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衣類から流出したマイクロプラスティックで、北極海までもが“汚染”されつつある:研究結果

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 衣類の洗濯によって抜け落ちた微細な合成繊維は、処理施設のフィルターをすり抜けて海へと大量に流出している。これらのマイクロプラスティックが深海などに堆積するだけでなく、北極海にまで到達して海を“汚染”している事実が、このほど研究結果から明らかになった。

WIRED(US)

MINT IMAGES/GETTY IMAGES
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洗濯機にポリエステルのセーターを投げ入れると、セーターは簡単にきれいになる。しかし、完全に元通りになるわけではない。水ですすぐ際に数百万もの合成繊維が抜け落ち、排水とともに流れ出し、処理プラントにたどり着くことになるのだ。

こうしたマイクロファイバーが1カ所の処理施設につき毎年210億本ほど、ろ過システムをすり抜けて海に流れ出し、渦を巻いて浮遊してから沈殿する。そして最終的に魚の餌となり、生態系に計り知れない影響を及ぼす可能性がある。

科学者たちが世界の海を調査すると、いたるところでマイクロファイバーが発見される。マイクロファイバーとは厳密にはマイクロプラスティックのサブカテゴリーであり、5mm未満の長さの粒子と定義されている。

そしてこのほど4回の北極海での調査を終えた科学者のチームが、陸地から遠く離れたこれらの海でさえひどく汚染が進んでいることを明らかにした。サンプルを1,000mの深さで採取したところ、海水1立方メートルあたり平均40個のマイクロプラスティックの粒子が発見されたのだ。

発見された粒子のうち92%がマイクロファイバーで、その4分の3近くがポリエステルだった。人間の合成繊維への依存が地球の海を破壊しているという強力な証拠を提示することになったのである。

「この調査結果は、地球がいかに合成ポリマーで汚染されているかをよく示しています」と、環境NGO「Ocean Wise Conservation Association」の海洋汚染アドバイザーを務める海洋汚染科学者、ピーター・ロスは指摘する。ロスは今回の調査結果をまとめた新しい論文を、筆頭著者として『Nature Communications』で発表した。

水深1,015mから見つかったポリエステル

ロスとカナダ水産海洋省の研究者たちは、海水の表面からはサンプルを採取しないように注意して調査を進めた。表面の海水は、浮かんでいる発泡スチロールや失くした釣り道具などを蓄積する傾向がある。このため表面の海水は、海に潜むプラスティックの汚染を示す代表的なサンプルとして適切ではない。

このため、海面から数メートル下の海水を採取しなければならなかった。好都合なことに、彼らの調査船は船体の底に取水口がついていた。さらに科学者たちは、アラスカのボーフォート海にある6つの観測所から1,015mの深さの水柱のいたるところからサンプルを採取している。

ただし、天然の粒子を合成粒子と誤認することがないようにするために、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)と呼ばれる法医学的手法を利用した。粒子に赤外光を照射してサンプル内の特定の分子を励起し、検出器に反射された赤外シグネチャーを分析する。これにより、科学者は粒子が合成物であるかどうか確認できるだけでなく、どのような種類のプラスティックであるのかも判別できる仕組みだ。

「わたしたちのグループ内のトレーニングを受けた技術者でさえ、しばしば実際には天然粒子なのにプラスティックであると間違えることがあります」と、ロスは言う。「このため粒子がプラスティックかどうか確認するために、FTIRが非常に重要な役割を果たしているのです」

粒子が確認されると、チームはその長さと直径を測り、合成繊維の既知の寸法と比較する。繊維の75%近くが合成繊維の衣類で一般的に使用される素材のポリエステルであり、さまざまな色のものが発見された。「実にさまざまな合成繊維が見つかります」とロスは言う。「こうしたことから、繊維や洗濯が海洋汚染の重要な要因になっているとわたしたちは懸念しています」

大量に見つかったポリエステル

科学者のチームは北極圏全体を巡る4回の調査によるデータを保有していたことから、東部地域(地図でいう大西洋の上)からのサンプルを西部地域(アラスカおよびユーコンの上)のものと比較することができた。このデータによると、西部に比べて東部では3倍ほど多くの粒子が見つかっていた。

また東部では繊維が50%ほど長く、赤外線シグネチャーはバージンポリエステルのものに非常によく似ていた。これは繊維が比較的新しいものであることを示している。

「繊維が北極圏などの環境に移動すると、時間とともに劣化して古くなります」と、ロスは説明する。「赤外線シグネチャーは日光や化学的なプロセス、細菌による分解などで変化するのです」

調査結果によると、繊維の劣化は西部地域で見つかった繊維においてより顕著だった。これらを総合すると、粒子の大部分は東部から西部に移動し、移動するにつれ劣化が進むことを意味していると科学者は考えている。

太平洋から北極海西部への海水の流入はいくらかあるものの、大西洋から北極圏東部に流入する海水のほうが多い。このため大西洋から流入する粒子のほうが、はるかに多いようだ。マイクロファイバーはしばらく渦を巻いて浮遊し、劣化して古くなり、その多くは北極圏西部にたどり着くのだろう。

長距離を移動するマイクロプラスティック

この調査結果は2020年9月に発表された研究とも一致する。9月の研究では、北極海の堆積物には排水とともに海に流れ出たブルージーンズの繊維が非常に多く含まれていることが確認された。

また、マイクロプラスティック粒子は海水の流れによって海洋のいたるところに運ばれ、最終的には海底の“ホットスポット”にまとまって堆積することが別の科学者のチームによって発見されている。

つまり簡単にいえば、マイクロプラスティックの粒子やファイバーは長い距離を移動する、ということだ。この新しい調査は、北極海に繊維が大量に堆積していることを確認しただけでなく、繊維がどのようにしてそこにたどり着いたのかも説明してくれる。欧州やカナダ、そして米国の東海岸沿いの排水処理施設が大西洋に無数のマイクロプラスティック粒子を流出させており、これが海水の流れに乗って北極圏にたどり着くと考えていい。

空気中の移動も、どうやらマイクロプラスティック粒子の移動にひと役買っているようだ。科学者は以前、北極圏の雪1リットルあたり最大14,000個のマイクロプラスティック粒子が含まれることを確認している。そして、これはヨーロッパ大陸から風で運ばれてきた可能性が高いと結論づけられた。

研究者たちはまた、波が砕け散るときに多くの繊維の粒子を含む水しぶきが空中に舞い上がり、放り出された粒子が空気中を漂うことも観測している。

「これは将来のマイクロプラスティックの研究に貴重なデータセットを提供する重要な研究です」と、ストラスクライド大学のマイクロプラスティック研究者のスティーヴ・アレンは言う(アレンはこの研究に関与していない)。「非常に詳細な調査結果です。洗濯によってマイクロプラスティックの繊維が環境に放出されており、これに迅速に対処する必要があるという議論の信憑性を高めるものです。汚染の影響は1カ所にとどまらないという事実を改めて浮き彫りにしています」

わたしたちにできること

残る大きな問題は、こうしたマイクロプラスティックが周囲の生態系に与える影響だろう。海底の堆積物にはマイクロプラスティックの粒子が大量に含まれ、稚魚がこれらの粒子を食物と誤って食べてしまうことがすでに確認されている。

「これがすでに食物連鎖にどれだけ組み込まれているのか調査する必要があります。食物連鎖は当然のことながら、地球温暖化によってすでに十分に危機に晒されているのです」と、アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所の海洋生態学者のメラニー・バーグマンは指摘する。バーグマンは北極圏のマイクロプラスティックを研究しているが、この新しい研究には関与していない。

それでは、このいたるところに存在する汚染物質をどうすればいいのだろうか。人類が合成素材でつくられた衣類を、ただちに段階的に排除していく可能性は低い。だが、わたしたち消費者がファストファッションをやめるようにブランドに要求することはできるだろう。

合成繊維でつくられた安価な衣料であるファストファッションの場合、洗濯するたびに簡単にマイクロファイバーが放出される。また政府が洗濯機メーカーに対して、繊維片を捉えるフィルターを付けるよう義務づけることもできる。そうなるまでは、消費者の側で自宅の洗濯機にフィルターを後付けしたり、マイクロファイバーを通さない特別な袋に入れて洗濯したりといった取り組みが期待される。

はるか彼方の山頂から海の底まで、地球全体にわたるマイクロプラスティック汚染の主な要因が衣類であることを示す証拠はますます増えている。この新しい研究も、その一環をなすものだ。

「このような合成繊維の使用を減らすか、貯留施設や下水処理プラントを改良することによって問題に取り組む必要があることを、調査結果があらためて浮き彫りにしています」と、海洋生態学者のバーグマンは言う。

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