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触れずにトイレドア開閉、大阪の町工場に相次ぐ注文

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甲子化学工業が開発した手で触らずにドアを開閉できる装置=大阪府東大阪市(南雲都撮影)
甲子化学工業が開発した手で触らずにドアを開閉できる装置=大阪府東大阪市(南雲都撮影)

 政府の緊急事態宣言が東海、関西、福岡の6府県で解除された1日以降も、新型コロナウイルス感染への警戒は続く。接触感染を防ぐため、不特定多数の人と同じものを触る機会は極力減らしたいが、トイレは生理的に不可欠な場所だ。鍵やドアを手で触れずに開閉できたら-。そんな心理をとらえ、大阪府東大阪市の町工場がアタッチメントを作ったところ、病院や学校からの注文が相次いだ。「人の役に立つ商品を」。商品開発の裏側にはものづくりの原点があった。(西山瑞穂)

きっかけはSNS

 ガラス繊維を混ぜ込んだ頑丈なプラスチック製の「アームスライダーmini(ミニ)」。トイレの個室にあるスライド式の鍵にテープで貼り付けると、腕やひじで鍵が開閉できるようになる。東大阪市に生産拠点を置く加工会社「甲子化学工業」の企画開発主任、南原(なんばら)徹也さん(33)が開発した。

 同社は、メーカーの下請けとしてプラスチック部品を作る従業員16人の町工場。企画開発部門といっても、一昨年に大手ゼネコンを退職し、父親が社長を務める同社に入った南原さんが1人で名乗るだけだ。自社製の独自製品は、このアタッチメントが初めてだった。

 きっかけは、昨年2月ごろに目にした海外での新型コロナ急拡大を告げるSNS(会員制交流サイト)。そうした地域でドアの取っ手に触れるのを嫌がる人が増えたと知り、「日本もそうなる」と確信した。

 自分たちの技術を感染防止に役立てられないか。考え始めて間もなく、ドアの取っ手を腕で開閉できる製品を思いついた。

1カ月で3千個販売

 設計ソフトの使い方はユーチューブで学び、もともと趣味だった3Dプリンターで試作品作りを重ねた。開発費はほとんどかからなかったという。

 「500個売れたら」。昨年6月にインターネットで注文を受け付けると、1カ月で約3千個が売れた。病院や大学、商業施設。在宅勤務ができない企業からもまとまった注文が届いた。

 その後、トイレに特化した製品開発に踏み切った。「接触を意識すると、一番気になる場所」(南原さん)。予感は的中し、一連の商品の利益は本業の利益に並ぶほどになったという。

 コロナの影響もあり、下請けを担う業界の未来は決して明るくない。それでもコロナ禍で、町工場の持つ可能性を強く感じたのも事実だ。「人の役に立つものを作りたいという思いが『ものづくりの原点』。それが結果的に売れる商品になる。町工場にはそんな力がある」

トイレの感染防止、官民で動き

 昨年、新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で国立感染症研究所が行った調査によると、ウイルスの痕跡はトイレ床から最も多く見つかった。専門家は排泄(はいせつ)物を介した感染は確認されていないとするが、トイレのリスク管理に関心を持つ人は多い。

 「ふたを閉めて流す」「水栓レバーや鍵などの掃除・消毒の徹底」-。政府の専門家会議はウイルスの飛散や感染防止のため、こうした対策を提言した。各地の自治体では、コロナ対策で国が配った臨時交付金を使い、学校や公共施設のトイレの洋式化を進める動きも相次いだ。

 社会の動向を企業も注視する。パナソニック(大阪府門真市)は主力トイレ「アラウーノ」の一部に、洗浄前に自動でふたが閉まる機能を追加した。同社のアンケートでは、コロナ対策を意識してふたを閉めて水を流す人は4割に満たなかったが、こうした機能を求める声は増えていた。担当者は「新しい生活洋式に対応していきたい」と述べる。

 東京医療保健大の菅原えりさ教授(感染制御学)は、「トイレでの感染を過度に恐れる必要はない」としながらも「人が頻繁に触るものは避けるのが無難だ」と指摘。「接触なしに人は暮らせない。手洗いや消毒、不用意に顔を触らないことを習慣化することが最も大切だ」と話した。

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