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見た目も触感も本物そっくり!? 3Dプリントされた人間の“心臓”は、こうしてつくられた

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 人間の心臓と見た目も触感も本物そっくりな“人工心臓”を、3Dプリント技術で形成する手法が発表された。素材は海藻由来の柔らかい素材であるアルギン酸で、これにより外科医が手術前に患者の心臓のコピーを使って練習することも可能になる。さらに将来は、もっとリアルな人工心臓に血液を流すといったことまで期待されている。

TEXT BY MATT SIMON

TRANSLATION BY YUMI MURAMATSU

WIRED(US)

PHOTOGRAPH BY EMAN MIRDAMADI/DANIEL SHIWARSKI/JOSHUA TASHMAN
PHOTOGRAPH BY EMAN MIRDAMADI/DANIEL SHIWARSKI/JOSHUA TASHMAN

SFドラマ「ウエストワールド」の冒頭では、ヒューマノイドロボットが3Dプリンターによって形成される様子が描写されている。このロボットは人体と同じような非常に複雑なパーツが精巧に組み合わされているので、セックスもできる。そしてロボットたちには多くのバイオメカニクス的な調整が施されており、やがて生きた人間を大量に殺害するようになる。

それはさておき、このほどある研究チームが、生きた人間を3Dプリントする技術の実現に向けて科学的に大きな前進を遂げた。ヒトの心臓のMRIスキャンから心臓の模型を形成する技術に低コストの3Dプリンターを応用する手法を、学術誌『ACS Biomaterials Science & Engineering』に論文として公表したのだ。

3Dプリントでつくられた心臓は実物大で、柔らかくて変形させることができる。手に持って握ると、まるで本物のような感触だ。しかも、この模型を切り開くと、心室まで再現されている。

この技術は、「ウエストワールド」の殺人ヒューマノイドをいつか実現するためのものではない。外科医が手術の前に、患者の心臓の模型を使って練習する方法を提供することを目指している。この進歩は最終的に、完全な機能を備えた人工心臓を3Dプリンターで形成する技術につながるかもしれない。医療機器の開発者は、かつてないほど精巧なプラットフォームで機器をテストできるようになるかもしれないのだ。

海藻由来の柔らかい素材を活用

研究チームは、この技術のことを「Freeform Reversible Embedding of Suspended Hydrogels(FRESH)」と呼ぶ。研究チームは最初に実物の心臓をスキャンし、3Dデータを3Dプリンター用のデータに変換するスライサーソフトウェアで処理する。そして3Dプリンターは、素材の層を順に重ねることで造形していく。「このソフトウェアによって、素材が押し出されるパスが層ごとに定義されます。そのデータを3Dプリンターに入力するのです」と、論文の共著者でカーネギーメロン大学の生物医学エンジニアであるアダム・ファインバーグは語る。

3Dプリンターから生成される心臓は、海藻由来の柔らかい素材であるアルギン酸でつくられている。アルギン酸は低コストであり、素材としての性質が人間の心臓組織に似ているという。この手法は、通常の3Dプリンターでプラスティックを使って何かを成形するときのように空気中に押し出すのではなく、アルギン酸をサポート材であるゼラチンの中に押し出す。

「わたしが手に持っているのが形成された心臓の模型です。サポート材はヘアジェルのようなものだと想像してください」と、ファインバーグは言う。ジェルの入ったボトルの中にとどまった小さな気泡のことをイメージしてほしい。ジェル素材はいつまでも、少なくともジェルをボトルの外に絞り出すまでは、泡が浮くために十分な強度を維持している。

心臓の模型を形成する際には、3Dプリンターからアルギン酸を注入するための針がゼラチンの中へと入り込んでいき、それをゼラチンが支える。「押し出しされた素材はすべて、(ゼラチンの)中にとどまります。ヘアジェルの気泡のような感じですね」と、ファインバーグは語る。

この人工心臓の形成には、通常とまったく異なる点がある。心臓が形成されると周りについているゼラチンを溶かす必要があるが、研究者たちはよく知られている手法を採用したのだ。

「多くの人が同じようなことを、菓子づくりやゼリーづくりでゼラチンを使う際に経験したことがあると思います」と、ファインバーグは言う。「ゼラチンは温めると液体になりますが、冷やすと固体のジェルになります。これを利用したのです」

つまり、心臓を取り出す準備ができたら、容器の温度を人肌程度に温める。こうしてサポート材のゼラチンを溶かし、3Dプリントした心臓を取り出すわけだ。

“血液”を流す

これまでも外科医たちは、手術の前に患者自身の臓器をスキャンして3Dプリントした心臓の模型を使っていた。しかし、これは硬いプラスティックを使う古い手法だった。これに対してアルギン酸でつくられた新しい心臓は、本物の組織に近い弾力性がある。

「握ったり押したりすると同じように形が変わります。硬いゴムやプラスティックと比べると明らかにずっと弾力性があります」と、ファインバーグは語る。外科医が縫合を練習するときにプラスティックでは糸を通せなかったが、これならより現実的な練習が可能になる。

さらに研究チームは、同じ技術を使って冠状動脈の個別の部位を3Dプリントし、血液のような液体を流せるかも確認した。疑似血液を送り込むと、動脈は研究チームが予想した通りに血液を漏らさず運ぶことができたという。

これは相互に接続された血管系をもつ心臓をつくる第一歩になると、ファインバーグは語る。この方法なら、外科医は血液が流れている状態で動脈の縫合を練習できる。

いつになれば実用化できる?

さらに研究チームは、3Dプリントした心臓を最終的に「細胞」によってつくりたいと考えている。つまり、人間の心筋細胞を構造に追加することで、本物のように拍動させるのだ。

こうした細胞はすでに研究室で培養されており、科学者が幹細胞を採取して心臓細胞に分化させている。問題は、少なくとも現時点では一度に1億個の細胞しかつくれないことだ。実物大の心臓には1,000億個の細胞が必要になる。「この問題を解決できれば、すぐにでも始められます」と、ファインバーグは語る。

それでは、生体組織から3Dプリントした実際に機能する臓器は、いつになれば実用化できるのだろうか? 「答えは、10年以上先です」と、ファインバーグは言う。「できるようになるまでには、やるべきことがたくさんあるのです」

心臓には血管が複雑に配置されているので、冠状動脈の一部を生成した技術を心臓全体にスケールアップさせなければならない。さらに筋肉として実際に機能させるには、研究室における細胞の生産能力を向上させる必要がある。

もっとリアルな心臓に

いま初期段階にある心臓の3Dプリント技術は、それまでは外科医による手術の練習に役立つことだろう。「非常に重要なのは、今回の心臓の模型では触感がはるかに本物に近くなったということなのです」と、心臓の集中治療医でトレーニングツールとしての3Dプリントを研究しているリリアン・スーは語る(スーは今回の研究に参加していない)。

外科医は患者の心臓をスキャンして3Dプリントした模型によって、患者や家族と手術内容についてコミュニケーションをとったりもできるかもしれない。「この質感は本当に斬新だと思います」と、スーは言う。「予定されている手術について、家族は外科医がどのような執刀プランを立てているのか説明を要求するようになると思います。そして、これはインフォームド・コンセントの一部になっていくでしょう」

このアルギン酸でできた心臓は、材料のコストが10ドル(約1,040円)ほどなので、将来的には病院で安価に提供されるはずだ。ファインバーグたちは別の素材を試すことにも意欲的である。コラーゲンを使って心臓を3Dプリントすれば、さらに本物のようになるだろう。コラーゲンは結合組織を構成するたんぱく質として、人体に含まれているからだ。

実際に乾燥重量では、わたしたちの身体はコラーゲンが占める重量がいちばん大きい。しかし問題は、コラーゲンのほうがはるかに高額なことである。同じ心臓を3Dプリントするにしても、2,000ドル(約20万8,000円)はするだろう。

だが、心臓手術は複雑かつ大がかりなので、2,000ドルは最小限の投資と言える。「コラーゲンを利用したさらにリアルな心臓には、それだけの価値があると考えています」と、ファインバーグは語る。「それでも研究室で研究をしているときに、わたしたちは最初の手段としてアルギン酸に焦点を当てたのです。技術開発にはたくさんのミスがつきものですからね」

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