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人工知能のシステムを“軽量化”せよ:処理能力が低いチップで動く高性能AIの実力

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 人工知能(AI)のプログラムを実行するには、一般的に高い処理能力が必要になる。このほど発表された新たな研究によると、処理能力が低いシンプルなチップを使ってコンピュータービジョンのアルゴリズムを実行する方法があるのだという。その新しい技術の実力とは?

TEXT BY WILL KNIGHT

TRANSLATION BY YUMI MURAMATSU

WIRED(US)

PHOTOGRAPH BY GETTY IMAGES
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人工知能(AI)は、これまで驚くべき進歩を遂げてきた。しかし、その実力を発揮するには膨大な量のデータとコンピューターの処理能力を必要とすることが多い。そこでいま、一部の研究者たちが取り組んでいるのがAIの「効率化」である。

なかでも最近発表された研究では、バッテリーひとつで数カ月は稼働できるシンプルかつ処理能力の低いコンピューターチップを使って、強力なコンピュータービジョンのアルゴリズムを実行することに成功している。この技術は、画像認識や音声認識といった高度なAI機能を、医療機器や産業センサー、家電やウェアラブル端末に搭載する助けになる。さらに、処理のためにデータをクラウドに送る必要も減るので、データを外部に出すことなく安全に保てる点でも役に立つだろう。

「非常にうれしい結果です」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)の助教授でプロジェクトリーダーを務めた韓松(ハン・ソン)は言う。現在はまだ研究室での実験段階だが、「すぐに実際のデバイスでも利用できるようになるでしょう」と、韓は言う。

ディープラーニングを効率化せよ

研究者たちがこのほど考案したのは、ディープラーニングのアルゴリズムを軽量化する方法だ。ディープラーニングは過去10年にわたってAIの進歩を推し進め、現在のAIブームの基盤にもなっている。そしてそのアルゴリズムには、人の脳の神経細胞のつながりを模した大規模なニューラルネットワークが用いられる。

通常こうしたアルゴリズムの実行に用いられるチップは特殊なもので、ネットワークの学習や運用を効率化するために処理を分割・並列化できるようになっている。高度なAI技術の需要が高まったことで、ディープラーニングに適したチップであるGPUや、スマートフォンなどのガジェット向けのAI専用チップの売り上げは増加するばかりだ。

とはいえ、こうしたチップをもってしてもアルゴルズムの学習プロセスは大仕事である。例えば、任意のテキスト(プロンプト)を与えると、それに続く自然な文章を生成できる言語モデル「GPT-3」を学習させる場合、最新のAIチップ1台なら約355年も連続で稼働させ続けなければならないという。

軽量かつ高精度

今回発表された新しい研究の手法は、ふたつの部分から成り立っている。ひとつ目は、マイクロコントローラーでも処理できるニューラルネットワークの構造を探索するニューラルアーキテクチャ探索(Neural Architecture Search、NAS)と呼ばれる手法だ。マイクロコントローラーは比較的シンプルかつ低コストな処理能力の低いコンピューターチップで、クルマのエンジンや電動工具、テレビのリモコン、医療用インプラントなど、非常に多くの製品に使用されている。

ふたつ目は、ネットワークを動かすためのコンパクトかつメモリー効率のよいソフトウェアライブラリーだ。このライブラリーはNASで探索されたネットワーク構造と協調するように設計されており、冗長性を排してマイクロコントローラーの限られたメモリー容量にも対応する。「干し草の山の中から1本の針を見つけ出すような作業です」と韓は話す。

韓のグループが作成したコンピュータービジョンのアルゴリズムは、画像中の物体を1,000種類に分類するタスクで70%の精度を達成した。これまでの軽量アルゴリズムでは最高でも54%程度の精度しか得られなかったことを考えると、これは大きな進歩である。

また今回のアルゴリズムでは、必要なメモリー量が既存の手法のわずか21%で済むようになり、レイテンシーも67%削減された。さらに研究チームは、音声からウェイクワードを認識するタスクでも同様の性能が得られることを証明している。使用される手法を改良すれば、さらに性能を高めることも可能なはずだと韓は話す。

スマートグラスや医療機器への応用も

「実に素晴らしい結果です」と、限られたリソース下での機械学習について研究するアリゾナ州立大学の准教授のジャエ・スン・セオは語る。「商業的な応用としては、常に物体検出を実行するような拡張現実(AR)デバイスやスマートグラスなどが考えられます。あるいは、クラウドに接続することなくエッジデバイスの音声認識機能を使えるようにできるかもしれません」

MITとIBMの共同研究機関であるMIT-IBM Watson AIラボの研究者で、今回の研究チームの一員でもあるジョン・コーンによると、すでにIBMの顧客の一部はこの技術の活用に興味をもっているという。コーンいわく、わかりやすい使用例は産業機械の問題を予測するセンサーだ。現在、こうしたセンサーは計算処理用の高性能なリモートシステムにデータを転送することから、ワイヤレスネットワーク化されている必要がある。

もうひとつ重要な応用例として挙げられるのが、医療機器である。韓はMITの同僚たちと協力して、機械学習で常に血圧をモニタリングするデバイスを開発し始めたところだ。

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