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アップルの「MagSafe」は、ついにスマートフォンにおける磁石の“正しい使い道”を証明する

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 アップルが「iPhone 12」シリーズから、磁石を用いたワイヤレス充電システム「MagSafe」を導入した。実はスマートフォンに内蔵した磁石によって外部機器を装着するアイデアは、すでにモトローラが実用化していた。その試みが成功することはなかったが、アップルならうまくやるかもしれない。

TEXT BY ALEX LEE

TRANSLATION BY CHIHIRO OKA

WIRED(UK)

アップルのiPhone 12シリーズは、「Qi」規格のワイヤレス充電用コイルに磁石を組み合わせたユニットを内蔵しており、位置合わせを不要にしている。PHOTOGRAPH BY APPLE
アップルのiPhone 12シリーズは、「Qi」規格のワイヤレス充電用コイルに磁石を組み合わせたユニットを内蔵しており、位置合わせを不要にしている。PHOTOGRAPH BY APPLE

いまから4年前、レノボはサンフランシスコで開催したイベント「Tech World」で、「モトローラ」ブランドのまったく新しいスマートフォン「moto z」を発表した。壇上に立ったブランドアンバサダーのアシュトン・カッチャーは、この新型スマートフォンを「本物の完全なゲームチェンジャー」と呼んでいる。

その理由とは? 外装に4個の磁石を内蔵していたからである。どこかで聞いたような話だ。

この磁石によってmoto zは、背面に「moto mods」と呼ばれる拡張モジュールを装着することができた。70インチ(178cm)の映像を投影できるプロジェクター、画角360度のカメラレンズ、20時間もつモバイルバッテリー、スピーカー、プリンター、背面カバーなど、さまざまなモジュールが用意されていた。

このアイデアは面白そうだったが、それほどメジャーな存在にはならなかった。そして18年の「moto z3」発売の直前に、レノボがmoto mods関連の製品ラインを縮小する方向で周辺機器メーカーと協議を進めているという噂が流れた。19年の「moto z4」は販売が振るわず、レノボは後継モデルを出す方針については沈黙を守っている。

こうした経緯を考えると、アップルが「iPhone 12」で磁石によるアタッチメント「MagSafe」を導入したことは皮肉に思える。moto modsはまったくはやらなかったが、アップルの試みは成功するかもしれない。理由はいくつかあるが、まずは肝心の磁石から見ていこう。

“機能拡張”ではない使い道

アップルの磁石の使い方は、モトローラのそれとは大きく異なる。moto zシリーズの場合、拡張モジュールを装着する際には、バッテリーから給電するために16ピンの専用コネクターに接続する必要があった。また、モジュールは磁石の力だけで固定されており、やはりモジュールで機能拡張できる「LG G5」のように金具で留める方式にはなっていない。

一方、MagSafeは“機能拡張”するためのものではない。ハードウェア・システム・エンジニアリング担当副社長のデニス・テオマンは今回のオンライン発表会で、iPhoneの内部にコイルと磁石があり、ワイヤレス充電規格「Qi」と互換性があると説明している。

内蔵ユニットに磁石が含まれるている理由は、「位置合わせと効率」のためである。これにより、特に位置合わせしなくても充電器などを正しい位置に装着できる。MagSafeのユニットには磁気センサーとNFCも組み込まれており、磁場の強さを感知することが可能だ。

テクノロジーに特化した分析企業Techsponentialの創業者であるアビ・グリーンガートは、モジュールという考え方は一般的な消費者よりエンジニアに好まれるのだと指摘する。「基本となるユニットにさまざまなものを追加していくという考えは、消費者の購買行動モデルと合いません。スマートフォン単体でも消費者の購買意欲をかき立てられるようにすべきなのです」

モトローラの失敗

iPhone 12の磁石の主な役割は充電を簡単なものにすることで、それ以外のアクセサリーは“おまけ”のようなものだ。そして、対応する製品も純正品は充電器、シリコーンケース、カードなどを入れられるポケットのみと、シンプルでわかりやすいラインナップになっている。

もちろん周辺機器メーカーは、すぐにこの規格を採用したアクセサリーを発売するだろう。アップルのテオマンは、「拡大を続ける強固なエコシステム」を構築するために、MagSafeが「革新的な手法」で使われていくよう期待していると説明する。すでにベルキンがMagSafe向けの車載充電機とマルチ充電ドックを発表したほか、オッターボックスも近くMagSafe対応のケースを売り出す予定という。

これに対してmoto zシリーズの場合、アップルとは違って拡張モジュールはおまけというよりは、使っていく上で必要なものという位置づけだった。定期的にモジュールを付け替えることが想定されていたのである。IDCでデバイスとディスプレイ関連を担当するラモン・ラマスは、moto modsがうまくいかなかった理由は、ほかのスマートフォンで実現していた機能を拡張というかたちで追加しようとした点だと指摘する。

「カメラやバッテリーパック、スピーカーといったmodsモジュールは、moto zの既存の機能と重複するものがほとんどでした」と、ラマスは説明する。「最近のスマートフォンは、多くがかなり高画質の写真を撮れます。デジタル一眼レフと同水準の写真を撮れる拡張モジュールがあっても、魅力を感じるのはごく一部の消費者に限られるでしょうね」

modsはどれも非常に高価だったことも足を引っ張った。例えば、JBLのスピーカーモジュールは96ポンド(約13,000円)、360度カメラは240ポンド(約32,000円)、ポラロイドの写真プリンターは150ポンド(約20,000円)といった具合だ。iPhone 12には素晴らしいカメラとスピーカーが搭載されている。それに、写真を印刷するためだけに150ポンドの追加デバイスを購入したいだろうか。

MagSafeが「うまくいく」と言える理由

アップルは、モトローラの教訓から学んでいた。iPhone 12で前面に押し出されたのは5Gで、これに新しいデザインとカメラ性能が続く。あくまでMagSafeは、数あるの機能のひとつとして紹介されている。

モバイル分野の市場調査会社Omdiaのダニエル・グリーソンは、「モトローラは数あるAndroidスマートフォンのなかで目立つために、modsにかなり力を入れていました」と指摘する。「modsは過度に注目された上に、スマートフォンそのものは注目の度合いに比べて期待外れという結果に終わったのです」

グリーソンは、アップルがMagSafeで同じ失敗を繰り返すことはないだろうと言う。MagSafeを過剰に宣伝すれば、他社製のアクセサリーの性能でiPhone 12の評価が決まるという事態を招く。「MagSafeは、“きちんと機能する”iPhoneの魔法のひとつという位置づけです。何もしなくてもきちんと動くということは、iPhoneの大きな強みです。ほかのブランドの似たような機能は、iPhoneと比べると劣っている感じがします」と、グリーソンは言う。

MagSafeがうまくいくであろう理由は、究極的には非常にシンプルである。アップルは市場価値2兆ドル(約209兆円)の超巨大企業で、iPhoneは年間数百万台が売れている。これに対し、moto zシリーズの米国での市場シェアは20年6月時点でわずか0.3パーセントにとどまる。英国では人気のある上位50機種にすら入っていない。

つまり、周辺機器メーカーは製品互換性の認定が始まる前から、MagSafe対応のアクセサリーを多数用意してiPhone人気にあずかかろうとする、これに対して、moto modsの拡張モジュールに関心を示す企業は少ないだろう。また、メーカーだけでなく販売店も、MagSafeのアクセサリーを目立つ場所に置いたとしても、moto modsの関連製品に同じ待遇を与えることはしないはずだ。

それでもモトローラの試みによって示されたことがあるとすれば、アップルのソフトなやり方が成功すれば、MagSafeは無限の可能性を秘めているという点である。

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