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マスク姿でのiPhoneの顔認証が、Apple Watchとの組み合わせに限られた理由

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 iPhoneの顔認証システム「Face ID」が、ようやくマスクをしたままでも利用できるようになる。ただし、Apple Watchを装着しているとき限定だ。その背景を探ってみると、さまざまな事情が透けて見えてくる。

TEXT BY LAUREN GOODE

WIRED(US)

ROBERT BONET/NURPHOTO/GETTY IMAGES
ROBERT BONET/NURPHOTO/GETTY IMAGES

いまアップルは、マスクを着用することが当たり前になった未来に直面している。こうしたなかアップルは、マスクを着用したままでも「iPhone」のロックを解除できる新しいソフトウェアのテストを開始した。

しかし、そこには“問題”がある。今回の取り組みはアップルによる自社製品への囲い込み戦略とも合致すると同時に、正確な顔認証技術の開発がいかに困難であるかを際立たせてもいるのだ。そう、マスク姿で顔認証するには、「Apple Watch」が必要なのである。

「iOS 14.5」の最初の開発者用ベータ版には、マスク姿での顔認証を可能にする機能と共に、アプリのトラッキングコントロールとSiriのアップデートが含まれる。アプリ開発者には通常、正式なソフトウェアがリリースされる前にアプリを発売したり更新したりするためにiOSの最新版への早期アクセス権が与えられる(自分のiPhoneが壊れるかもしれないリスクをいとわない勇敢な人たちも、登録すればパブリックベータ版を利用できる)。

iOS 14.5の完成版は今春に一般公開されるとみられている。つまり、大半の人々が自らのiPhoneにこの最新版iOSをインストールするころには、わたしたちは新型コロナウイルスの感染拡大防止のために1年以上にわたってマスクを着用しているということになるわけだ。

認証にApple Watchも活用

このパンデミックによって変わってしまったわたしたちの生活のほかの要素に比べれば、アップルの「Face ID」以外の方法でiPhoneをロック解除することは、たいして不便とはいえない。それでも顔の前にiPhoneを掲げたところで、マスクのせいでFace IDが機能しないことを思い出すのはうんざりさせられる。

顔認証技術への期待とは、時が経つにつれてよりスマートかつ優れたものになっていく、というものだったはずだ。そしてその期待は、技術の悪用や肌の色の濃い人たちの認識エラー率の高さに関する実に真っ当な懸念と共にある。

次のソフトウェアアップデートで、アップルはこの顔認証の処理をいくらかApple Watchに移そうとしている。まず、Face ID機能付きの比較的新しいiPhoneを使っていてiOS 14.5ベータをインストールし、watchOS 7.4をインストールしたApple Watchを腕に付ける。その状態でロックのかかったiPhoneを顔の前に掲げることで、iPhoneとApple Watchとの間でちょっとしたやりとりが発生する。これでiPhoneのロックが解除されるのだ。

このときApple Watchには、iPhoneのロックが解除されたという通知が表示される。あるiOSの開発者は、MacをApple Watchでロック解除するときと似たような体験になると説明している。

顔が覆われた状態での認識の難しさ

アップル情報サイトの「9to5 Mac」が指摘しているように、アップルがマスクに対応すべくFace IDの認証システムに変更を加えるのは、今回が2度目だ。2020年の春にアップルは、最初にFace IDによる認証が失敗した段階でiPhoneのパスコード画面を表示することで、マスク着用時のFace IDの使用を回避しやすくするソフトウェアを公開している。

しかし、こうしたアップデートにも制約がある。今回の新たなマスク着用時のFace ID機能は、iPhoneのロック解除にしか使えない。つまり、「Apple Pay」による決済や、サードパーティ製アプリへのログイン時にFace IDを使う場合は、別の方法で認証しなければならないのだ。

しかし、それより大きな疑問は、なぜアップルが単に人の顔の覆われていない部分を認識するソフトウェアを公開せず、マスク着用時のiPhoneのロック解除をApple Watchに依存するのか、ということだろう。記事公開時点でアップルは、『WIRED』US版の質問には回答していない。専門家によると、顔認証技術の実装時には倫理的、技術的な検討事項が多数存在するが、一部分が覆われた顔に対する顔認証の実行は特に困難だという。

ミシガン州立大学でコンピュータービジョンと機械学習、生体認証を研究しているアニル・K・ジャインは、次のように説明する。「(この5~10年の進歩にもかかわらず)顔のどの部分が見えないのかに影響を受けやすいのです。大半の場合、顔認証技術は人が眼鏡や顔の覆いを外し、照明は均質で、表情はパスポート写真のように無表情である状態を想定しています」

これらの条件が変化すると、顔認証の精度は下がる可能性がある。ジャインによると、彼の研究チームは数年前にこうした顔認証におけるさまざまな状況に関する調査を実施し、顔全体ではなく眼球周囲領域と呼ばれる目の周りのみに限定した研究を進めようとしたという。「認識精度に関しては十分なものがありました」とジャインは言う。

さらにジャインは、現在のマスクにはひとつの基準が存在せず、どのデータセットでトレーニングしたかによって顔認証のスキャンが狂ってしまう可能性があると指摘する。マスクの柄や素材だけでなく、着用方法もそれぞれ異なっており、さらに最近ではマスクを2枚着用すべきという意見も出てきている。「2枚の異なるマスクが顔の広範囲を覆うことになるかもしれません」と、ジャインは指摘する。

また、顔が覆われる範囲はマスクを着用するごとに異なる可能性があるため、顔認証技術にとってはさらに困難な状況になってくる。

アップルはApple Watchも買ってほしい?

顔認証技術を扱うTruefaceの創業者で最高経営責任者(CEO)のショーン・ムーアによると、同社もマスク着用時と非着用時の両方で顔認証技術のテストを実施しているという。ムーアは、マスク着用時の顔認証に関して業界としては全体的にいい方向に向かっており、「目の周りや額の中央部分にはさらに利用できる可能性のある非常に優れたデータ」が数多く存在すると語る。

しかし、それでも顔認証技術はいまだに不完全だ。最近のテストでは、マスクを着用していない顔に対するTruefaceの認識率は98%だった。これがマスク着用時では、認識率は94.6%に下がっている。

ジャインもムーアも、アップルがマスク着用時および非着用時の両方の場面で認証できるようにFace IDのソフトを改良するのではなく、iPhoneのロック解除をApple Watchに依存するかたちをとった理由について、明確には推測していない。「iPhoneに深度センサーと3D認識機能が搭載されていることを考えると、この問題を解決できていないのは驚きです」と、ムーアは指摘する。

ジャインとムーアが説明しているように、ユーザー側が「マスクを着けていてもいなくてもFace IDは機能するはずだ」と考えた場合に、潜在的な精度の低下が顧客体験の悪化につながるとアップルが考えた可能性は高い。それは単にパスコードを入力するよりも、はるかに不満の募る状況を生み出す可能性があるのだ。

あるいは、本当はアップルはApple Watchを使ってほしいだけなのかもしれない。「つまり、ふたつのデバイスをもたなければならないということですよね?」と、ジャインは笑いながら言う。「しかも、それらは安いものではありません。誰もが買えるようなものではないのです。つまり、皆にとっての解決策にはなりません」

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