質に関する懸念に応えたアクラの警察が、電子ごみを焼いていた8人を逮捕した。しかし、逮捕を繰り返しても、電子ごみを燃やす行為をやめさせることはできそうにない。

イブラヒムは自身が逮捕される可能性はもちろんのこと、自分の仕事がもたらす健康被害もわかっているという。そして次のように語る。「仕方ないさ。もっといい仕事につければ出ていくつもりだけど、いまのところはこうして燃やすことでやっていくしかない。ぼくにはそれしかないから」

ガーナに輸入される電子機器や電気部品のおよそ85%が、欧州連合(EU)加盟国からのものだ。輸入後は、そのかなりの部分が電子ごみとして廃棄されている。欧州で中古品になったり廃棄されたりした電子機器のうち、正式なリサイクルや収集のシステムに回るのはわずか35%にすぎない。

残りは単に捨てられ、ルールを守らない状況下でリサイクルされるか、ベナンやガーナ、ナイジェリアなどに輸出される。なかでもガーナは、09年に年間約21万5,000トンもの電子ごみを輸入している。住民ひとり当たり9kgに相当する量だ。

アグボグブロシーの廃棄物のほとんどは、古いテクノロジーを利用したものだ。しかし、最近は多くの日用品に回路基板や電子機器が組み込まれていることから、こうした廃棄場にたどり着く電子ごみが今後さらに増えることだろう。

家具や衣服、建物の壁から電子機器を分離して収集する作業は可能だが、メーカーにしてみれば材料を再利用する価値はない。こうして電子ごみが埋め立て地に行き着いたり、発展途上国に輸出されたりする可能性が高まっていく。

ガーナでは、中古品を修理した携帯電話やノートPCの人気が非常に高い。元の価格に比べるとわずかな費用で購入できるからだ。一方で、こうした中古の電子機器は寿命が短いことから、すぐに使い捨てされ、結局はアグボグブロシーのような場所に廃棄されることになる。

“抜け穴”から流れ着く廃棄物の山

アフリカにおける電子ごみの85%は、こうした国内消費によるものであり、電子機器の世界的な流れを効果的に取り締まることの難しさを浮き彫りにしている。1992年に発効したバーゼル条約は、経済協力開発機構(OECD)加盟国からの有害廃棄物を発展途上国に移動することを犯罪行為と認めているが、到着後すぐに修理される電子機器については免除規定がある。

この免除規定を都合よく利用しようとする業者たちは、電子ごみに「すぐに中古品として販売される電子機器」という札を付けることで禁止を回避し、国境を越えた途端に廃棄することも可能だ。一方で、中古品の市場があれば、機能しなくなった電子機器の大部分が実際に修理されて再び販売されることになるが、修理する過程からもごみは出る。たとえ最良のシナリオであっても、修理された携帯電話やコンピューターは、多くの場合すぐに壊れて、結局はごみ捨て場に行き着くことになる。

アグボグブロシーで働くシャイブの関心事は、とにかく生活していくことだけだ。「クリスマスが近づいてくると、ぼくらはみんな、故郷の家族に送るための金が必要になる。だからもっと電子ごみを燃やして、もっと金を稼いで、お母さんを幸せにする必要があるんだ」と、シャイブは言う。

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