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新型コロナウイルスのワクチン接種が本格化すれば、「物流」などの新たな課題が顕在化する

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 新型コロナウイルスのワクチンに対する緊急使用許可が米国で下り始め、医療関係者を皮切りに接種が始まった。一方で、一般市民への接種に向けて解決しなければならない新たな課題が浮き彫りになっている。それはワクチンの物流や警備、そして接種の管理に必要なシステムの構築などだ。

TEXT BY GREGORY BARBER

WIRED(US)

MICHAEL CLEVENGER/GETTY IMAGES
MICHAEL CLEVENGER/GETTY IMAGES

トラックや航空機に積まれた新型コロナウイルスのワクチンの第1陣が、12月13日の朝にミシガン州の中心部にあるファイザーの工場を出発した。警察による警護がつき、メディアのカメラがその後を追いかける。ドライアイスの詰まった特殊な箱で梱包されたワクチンはマイナス70℃に保たれ、全米50州にある数百カ所の病院や保健当局に運ばれていった。ホリデーシーズンの配送ラッシュが最高潮に達するなか、複雑な「物流のダンス」を踊ったというわけだ。

これらの初回分には限りがあるが、大部分は前線で新型コロナウイルスの治療にあたる医療従事者の腕に接種される。ニューヨークで働く看護師のサンドラ・リンゼイもそのうちのひとりで、14日に接種を受けた。

フロリダ州オセオラ郡の緊急事態管理官ビル・リットンは、この「トンネルの先の光」を見て誰よりも喜んだ。しかし、15日にオーランド地区で初回の接種が実施された際も、リットンの頭の大部分を占めていたのは「トンネル」のほうだったのである。

すでに20,000回分のワクチンが到着した地元の病院システムは、数週間かけてほぼ自力で対処していくだろう。今月下旬に接種予定の高齢者施設については、大手薬局チェーンが手がけることになっている。

だが、リットンや地元の保健当局は、これから取り組む必要のあるさらに大きな課題のための訓練やミーティングに数カ月を割いてきた。交通の便の悪い場所に住む大勢の多様な住民グループに、どうやってワクチンを接種するのかという課題である。

フロリダ州において州当局は、一般市民への接種を(医療関係者と高齢者のあとに)2月下旬、もしくは3月はじめに開始したいと考えている。だが、スケジュールは簡単にずれ込む可能性がある。

膨らむ物流コスト

鍵となるのは、12月に入って米食品医薬品局(FDA)が最初に承認したファイザー製と、まもなく承認される見通しのモデルナ製という2種類のワクチンの生産が滞りなく進むことだけではない。治験の最終段階にあるほかのワクチンの着実な供給も、その要因となるのだ。

今回の事業の規模の大きさや複雑さは、近年実施されたほかの集団接種が小さく見えてしまうほどだ。移動診療所や集団処置施設のほか、ワクチンの保管やデータシステムの経験が少ない小さな医院での接種が計画されているエリアもある。

各州は物流コストについて、数十億ドルの支援を連邦議会に要請している。だが議会では、包括的な支援の検討がなかなか進まず、地方や州の当局が医療従事者を接種リストに載せることができなくなっている。

「予定よりもだいぶ遅れています。間違いありません」と、Association of Immunization Managers(AIM)の常任理事であるクレア・ハナンは言う。AIMは州および地方の保健当局と接種計画について協力している。

期待される進展

オーランドのすぐ南に位置し、37万5,000人が住むオセオラ郡において、リットンの頭にあるのは目前の課題の膨大な規模のことだ。郡の職員は、エリア内でドライブイン方式もしくはウォークイン方式で接種可能な場所6カ所を選定した。なかには現在、新型コロナウイルスの検査に使われている場所も含まれている。

そうした場所のひとつで、毎年「Silver Spurs Rodeo」が開催されているオセオラ・ヘリテージ・パークには、まもなく看護師や救急救命士のチームが到着し、曲がりくねった車列をつくって並ぶ人々に接種を開始する可能性がある。この公園のような広い屋外の場所は使い勝手がいいのだと、リットンは言う。なぜならソーシャル・ディスタンス(社会的な距離)が必要であり、接種後に副反応がないか確認するために15分を要するからだ。

連邦議会の政治家たちが支援について議論している間、リットンは支出や超過勤務の記録をとっておくように言われている。医療費の払い戻しの可能性があるからだ。大きな医療施設や薬局での接種が始まれば、こうした不確定な部分はかなり解消すると思われる。

「今週(12月の第3週)は目を見張るような進展が見られるでしょう」と、AIMのハナンは言う。極めて低い温度まで冷やされたワクチン容器を温めたり、ワクチンを希釈したりする方法など、デリケートなファイザー製ワクチンの取り扱い計画もそのなかに含まれる。

またスタッフは、アレルギー反応などの副反応を避けるために病歴を尋ねる方法も学ぶことになる。キットの準備や患者との相談、接種作業にかかる平均時間といった細かい要素も、大規模な接種が予定されている場合には大きな影響がある。

進化した通知・追跡機能

今後数週間には、各州が接種の追跡や日程の設定に使うことを予定しているコンピューターシステムも試験運用される。想定通りに進めば、州の接種名簿と連携したシステムを使って接種に訪れた市民が事前に適格性を知らされ、申し込みできるようになるはずだ。そうすれば現場で使う書類が少なくて済むだけでなく、接種した数を毎日報告するよう指示されている地方のスタッフの作業も軽減される。

各州や疾病管理予防センター(CDC)は、それによってワクチンの配布状況を追うことができる。接種対象の市民には電子的な通知に加え、自分が接種した日や、3週間か4週間後(接種されたワクチンの種類による)に2度目の接種を受けるようにとのメッセージが記された物理的なカードも渡される。

このような通知・追跡機能は、2009年のH1N1型インフルエンザのときのようなワクチンキャンペーンで使用されたものから大幅に改善しているのだと、ワクチンのITシステム改善を推奨している団体American Immunization Registry Associationのレベッカ・コイルは指摘する。一方で新たなシステムには、特に大規模なものであれば不備がつきものだ。ワクチンの記録管理に広い経験を有する病院システムを皮切りに、今後数週間でこれらのシステムが試されることになる。

「まずは簡単なデータの採取から始めます」とコイルは言う。「わたしの想定では、改善の機会があるはずです」

かかりつけの病院で接種しないことのデメリットのひとつは、2回目の接種のあとに接種された人を長期にわたって追跡する点にある、とヘミ・トゥワーソンは言う。トゥワーソンはDuke-Margolis Center for Health Policyの上級研究員で、州の接種計画を確認している。

そうして長期的な追跡は、ワクチンへの信頼を醸成する上で欠かせない。「実際の接種に集中するあまり、どの州もこの点について考える時間がないのです」と、トゥワーソンは語る。

ワイオミング州の保健当局によると、同州のティトン郡では第1陣として、地域の病院に975回分のファイザー製ワクチンが届いた。ティトン郡では23,000人の住人が、4,200平方マイル(約11,000平方キロメートル)の土地に点在している。このため今年すでに、病院の職員がCDCのガイダンスを無視してワクチン保管能力のある冷凍庫を購入していた。

「運よく購入していたのです。とてもありがたいことです」と、郡の保健長官ジョディ・ポンドは言う。その結果、この病院は現在、州の西半分の大部分に供給できるだけのファイザー製ワクチンの保管拠点となっている。

警備という別の課題

ワクチンはいまのところ、「少しずつ到着している」とポンドは言う。だが当局は、住民が広く点在する同郡の全体で、より大規模なキャンペーンを実施する準備を整えている。

このような地域では、移動式を選ぶほうが合理的だろう。今年の初秋に当局は、例年のインフルエンザワクチンを試行する場として移動式を採用した。RV車をレンタルし、ワクチン活動で地域を回ったのだ。RVのキッチンテーブルは、ワイオミングの冬において新型コロナウイルスワクチンを接種する際に便利だと、ポンドは考えたのである。野外ではインターネット回線への接続が制限されるので、オフィスに戻った際に接種のデータを記録することになる。

ポンドは警察の支援という別のニーズも考慮していた。空路や陸路での輸送には厳重なセキュリティが敷かれたが、地方への輸送の際もそうなるだろう。特にワクチンの供給に限りがあったり、均等でなかったりすればなおさらだ。

ティトン郡では、かつてH1N1ワクチンの生産の問題で不足が生じ、接種を待つ人の列で小競り合いが起きたことを思い返す看護師もいる。「何かが不足している場合、それが人間の性です。人は手に入らないものを欲しがるのです」とポンドは言う。

郡の保健当局には、自分の番を予約する方法を問い合わせる電話がかかってきている。そこでポンドは、接種の優先順位が確定すれば自分の順番を知らせる通知が来るのだと教え、電話しても順番が先になるわけではないと諭している。

だが、彼女は関心の高まりを好ましく思っている。さしあたってポンドの第一の関心事は、これらのワクチンが安全で、十分なテストを受けていると広く知らせることだ。そしてそのときが来たら、全員に接種してほしいと願っているという。

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