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NASAの次世代宇宙服は、AIの力を借りて設計されている

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 米航空宇宙局(NASA)が、約40年ぶりに大幅なアップデートを加えた次世代宇宙服を発表した。2024年の有人月面着陸でも使われる予定のこの宇宙服は、部品の一部が人工知能(AI)によって設計されているという。その理由とは?

TEXT BY DANIEL OBERHAUS

TRANSLATION BY MITSUKO SAEKI

WIRED(US)

PHOTOGRAPH BY JOEL KOWSKY/NASA
PHOTOGRAPH BY JOEL KOWSKY/NASA

月面に有人基地の建設を計画している米航空宇宙局(NASA)は、その第一歩として2024年までに再び月に宇宙飛行士を送ろうとしている。そのときに宇宙飛行士が着る宇宙服は、2019年10月に発表された次世代型の宇宙服になる。

「xEMU」の略称で呼ばれるこの船外活動ユニットは、NASAが約40年ぶりに大幅な改善を加えたものだ。砂塵の舞う月面で長時間の任務にあたる宇宙飛行士たちが活動しやすいようデザインされている。

例えば、かがんだり手足を思い切り伸ばしたりといった、これまでできなかった動作が可能になり、着脱もしやすくなった。また、より体にフィットするよう部品を交換したり、数カ月ずっと修理せず着用し続けることもできるという。

だが新型宇宙服のお披露目では、最大の改善点が明らかにされていなかった。xEMUの背部にあり表からは見えないポータブルタイプの生命維持装置のなかに、最も重要な改良が施されていたのである。

この改良によって、かさばる布のかたまりだった宇宙服は、ひとり乗りの宇宙探査機に変身した。新しい生命維持装置が宇宙服への電力供給や通信、酸素供給、温度管理といった作業を一手に引き受けてくれるので、飛行士たちは尿からつくったコンクリートでロケットの発射台を建築するといった重要な任務に専念できる。

さらに史上初めて、生命維持装置に使われる部品の一部を人工知能(AI)に設計させることも試みるのだという。

理想の部品をAIで設計

ジェシー・クラフトは、ダラスを本拠地とする大手エンジニアリング会社のJacobsのシニア・デザインエンジニアだ。同社はNASAから指名され、xEMUの生命維持装置の改良を請け負っている。クラフトら数百名のエンジニアが携わるこのプロジェクトでは、いずれも甲乙つけ難いほど重要度が高いいくつもの業務を、バランスよく慎重に進めていくことが求められる。

言うまでもなく、生命維持システムは安全なものでなければならない。だが同時に、月面着陸船に載せるための重量制限をクリアする軽量さと、ロケット打ち上げの際に生じる猛烈な重力と振動に耐えうる強度も備えている必要がある。「エンジニアにとって非常に大きなチャレンジです」と、クラフトは言う。

狭いスペースに、いかに多くのものを詰め込むか考えるのは、最適解を探す複雑なパズルのようなものだ。航空宇宙工学の技術者たちは、常にこの難問に取り組んでいる。

しかし、2024年までに月面着陸を叶えるというNASAの強気なスケジュールを敢行するには、クラフトらエンジニアたちが部品一つひとつの理想的な形状について何週間も話し合う時間の余裕はない。代わりにエンジニアたちはAIを搭載したソフトウェアを使い、これまでにない形状の部品を高速で設計させている。

「AIは、訓練を受けた人間よりも速く優れた仕事ができる技術だとわれわれは考えています」と、このソフトウェアを開発したPTCのテクノロジー担当上級副社長のジェシー・クアーズ‐ブランケンシップは言う。「ソフトウェア技術のなかには、構造シミュレーション技術や最適化技術など、すでにエンジニアたちが当たり前に使っているものもあります。しかし、AIを取り入れることでさらに高速化を図れるのです」

こうしたエンジニアリングの手法は「ジェネラティブデザイン」として知られている。各部品の最大サイズ、荷重の大きさ、予想される温度環境など一連の要件をソフトウェアに入力し、残りの部分をアルゴリズムに計算させるというのが基本的な概念だ。

AIで人間の思い込みを打破する

PTCが開発したソフトウェアは、敵対的生成ネットワーク(GANs)や遺伝的アルゴリズム(GA)など、複数の異なる手法を組み合わせてAIを構築している。

GANsは、ふたつの機械学習アルゴリズムを競わせて最も望ましいデザインの部品を完成させるというゲーム的な手法だ。実在しない人間の写真をつくるときなどにも、この手法が使われる。

これに対し、GAは自然淘汰の仕組みによく似ている。何種類ものデザインを考え出してはそれらを組み合わせ、最も優れた新しいデザインを選び取るという作業を繰り返すのだ。NASAは過去にGAの手法を用いて、奇妙な形ではあるが目的に最も適ったデザインのアンテナをつくったことがある。

「機械がプロセスを繰り返す回数は、人間の場合の100倍から1,000倍にもなります。われわれの定める数々の制約のなかで、最善の解決策を導き出してくれるのです」と、クラフトは言う。

宇宙服に取り付ける生命維持装置の最終デザインがまだ確定していないことを考えれば、この点は特に強みとなるはずだ。必要な機能が今後わずかでも変われば、エンジニアたちが数週間に及ぶ余分な作業を強いられかねないからである。

最近ではAIを導入したソフトウェアがあらゆるものの設計に使われるようになり、クルマの車台からイス、集合住宅にいたるまで、さまざまなものが新たなデザインに生まれ変わっている。

アルゴリズムが考え出す部品の見た目はかなり変わったものになりがちだ。無数の穴が開いていたり、流線形やひも状だったり、余白部分がたっぷりとられていたりする。

「AIを使ってデザインをインスパイアしたいのです」と、クラフトは言う。「われわれの発想は、直角や平面、端数の出ないサイズといったものに偏りがちです。人間がデザインすると、どうしてもそうなってしまいます。AIはこうした思い込みを打ち破り、誰も見たことのない新しい答えを示してくれるのです」

数グラムの違いが目標をぐんと近づける

いまのところ、AIに与えられた任務はさほど重要ではない部品の設計のみだ。「まだ初期の試験段階なので、壊滅的な失敗を招く恐れのある部分はAIに任せていません」と、NASAのクルー&サーマルシステム部門に勤務するメカニカルデザイナーのショーン・ミラーは言う。

いまアルゴリズムが使われているのは、固定用の金具や生命維持装置のサポート構造部分の品質改善といった部分だ。AIの使い道としては派手さに欠けるようだが、有用である。これまでAIのおかげで、いくつかの部品を最大50パーセント小型化することができた。宇宙まで行くとなると、ほんの1gの積み重ねがものを言うのだ。

「有人着陸装置に必要なものを決める際、NASAでは想定されるすべてのものに質量を割り当てます。決められた数字は絶対に守らなければなりません」と、ミラーは言う。「このため、どこかでコンマ数ポンドでも削ることができれば、ミッション達成に必要な重量制限の目標値に近づくことができるのです」

NASAが初めて人類を月に送った50年前、コンピューター科学者たちにとって人工知能は夢のまた夢だった。月面基地はまだ実現していないが、AIの力を借りればそれも時間の問題にすぎないように思える。

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