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アップルが打ち出した“低価格路線“は、本当に新たな成長戦略につながるのか?

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 アップルがiPhoneの最新モデルを発表した際に目を引いたのが、新たに打ち出した“低価格路線”だった。エントリーモデルの「iPhone 11」は前モデルよりも価格が下がり、さらに旧モデルを値下げして継続販売することも明らかにしたのだ。こうした戦略はアップルのエコシステムの規模を拡大し、サービスを販売するという新たな成長戦略に貢献するのだろうか?

TEXT BY DAPHNE LEPRINCE-RINGUET

WIRED(UK)

DREW ANGERER/GETTY IMAGES
DREW ANGERER/GETTY IMAGES

アップルの最高経営責任者(CEO)であるティム・クックは、毎年恒例となった新製品発表会で再びステージに立った。ところが注目されたのは、iPhoneの光沢仕上げの本体やトリプルレンズのカメラだけではなかった。製品の価格に関するアップルのスタンスが目を引いたのである。

極めて異例なことだが、アップルはiPhoneのエントリーモデルである「iPhone 11」の価格を699ドル(日本では74,800円)からに設定したのだ。これは昨年の同時期に発表された同じくエントリーモデルの「iPhone XR」の当時の価格より、50ドル(日本では10,000円)安い。さらに注目すべきなのは、11の発売に合わせてXRの価格を値下げし、発売から2年経ったiPhone8の価格を449ドル(日本では52,800円)からに設定したことだ。

それだけではない。アップルは「Apple Watch」の最新モデルである「Series 5」を発表したあと、2世代前の旧モデルである「Series 3」を199ドル(日本では19,800円)からに値下げすることを明らかにしたのである。これはワイヤレスヘッドフォンの「AirPods」と同等の価格だ。

「『1』で始まる価格を設定したことはアップルの大きな意思表示です」と、調査会社であるCCS Insightのモバイル業界アナリストであるベン・ウッドは言う。「おかげでとても手が届きやすくなり、Fitbitのような競合にとっては厳しい状況になるでしょうね」

ユーザーの心変わり

プレミアム価格で有名なアップルが、たとえ旧モデルであっても低価格路線にシフトしたことは驚きだ。しかし、昨年の販売実績を見れば、この心変わりの理由を説明できるかもしれない。アップルにとって2018年のベストセラーは、649ドル(日本では69,800円)からのiPhone XRだった。つまりエントリーモデルの販売が、ハイスペックな「iPhone XS」や「iPhone XS Max」を上回ったということになる。

言い換えればスマートフォンの購入者は、アップルの最高のスマートフォンを手に入れるために余分な金額を払いたくない、ということでもある。アップルは中国で昨年、一部のiPhone、iPad、Mac、AirPodsの価格をおよそ6パーセント値下げした。これは中国におけるiPhoneの販売数が「予想以下」だったことに対応したものという。

調査会社のStrategy Analyticsでエグゼクティブディレクターを務めるニール・モーストンは、次のように語っている。「アップルのファンは現在の価格設定にうんざりさせられていて、iPhone 11にはもっと安くなってほしいと思っています。心理的な境界線である1,000ドル(約11万円)を突破してしまったことは、多くの人にとって行き過ぎだったのです」

いまどきのスマートフォンは、より性能が高くなり、長く使えるようになっている。その事実を考えれば、iPhoneユーザーが高価な新モデルへの投資にあまり関心をもたなくなった、ということだろう。

鍵を握るエコシステムの規模

アップルがiOSを利用するユーザーの“忠誠心”を維持しようと考えていることは、誰の目に明らかである。いま起きていることは、ゲームのルールが変わってきた、ということなのだ。

結局のところ、互いに連携し合っているアップル製品というエコシステムに組み込まれているユーザーたちは、さらにアップルのサービスも追加購入する可能性が最も高い。すでにiPhoneを使っているなら、Apple Payで決済したり、Apple Musicに加入したりするはずだ。

そこでアップルは、スマートフォンやスマートウォッチの価格を引き下げることでiOSの顧客ベースを補い、そのエコシステムのなかでほかのサービスを利用する可能性がある新規顧客を引きつけようとしている。

「アップルにとっては困難な移行期でしょうね。相反する複数の目標のバランスをとる必要がありますから」と、調査会社であるCanalysのシニアアナリストのベン・スタントンは言う。「ハードウェアの売上と急成長している新サービス部門との微妙なバランスをとらなければなりません」

サービスという新しい挑戦

サービスはアップルにとっての新たな挑戦になりそうだ。そして今年になって開かれた発表会の内容が、間違いなくそれを裏づけている。アップルはストリーミングサービス「Apple TV+」を、月額4.99ドル(日本では600円)という破格の安値でスタートさせることを明らかにしたのだ。

11月1日のサービス開始時に用意されるオリジナル番組は9つしかないが、その月額料金はディズニーの「Disney+」やNetflixよりかなり安い。それにアップルは、アップルのデバイスを購入した消費者に1年間の無料ストリーミングを提供している。

アップルがストリーミングプラットフォームのオリジナルコンテンツに60億ドル(約6,500億円)を投資したことを考えると、この価格は「破格」であると、CCS Insightのウッドは指摘する。またウッドによると、これは顧客をアップルのエコシステムに囲い込むために安価なコンテンツを提供しようとしている明らかな事例のひとつだという。

同じようにアップルは、ゲームのサブスクリプションサービス「Apple Arcade」を月額4.99ドル(日本では600円)で9月にスタートさせた。このサービスには親子で共有できる100以上のゲームが含まれている。この料金設定が、既存のiOSユーザーにとって魅力的であることは明らかだろう。

つまり、洗練されたハードウェアのデザインで知られるアップルが、どうやらサービスで競争しようとしているらしいのだ。実際に同社のサービスによる収入は、2020年までに500億ドル(約5兆4,200億円)に達すると予想されている。

新たな戦略は成功するのか?

だからこそ、アップルがiPhone 8やApple Watch Series 3といった古いデバイスを値下げすることは理にかなっている。値下げされたデバイスを購入したユーザーにも、アップルのサービスを売り込めるからだ。

「アップルの主な目標のひとつは、提供するサービスを増やしていくことです。つまり、デバイスに関する顧客のインストールベースが、これまで以上に重要になります」と、Canalysのアナリストである賈沫(ジア・モー)は指摘する。

だが、この戦略はうまくいくのだろうか。アナリストたちは必ずしもそうは考えていないようだ。

Strategy Analyticsのワイヤレススマートフォンアナリストであるリンダ・スイは、新型iPhoneの需要は「軟調」になるとみている。一方、同社のモーストンは、iPhoneの世界出荷台数は前年比で10パーセント減になると予測する。

モーストンにとって、昨年の販売台数の落ち込みや最近の値下げは、iPhoneの健全さを示すものではない。こうした動きをサービスへの戦略的なシフトであると見なすことは、的外れである可能性があるというのだ。「アップルが積極的にサービスを拡大しているのは、悪化するiPhoneの問題から目をそらすための煙幕のようなものなのです」

今のところ確実なのは、アップルのエコシステムが成長していること、そして新しい価格設定のおかげでアップル製品を購入するならベストなタイミングかもしれない、ということだろう。そして気づけば、あなたもYouTubeで毎年恒例の“お祭り”をストリーミングしている世界中のアップルファンの仲間入りをしているのだ。

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