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オウサマペンギンの「謎の移住」が意味すること

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 南米の最南端にあるアルゼンチンのマルティージョ島に、数年前からオウサマペンギンが姿を見せるようになった。それ以前には生息していなかったオウサマペンギンは、いったいどこからやってきたのか。そして、この“移住”は何を意味しているのだろうか。

TEXT BY VICTORIA TURK

TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO

WIRED(UK)

VW PICS/GETTY IMAGES
VW PICS/GETTY IMAGES

いまから数年前、アルゼンチン南端にある都市ウシュアイアの研究者たちが、予想もしなかった冬の訪問者を発見した。ビーグル水道と呼ばれる海峡にある小さなマルティージョ島は、写真映えのするマゼランペンギンやジェンツーペンギンの群れが見られることから、観光船がひっきりなしに訪れる場所である。

ところが最近は、運がよければ“よそ者”を見ることができるかもしれない。それはオウサマペンギンだ。頭と肩はジェンツーペンギンより高く、大きさはマゼランペンギンの2倍ほどあるオウサマペンギンが、小石だらけの浜辺から、海上にある観光船を見つめてくれる。

この島には自動撮影するよう細工されたカメラが仕掛けられており、これまでに数羽のオウサマペンギンが撮影されている。その多くはジェンツーペンギンの営巣地を歩いていた。

オウサマペンギンは、パタゴニア地方のほかの場所では見つかっている。しかし、これまでにマルティージョ島で見つかったことはなかった。どのようにしてたどり着いたのか、どこから来たのかはもちろんのこと、何羽いるのかさえ謎だ。アルゼンチンの科学研究機関CADICのペンギン研究者のサミー・ドディーノは、「マルティージョ島のオウサマペンギンについては何もわかっていません」と語る。

ペンギンが暮らす「世界の果て」

アルゼンチンのちょうど南端部にあるウシュアイアは、「世界の果て(The End of the World)」とも呼ばれて親しまれている。そこからさらに1,000kmほど南に進めば、南極に到達する(ただし、その前にビーグル水道のチリ側にあるもうひとつの都市、「世界の果ての向こう(Beyond the End of the World)」と呼ばれるプエルト・ウィリアムズを通ることになる)。

マルティージョ島には1970年代からマゼランペンギンが生息しており、90年代にはジェンツーペンギンも加わった。マゼランペンギンは小型の鳥で、穴を掘って巣をつくるという珍しい習性がある。ジェンツーペンギンはマゼランペンギンよりも大型で、地上の石を集めて巣をつくる。

オウサマペンギンはおそらく、ペンギンを想像したときに最初にイメージするものに近い。コウテイペンギンに次ぐ2番目に大きな種で、頭の側面にあるオレンジ色の模様と、胸の最上部を飾る黄色味がかったオレンジ色の羽が特徴だ。成鳥が背筋を伸ばして立つ姿は優雅だが、ひな鳥はモフモフした茶色の羽に包まれ、ちょっと不細工だがまるまるとして可愛い。

これらのオウサマペンギンたちがマルティージョ島にたどり着いたのが、偶然なのか、意図的なものなのかはわかっていない。「たぶん偶然によるものでしょう」と、CADICの研究者であるアンドレア・ラヤ=レイは語る。「餌を探して海をあちこちさまよっていたのだと思います」

ひながかえったものの…

羽毛が生え変わる時期になると、オウサマペンギンは浜に向かい、海に戻る。通常は元の繁殖地に帰るためだが、今回のケースでオウサマペンギンは、もしかすると周囲を見渡したときにマルティージョ島のほかの種のペンギンたちが目に入り、そこで換羽するために上陸したのかもしれない。「オウサマペンギンは餌を求めて非常に長い距離を移動します。そのようにして活動範囲を広げるのです」と、ラヤ=レイは説明する。

マルティージョ島のジェンツーペンギンの群れは、遺伝子検査によってフォークランド諸島からやって来た個体から始まったことがわかっている。現在では、つがいの数も30組ほどになった。

今回のオウサマペンギンたちも、フォークランド諸島からやって来たのかもしれない。あるいは、北に数百kmほどのところにあるチリのイヌティル湾から来たのかもしれないし、東にあるスターテン島や、さらに離れた大西洋にありオウサマペンギンの大きな繁殖地があるサウスジョージア島からかもしれない。

マルティージョ島で初めて観察されたときのオウサマペンギンたちは、まだ成鳥ではなかった可能性があると、研究者たちは考えている。繁殖を試みる様子が見られなかったからだ。しかし、それから数年のうちに、1組のつがいが卵を産むところまでこぎつけた。そして2020年には、そのつがいがひなをかえすことに初めて成功した。

残念ながら、このときの興奮は長く続かなかった。数週間後にひなが死亡したからだ。「ウシュアイアにしては暑い夏だったことが理由ではないかと考えています」と、CADICのドディーノは指摘する。さらにラヤ=レイは、いずれにしても冬になればひなは死亡しただろうと付け加える。親ペンギンに経験がないと考えられるうえ、群れが小さいという不利な環境にあったからだ。

オウサマペンギンのひなたちは通常、冬に親が餌をとりに行っている間は一緒に集まって寒さをしのぐ。ひなが1羽だけでは無理な話だ。「オウサマペンギンたちは新しい群れをつくり始めようとしていますが、わずかな個体数では非常に困難です」と、ラヤ=レイは語る。

数多くの疑問

マルティージョ島のオウサマペンギンたちが今後どうなるのか、知ることは難しい。研究者たちは、マルティージョ島にいるわずかなオウサマペンギンたちの邪魔をする可能性のあることはすべてしたくないと考えている。このためカメラの映像を調べることだけに調査活動を制限している。

しかし、カメラの映像は十分に精細ではないことから、オウサマペンギンたちの年齢や性別はおろか、何羽いるのかさえもわからない。同じペンギンが何度も戻ってきているのか、それとも違う個体なのか見極めることができないからだ。「答えを得られない疑問がたくさんあります」と、ドディーノは言う。

一方で、ジェンツーペンギンとマゼランペンギンの個体数については、さらに調査が進められている。ラヤ=レイとドディーノは、繁殖地にいるペンギンの数を数える調査を実施し、血液や羽のサンプルを収集した(ペンギンたちが何を食べているかについての情報が得られる)。さらに一部のペンギンにはGPS受信機を取り付けることにで、どこで魚をとっているのかも調べている。

ラヤ=レイが共同執筆者として参加した論文では、マルティージョ島のジェンツーペンギンとマゼランペンギンが、それぞれ異なる海域で餌を探していることがわかっている。ジェンツーペンギンは、岩礁などのない開けた海で魚をとることを好むが、マゼランペンギンはさらに広い領域まで移動し、ニシン科の魚であるスプラットやロブスター、オキアミなどを追いかけて海底近くまで行く。このことは、これら2種のペンギンが行動の適応力がかなり高く、競争を避けるために活動領域を分けていることを示している可能性があると、ラヤ=レイは説明している。

海洋環境の変化が見えてくる?

ただし、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降、マルティージョ島のペンギン調査は、ペンギンの種にかかわらず困難を極めている。研究者たちはカメラのバッテリーとメモリーカードを交換するために1度訪問した以外は、島を訪れることができなくなった。「2021年は研究上のチャンスを失うことになりそうです」とドディーノは言うが、ペンギンたちにとってはそのほうが幸せかもしれない、とも語る。

ペンギンの調査はマルティージョ島であれほかの場所であれ、ペンギンだけでなくほかの多くのこともわたしたちに教えてくれる。「ペンギンたちは概して海洋環境の見張り番なのです」と、ラヤ=レイは言う。「わたしはペンギンを調査することで、ペンギン種だけでなく、その生息地をさらに適切に保護するための海洋環境がどのようなものであるかを理解することができました」

ペンギンたちが自分たちの行動を順応させていく様子を観察することによって、気候危機をはじめとする環境の変化がもたらす結果のいくつかが浮き彫りにされるかもしれない。「ペンギンを調査することで、海で起きていることに関する早期の警告を得られるかもしれないのです」

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