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ミシュランガイドに“サステナビリティ”の評価軸、新設された「緑のクローバー」マークが波紋

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 「ミシュランガイド」に2020年、有名な赤い“星”に加えて新たなマークが登場した。この「サステナビリティ・エンブレム」と呼ばれる緑のクローバーは、サステナビリティを積極的に実践しているレストランに与えられるとされているが、当のシェフたちからは評価の意義について疑問の声も上がっている。

TEXT BY ISOBEL MILLER

TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO

WIRED(UK)

2020年のミシュランガイドの発表イヴェントの様子。MARTIN BUREAU/AFP/AFLO
2020年のミシュランガイドの発表イヴェントの様子。MARTIN BUREAU/AFP/AFLO

 2020年のミシュランガイドの発表イベントの様子。MARTIN BUREAU/AFP/AFLO

シェフたちは毎年の「ミシュランガイド」が発行される時期になると、期待と不安が入り混じった気持ちになる。星を獲得できるのか、それとも取り消されるのか--。それによってレストランの運命が決まるからだ。

2020年のミシュランガイドには、高級レストランであるかどうか判断するための新しい基準が追加された。それが緑のクローバーである。サステナビリティの実践によって環境保護に取り組んでいるレストランの功績を評価し、また奨励するマークだという。最初に発表されたのは20年1月に開催されたフランスの授賞式で、続いて北欧諸国向けのイベントでも披露された。

ミシュランガイドの国際部門責任者であるグウェンダル・プレネックによると、この「サステナビリティ・エンブレム」によって「サステナブルな料理に全力を注ぎ、その結果サステナブルな社会に貢献している最も献身的なシェフを見出すこと」ができるという。これまでのところ、フランスで50店舗、北欧諸国で27店舗が「業界のロールモデル」に指定されている。

サステナブルな料理の未来を指し示す試み

革新的な取り組みによって、調理方法をよりサステナブルなものにしているレストランに焦点を当てることは、120年の歴史を誇るミシュランガイドにとって正しい方向への一歩に思える。料理界で長らく崇拝されてきたミシュランガイドだが、ここ数年は批判の的になっている。ミシュランガイドが求める完全主義が、農産物の無駄使いを助長させ、過度なストレスを感じるような職場環境を生み出していると考えられているからだ。

このためシェフのなかには、星を「祝福」ではなく「呪い」であるとして返上した人もいる。有名なところでは、マルコ・ピエール・ホワイトが1999年に三つ星をすべて返上している。ミシュランの世界と、それがもたらすプレッシャーに幻滅したことが理由だという。また現在は多くのレストランや客が、料理を評価する基準としてミシュランガイドは時代遅れだと見ており、その傾向はますます強まっている。

こうした批判を念頭に置いて生み出された緑のクローバーと、それに付随する「サステナビリティ・アワード」は、シェフと環境の両方にとってよりサステナブルな料理の未来を指し示しているように思われた。ミシュランはようやく、料理の最前線にいるシェフを評価するようになり、その手段と方法を活用することで、より環境にやさしい外食業界を実現し始めたように思われたのである。

ミシュランの姿勢に疑問を呈した有名シェフ

だが、そう思わないシェフもいる。デンマークのコペンハーゲンにある一つ星レストラン「Rel?(レレ)」のオーナーシェフのクリスチャン・プリージは、20年2月に自身のInstagramに感情的な動画を投稿し、ミシュランが代表する「高級料理の伝統」の中心にあるアプローチを批判した。

プリージによると、ミシュランは「自然の豊かな恵みを小さな点や円に切り抜いている」という。環境的にサステナブルな実践を試みようするシェフの責任とミシュランのやり方は、根本的に相いれないとプリージは考えている。ウェブサイト「レレ・コミュニティ」の記事でプリージは、この緑のクローバーの正当性に疑問を投げかけている。

17年に「ファーム・オブ・アイデアズ」という実験的農業プロジェクトを立ち上げ、レストランで使う農産物を育ててきたプリージは、ミシュランガイドがサステナビリティを重視する気になったと聞いて、最初は喜んだ。しかし、自分のレストランが選出された理由を問い合わせたところ、その評価はレストランへの電話1本だけによるものだとわかった。

プリージのレストランであるレレは、店名の横にサステナビリティ・エンブレムを表示する権利を2つの質問に基づいて獲得した。1本の電話によって「監査も質問票もなく、(中略)重要といえるような質問も一切ないまま」、レレはサステナブルな料理のパイオニアとしてミシュランガイドに記載されることになったと、プリージは記事に書いている。

この件にについてミシュランにコメントを求めたが、返答は得られていない。ミシュランは以前、サステナビリティの表彰の対象になるレストランは、「最初に当社の調査員による調査結果と、匿名での訪問調査に基づいて選択されている」と説明していた。そして質問票と電話を使用するのは、「レストランの取り組みとシェフの考えをまとめて、ミシュランガイドのウェブサイトに掲載するためだ」と付け加えている。

マーケティング戦略にすぎない?

毎朝農場から農産物が届き、美しい料理に姿を変えて客に提供されるレレは、「世界で最もサステナブルなレストラン」という賞を2度受賞している。プリージ自身はまだまだ改良の余地があると言う。だが、レレは実験や教育を通して、サステナブルな料理の取り組みや、サステナブルな社会の実現に投資しているレストランだ。

それなのに、ミシュランのサステナビリティ・エンブレムが自分の取り組みとは相いれないと、プリージがこれほど強く思うのはなぜなのか。

かつての影響力はいくぶん失ったとは言え、ミシュランガイドはいまでも料理界で最も権威のあるレストランガイドのひとつだ。このため、環境的責任の問題についてレストランに説明を求めることができる強い立場にある。だが、これといった評価プロセスもない緑のクローバーは、ミシュランガイドを「若返らせ」、新世代を引き付けようとする試みだとプリージは見ている。

要するに、これはマーケティング戦略にすぎないのだと、プリージは断言する。サステナブルな有機農業と廃棄物ゼロの取り組みの熱心な提唱者として、北欧諸国のほかのシェフたちと一緒に食文化を変えようとしているプリージは、料理の世界における真の取り組みを「バカにしている」として、緑のクローバーを批判した。

「有害無益」なエンブレム

中身のない賞は、サステナビリティの実践としてわたしたちが受け入れるものについての危険な先例をつくるかもしれない。ミシュランには、透明性があるという評判はない。星獲得の基準とプロセスは公開されておらず、わかっていることといえば、調査員がレストランを訪れる回数が3~10回の間に入ることくらいだ。

このプロセスは捉えどころがないものだが、責任はシェフにあるとされる。そして匿名による複数回の来店で、品質が維持されているかどうか試される。

一方、緑のクローバーを獲得する基準はやや不明確だ。コペンハーゲンにある「Amass(アマス)」のオーナーシェフであるマット・オーランドは次のように語る。「事実確認は一切ありませんでした。何を言っても大丈夫だったでしょうし、それで賞の対象にもなれたでしょうね」

オーランドは、リストに載っていた多くのレストランが、食の方法を変える取り組みのなかで極めて重要な役割を果たしていると確信している。とはいえオーランドに言わせれば、新しいエンブレムはこの取り組みを評価するうえで「有害無益」だという。

「わたしたちはいま、近い将来に食材を手に入れることができるかどうかという点で、重要な転換点に立っています」と、オーランドは言う。「わたしたちは食材の調達方法や利用方法を変える必要があります。それも即座にです。サステナビリティを単なる“流行”と見て飛び付こうとするような中身のない行為は、ひと握りの人々が生涯をかけている取り組みの信用を地に落とす危険性があります」

“オーガニック”の二の舞に?

こうしたシェフたちにとって今回のサステナビリティ・リストや賞は、透明性が欠けていることで有効性が損なわれている。レストランのサステナブルな実践を評価するための枠組みがなければ、ミシュランガイドはコミュニティのリアルで複雑な仕事を適切に評価することはできないからだ。

それに、緑のクローバーがシェフの責任を問うこともできない。レストラン業界の関係者たちに、状況を改善するよう求めることもできない。

適切な説明責任がなければ、「『地元産』や『廃棄物ゼロ』や『サステナビリティに責任をもつ』といった言葉はすぐに、『オーガニック』という言葉と同様に無意味なものになるでしょうね」と、オーランドは言う。

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