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バンドルサービス「Apple One」から、アップルによる“市場独占”という未来が見えてくる

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 アップルが有料のサブスクリプションをひとまとめにバンドルしたサービス「Apple One」を発表した。この種のサービスは過去にも多くの企業が提供してきたが、アップルが提供すること別の筋書きが見えてくる。それはハードウェアと緊密に連携したサービスによって、アップルがさまざまな市場を独占していくというシナリオだ。

TEXT BY STEVEN LEVY

WIRED(US)

PHOTOGRAPH BY APPLE
PHOTOGRAPH BY APPLE

新型コロナウイルスが原因の新機軸なのか、それとも単に大きなニュースがなかっただけなのかはわからない。だが、アップルが9月15日(米国時間)に実施したイベントでは、新製品の発表という華々しい場としては珍しい特徴が見られた。それは簡潔さだ。

イベント全体の長さは1時間を少し超える程度だった。発表の目玉は「Apple Watch」の新しいバージョンで、(“高価な安物”としての不幸な船出を経て)フィットネスツールとしての路線を継承している。また、低・中価格帯のiPadの刷新も大きな話題のひとつだった。

しかし、アップル最高経営責任者(CEO)のティム・クックのプレゼンテーションのなかで最も興味深かったことは、一連のハードウェアではない。アップルが提供するサブスクリプションサービスをバンドルするという、新たな戦略である。

このバンドルサービスは「Apple One」と名付けられている。「One」というフレーズからはさまざまなポップソングが頭に浮かぶし、『ロード・オブ・ザ・リング』に登場する宝石「一つの指輪(The One Ring)」を思わせることも気になる。

“お得”なサービスの中身

サービスのアイデア自体は、よくあるシンプルなものだ。アップルの複数の有料サービスを、個別に購入した場合の合計料金よりも安く月額課金で利用しませんか、というものである。

この手のサブスクリプションの代表例が、おびただしい数のチャンネルが含まれたケーブル番組のバンドルだった。少なくとも、利用をやめたくなるほど肥大化して高額になるまで、多くのチャンネルは一度も観ずに終わる。

テレビ市場で見かけるバンドルサービスの負の側面のひとつは、運営会社が回線だけでなくコンテンツも扱う場合に、競合企業のチャンネルより自社番組をひいきしてしまうということだ。そんなわけで、オーディオストリーミングのライバルであるSpotifyは、即座にApple One(全プランに「Apple Music」が含まれている)に抗議した。

新たなバンドルサービスは、「iCloud」のストレージを組み入れることで有利なスタートを切ることになる。アップル製のデバイスには、そもそも無料で利用できる5GB以上のストレージを理論上は必要としないはずなのに、そのままでは不便極まりないという好ましくない秘密がある。「iCloudのストレージを増やさないとあれもこれもできない」というメッセージが、絶えず表示されるのだ。

したがって、ストレージは増やしておくべきである。特に、「プレミア」という月額30ドル(約3,130円、日本では未提供)の最上位プランに含まれる2TBは役に立つ。ちなみに下位プランは、ストレージの容量もサービスの数も少ない。例えば「Apple News」(日本未提供)が読めるのはプレミアだけだ。最近までアップルは、2TBのストレージだけで月に20ドルを課金していた(これは6月に半額になっている)。

バンドルの真の魅力

余談になるが、個人的に語るに値するのはプレミアプランだけだ。なぜなら、ほかのプランはサービスの数が少なく、「One」の名に値しないからである。明らかに1(one)未満で、せいぜい「0.4」とか「0.6」がふさわしいだろう。

本題に戻ろう。このバンドルの魅力を引き上げるであろう真の要因は、ライバル企業が太刀打ちできないようなものを届ける能力がアップルのサービスにあることだ。つまり、iPhoneやiPad、Apple Watch、それにアップルのほかのサービスとの強固な連携を図れる。

その最たる例が、プレミアプランに含まれている新サービス「Apple Fitness+」だ[編註:日本での提供は未定]だ。このサービスは独自のフィットネス動画を特徴としており(まさにエアロバイクのブランド「Peloton」が提供するようなサービスだ)、iPadやPCから利用できる。

ワークアウト動画はApple MusicやApple Watchとも連動しており、ダウンロード可能なプレイリストが利用できるほか、Apple Watchで取得した生体データにリアルタイムでアクセスできる。例えば、心拍数を確認するようにインストラクターから言われた場合、Watchの画面にその数字が大きく表示されるのだ(もし今回の製品発表会の最中にPelotonの幹部がApple Watchの電源を入れていたら、心拍数は危険なレベルまで上がっていたことだろう)。

「Fitness+」のポテンシャル

サービスの統合は、まだ初期段階にある。最終的には、人工知能(AI)のインストラクターがリアルタイムでユーザーのワークアウトの内容を(心臓発作のリスクに基づいて)変更する--といった未来も想定できるだろう。

それでも、ライバル企業にはないアップル独自のシステムには違いないし、アップルが有する圧倒的なスケールで展開されることになる。そして忘れてはならないことは、ほかのサービスも詰まったバンドルの一部としてApple Fitness+を利用できるという点だ。セットになっているほかのサービスが気に入れば、試してみたくなるかもしれない。

今回の発表会のあとPelotonのCEOは、アップルのプロダクトは「フィットネスコンテンツの正当化」であり、銃殺隊が狙いを定める前に目隠しを拒否する人物が見せるような虚勢だと語っている。もしアップルが独自のフィットネスバイクやルームランナーを発売することになったら(ティム・クックはジムに足繁く通っているから、ありうる話だ!)、ハードウェアとサービスの二段攻撃によってPelotonはSchwinnのようなブランドの二の舞になるだろう。

あらゆる市場を独占する未来

いまのところ、Apple Oneにあまり派手さはない。だが、将来的に新たな製品と結びつき、あらゆる市場を独占する姿は容易に想像できる。

アップルがクルマをつくった、と仮定してみよう(確かに長らく噂になっている自律走行車のプロジェクトは棚上げになっているが、アップルは6月に自律走行車のスタートアップを買収した。倒産寸前の会社ではあったが)。そして、アップルがクルマとバンドルする可能性のあるサービスを考えてみたい。

音楽サービスは、もちろん含まれる。加速しているときはドライブチューンの出番だ。「メッセージ」をクルマのシステムと融合して、サービスが必要なタイミングでアラートを送ることも考えられる。地図アプリ「マップ」のパワーアップ版も考えられるだろう。

そしてApple Watchとの融合もあるかもしれない。ドライバーがうとうとしていることが生体データから判明した場合に、クルマを路肩に寄せて止めるのだ。

ポイントは、アップルにはそのような統合のメリットがあり、競合する企業にはおそらくない、ということである。もし「Apple Car」でSpotifyをストリーミングすることになったら、アクセルをベタ踏みしているときにステッペンウルフの「ワイルドでいこう!(Born to Be Wild)」が自動的に流れてくるようなことはないだろう。

理想的ではなかったタイミング

Apple Oneはハードウェアと融合したサービスを伴うことで、アップルユーザーをさらに自陣に引き込むためのひとつのステップである。しかし、タイミングは理想的とは言えないかもしれない。

アップルに対してはいま、批評家や一部の議員が「反競争的」と非難する行為について厳しい調査が進められている。アップルのプロダクトが自社プラットフォームで提供されている第三者のアプリと競合している事例において、そのような行為が確認されたというのだ。

一例として、App Storeで販売するアップルのライバルは、収益の30パーセントをアップルに支払わなくてはならないという決まりがあるが、アップルにはそのような負担はない。反トラスト的な懸念についてアップルの調査に当たっている面々が、Apple Oneも詳細に調べることは間違いないだろう。

司法省にとってApple Oneが訴訟を進める転換点になるなら、今回の簡潔なイベントがアップルにとって「驚きのバンドル」になる可能性もある。

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