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【ビブリオエッセー】美貌のJ先生と職員室 「新々英文解釈研究」山崎貞(研究社)

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 大阪府庁の前を市電が走っていた頃、私はその北隣にある進学校に通うこととなった。正門前の大きなフェニックスと蔦で前面を覆った木造の学舎が迎えてくれた。昭和27年から3年間のことだ。

 確か1年の3学期からだと思う。副本といわれてこの本が配られた。はしがきによると初版は大正元年秋。3年後に改訂増補で「新」を冠して数十版を重ね、さらに「新々」となったのは大正14年とある。山貞の英文解釈は私の高校時代、すでに受験生の定番だった。

 当時、私の使ったものは例文解説だけで122項目、設問が1031題とぎっしり。今も覚えているのが第1問、「It is the laborious and painstaking men(刻苦勉励骨身をおしまぬ人たち)…」で始まる一文で、猛烈な特別訓練の開幕にふさわしい名文だった。

 津田塾大出身の美貌のJ先生。1週8時間の英語の時間のうち2時間を、この本による本格的な英文解釈の授業に充てた。生徒は設問を和訳できるように予習して授業に臨む。

 それからだ。授業で習ったページ全部を次の時間までに暗誦してくるのだ。誰にどの設問が当たるかわからない。しっかり暗誦できなかったときのお仕置きは翌日昼の休憩時間。職員室のJ先生の前で発表する。長い文章に詰まるとその翌日に再挑戦。常連は私だけではない。いつも大体5、6人。「お前さんもか」と励まし合って職員室へ入った。 

 数年前まで手元にあったこの本を今も思い出す。赤青の線や真っ赤に塗りたくった単語が懐かしかった。あの特訓が受験やその後の外書購読に役立ち、私を英語学の世界へと導いてくれたのだ。忘れられない「古典」である。

 奈良市 元島満義 84

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